2024/4/15

【管理職登用】能力「以外」が判断基準になっていないか?

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2006年からDEIに取り組んできたリクルートでは、この16年で課長職が3倍、部長職が5倍と、女性リーダーの比率を大きく伸ばしてきた。
女性管理職比率向上を目標としながら、現実には苦労する企業が多いなか、なぜここまで成果を上げることができたのか?
リクルートが実行したのは、あらゆる立場の人が抱えるアンコンシャス・バイアスを徹底的に排除すること。試行錯誤のプロセスを、CO-ENインクルージョン統括室室長・早川陽子さんに解説してもらった。

「新しい価値の創造」を目指し、2030全レイヤー女性比率50%へ

2021年、リクルートではグループ合計で「2030年度までに各階層の女性比率を約50%にする」ことを目指すと発表しました。
これは、取締役構成員、上級管理職、管理職、従業員のすべてのレイヤーで、女性比率を約50%にするという目標です。
この極めて高い目標を達成するには、自分たちの固定観念を手放したり、現在の事業に即さない慣習、風土を変える必要が出てくる。年単位で会社全体を変化させるプロジェクトなので、メンバー一同、大変ながらもワクワクしながら挑んでいます。
といっても、経営方針が従来から大きく変わったわけではありません。
「新しい価値の創造」のために、創業当初から大切にしてきた価値観「個(個人)の尊重」を改めて捉え直し、経営に活かそうという判断です。
この価値観は、経営理念として現在まで受け継がれていますし、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)は「個の尊重」の体現であり、リクルートの成長エンジンだと捉えています。
多様な従業員がいることで、顧客に喜んでもらえるサービスや価値を生み出せる。顧客の喜びが事業成長につながり、株主に利益を還元でき、従業員への投資ができる。
リクルートホールディングス代表取締役社長兼CEOの出木場(久征氏)も、「一人ひとりの違いこそが競争力を生む」「同じ経験、考え方の人が集まって意思決定すれば、間違えるに決まっている」と公に発言しているほど、経営において多様性を重視しています。

DEI施策が「なぜできないのか」に立ち返る

目標に対する現状をお話すると、課長相当の女性が34%、部長は21%、役員とエグゼクティブが12%となっています。(2023年4月時点)
管理職全体で女性比率30%を超えたのが、2023年4月。2006年にDEI推進室の前進となる専任部署ができてから、ようやくここまできました。
特に課長の数字がここまで大きく変わったのは、従業員が2万人近い規模の企業としては特筆できる点だと自負しています。
道半ばですが、ここまで数字を向上させることができた背景に、経営陣と事業部長のコミットメントと、全社横断の取り組みの結実があります。
まずは、経営陣が目標と時間軸を設定しました。その目標を受けて、事業長たちが具体的な「DEI推進の3カ年計画」を作成し、計画に沿ったアクションプランを策定・実行しています。
事業ごとにカルチャーが違えば課題も違うので、現場に根ざした視点が欠かせません。そもそも、現場で作られた計画の方が納得感も醸成されやすいですよね。
各事業で個別具体的に課題を特定しながら、我々DEI推進室は横断的に見て、共通する課題を発見する。そういった役割分担で、最適な計画を作成してきました。
中でも目立った共通の課題が、性別役割分担意識にもとづくアンコンシャス・バイアスであり、解決のために実施したのが「管理職要件の明文化」でした。
当時、事業長たちからは、女性管理職比率向上のために、具体的に何をすればいいのか分からないという声を多く聞きました。
これまでもDEI推進の重要性は理解して、考え付く限りの手を打っているのに、なぜ、女性管理職比率が高まらないのか。非常に悩んでいる状況だったと思います。
DEIは、中長期の実施が必須かつ定量的なインパクトやわかりやすい成功体験を持ちにくい。
そこで徹底したのが、事業にDEI推進室が伴走しながら「Why」を考えることです。
例えば、業績がよい拠点の管理職が全員男性だと、女性の管理職任用にハードルを感じるのではないでしょうか。
こういった場合「どうやったら女性を管理職任用できるのか」を考えると施策が分散してしまいますが、「なぜ管理職は全員男性なのか?」という問いを立てると、変えるべきブロッカーが見えてきます。
重要なのは、「どうしたら変えられるか」というHowではなく「どうしてできないのか」のWhyを考えること。問いを作り、解決する。このプロセスを間違わないことです。
私たちも「なぜ管理職は全員男性なのか?」の問いに向き合い、その解決策として導き出されたものが、管理職要件の明文化でした。

基準の明文化が、バイアスを低減させる

リクルートでは年に2回行う人材開発委員会の中で、管理職任用候補者についても議論しますが、その候補者を決める際の判断基準が明文化されていませんでした。
そして、曖昧だった判断基準を掘り下げてみると、その基準に、能力以外のバイアスが入り込んでいたことが分かりました。
例えば、本人が管理職になる覚悟を示しているか、従来の管理職と同じ働き方ができるか、チームを引っ張るリーダーシップがあるか、いつでもトラブル対応が可能か。
能力以外の側面が暗に判断基準になっており、かつ、その基準は判断する人によってバラバラでした。
これでは、過去のリーダーと似たリーダーの再生産となってしまいます。
結果として、従来型のリーダー像に当てはまらない人は、能力があっても管理職候補者から外れてしまい、任用につながりません。
そこでもう一度、「リーダーに求められる能力」についての議論を行うことにしました。
「多様な事業部が存在し、市場も変化していく中で、本当にこれまで主流だったリーダーシップのスタイルが必要なのか?」
「それはリーダー個人ではなく、チームで補えるのではないか?」
「本当にリーダーに求めるべき能力は何なのか?」
認識のズレを確認し合うなかで、それぞれがバイアスを持っていることに気づき、手放すことにつながりました。
また、管理職要件を明文化することももちろん大切ですが、それぞれの組織が「自分たちの事業はどんな未来をめざし、その実現に向けて、リーダーにどんな能力を求めるのか」を議論する契機となったことが何よりも重要だったと感じています。

「あなたはどうしたい?」だけではついてこない

女性管理職比率を上げるためには、女性メンバーに対して、管理職の魅力付けをしていくことも重要です。
「管理職になりたいかどうかわかりません」と言う女性従業員の声をよく聞きますが、それは「なりたくない」ではなく「できるかどうかわからない」という意味合いが大きい。
ですから、社員の「意欲を引き出すこと」も管理職の役目となります。
「Why are you here?(あなたはどうしたいのか?)」は、リクルートを表す言葉として聞いたことがある方も多いと思います。
ただ、人材が多様化する中で、同じ質問で誰しもの意欲を引き出せるわけではありません。
それぞれに合った意欲の引き出し方とか自己効力感の高め方を学ぶ必要があるんです。
また、女性従業員向けにはキャリア構築・スキル向上支援に加えて、自身の抱えるアンコンシャス・バイアスを排除する「Career Cafe 28」「Career Cafe Next Step」という研修を行っています。
20代後半は、いろいろなライフイベントが周囲で起こり始めます。
それまでに考えずにいた不安やモヤモヤが生まれて悩んでいる時に「管理職どう?」と言われても、ちょっと判断できないだろう、と。
これは捉え方次第ですが、ライフイベントはアンコントローラブルな要素が多いですが、仕事はかなりコントローラブルです。
「コントロールできるうちに、早くキャリアを積みましょう」と、キャリアのWhy・What・Howを作る研修が、28歳前後の女性従業員を対象とした「Career Cafe 28」です。
30代向けの「Career Cafe Next Step」は、さらにステップアップするために自分の強みを自覚したり、キャリアの主体性を高めてもらうことを目的に行っています。
また、30代に入ると自分自身の課題意識もかなり明確なことが多いので、当事者だけではなく、上司やその事業部長とともに計画を描くように進めています。
伝える上で重要なのは、価値観論争にならないよう、定量データをベースに因果関係を説明し、ロジカルに腹落ちしてもらうこと。
DEI推進も同じで、説明可能にするために、ひとつひとつKGIやKPIを設定して実行することで、現場が納得感をもって自律的に行動に移しやすい環境を作るのが、私たちの役割だと考えています。
2030年、女性管理職比率約50%の目標達成までは、道半ばです。
まだまだこれから、ジェンダー平等を一歩目に、あらゆる人が最大限に能力発揮できるインクルーシブなリクルートをめざして、引き続き全社横断でDEI推進に取り組んでいきます。