2024/3/29

SaaSはこれからどう進化する?PKSHAの描く、AI時代の新キャリアとは

NewsPicks / Brand Design Senior Editor
 ChatGPTをはじめ、ビジネスの世界でも生成AIの話題に事欠かない。企業にとっても、AIの活用はもはや必然といえる。だが一方で、AIの導入には一定の専門性がともなう。
 さまざまな企業にAIソリューションやプロダクトを提供し、AI実装を推進する企業・PKSHA Technologyは、2012年の創業以来、AIの研究開発と社会実装を両輪で進めてきた。
 現時点で、PKSHAグループのSaaSプロダクトが稼働している企業は2,600社を超える。いまや同社は、AIの先端企業であると同時に、「SaaSカンパニー」といっても過言ではない。
  そして、AI×SaaSの領域を牽引する同社によれば、「SaaSは今後、企業にとっての『AIエージェント』になっていく」という。
 いま、AI×SaaSの現場で何が起きているのか。SaaSがAIエージェントになる未来とはどのようなものなのか。株式会社PKSHA Communication執行役員の池上英俊氏に聞いた。

AIの社会実装を広げるための「SaaS」

──まず、AIの研究開発と社会への実装を考えるにあたり、「SaaS」というプロダクトがどのような位置づけになるのかを伺えますか。
池上 はい、その前提として、簡単に弊社の説明をさせてください。
 PKSHA Technology(以下、PKSHA)では、企業向けのAI事業として、「AI Research & Solution」「AI SaaS」という2つの領域が存在します。
 前者では研究開発を通じ、クライアント企業ごとのフィードバックを考慮しながらAIソリューションを提供します。
 ただ、企業ごとの個別対応では広範囲な「社会実装」までなかなか至らないという課題があります。
 そこで、社会の広い範囲にR&Dの成果を届けるという役割を担うのが「AI SaaS」なんです。
「AI Research & Solution」で培った機能を、「AI SaaS」で広く展開していく。一方、「AI SaaS」で得たデータを「AI Research & Solution」に還元する。
 このように2つの事業が「共進化」し、先端技術の社会実装へと向かっていくイメージです。
──現在、PKSHAではどのようなSaaSプロダクトを展開されているのでしょうか。
池上 「PKSHA Communication」「PKSHA Workplace」という、大きく2つのドメインで展開しています。
「PKSHA Communication」は、 コールセンターやマーケティング部門など顧客接点のAI化や、オペレーター業務の高度化を行うことにより、顧客体験を向上します。
 チャットボット、ボイスボットによる顧客対応や、音声認識AIによるオペレーターの業務効率化といったプロダクトを有しています。
 もうひとつの「PKSHA Workplace」は、企業と従業員との接点にフォーカスし、社内問い合わせやナレッジマネジメントの高度化を通じ、従業員体験を向上します。
 たとえば、「AIヘルプデスク」というプロダクトは、バックオフィス部門への問い合わせに対してAIが回答を自動生成したり、対話ログやデータから社内ナレッジを構築したりといったことが可能です。

業務をサポートする「AIエージェント」

──それらのSaaSにおいて、AIはどのような役割を果たしているのでしょうか。
池上 まず前提として、「PKSHA Communication」のAI SaaSは、顧客の「疑問・要望」と、企業の「回答・対応」をスムーズに流通させます。
 結果として、顧客の企業に対する信頼が高まり、企業側には達成感を持っていただく。そして、たんなる顧客への質問対応を、新たなサービス提案にまで引き上げることを目標としています。
 そのため、私たちのSaaSには、AIエージェントとして顧客とオペレーターを円滑につなぐ機能を持たせています。
 お客さまがコールセンターに問い合わせたとき、長時間待たされたり、意図した回答が得られなかったりして、イライラした経験がある方も多いのではないでしょうか。オペレーターの側から見ても、負担が大きい状況です。 
 では、ここにAIエージェントが介在するとどうなるか。
 お客さまの電話に出たエージェントが自然な言葉で応対します。その会話の内容から要件が認識され、適切なオペレーターに電話がつながります。ガイダンスに従って番号を選択するようなステップも必要ありません。
 オペレーターの応対中も、エージェントは耳を傾けています。会話の内容を文章化して画面に表示し、オペレーターが次に何を答えればよいかを提案してくれます。通話後に、会話の内容をエージェントが自動的に要約して、記録に残してくれます。
──自ら動く有能な秘書のようですね。「PKSHA Workplace」の場合はいかがでしょうか。
池上 人事や経理など社内での問い合わせについては、定番の質問も多く、ある程度はテンプレートでも対応ができます。ただ、どうしても業界・組織に特有の制度や用語はあるものです。
 そこでPKSHAでは、社内のドキュメントやメール、チャットログなどのデータから、AIが必要な要素を抽出して、企業ごとにナレッジ化を図ります。
 さらに、このナレッジを複数のSaaSを通して循環させることで、従業員体験の向上にもつなげていきます。

部署を超えて「AIエージェント」が連携する

──複数のSaaSの連携がキモなんですね。
池上 そうなんです。私たちが提供するSaaSは、企業の複数の領域で稼働します。部署ごとに役割を持ったAIエージェントが活躍しているイメージを持ってもらえるといいかもしれません。
 それぞれの領域でAIエージェントたちはデータを蓄積し、学習し、その内容をもとに他のエージェントと連携します。また、AIエージェント同士がつながり、複数のチャネルをまたいでデータが循環することで、さらに自動化が進んでいきます。
 AIエージェントは自然言語で対話ができますから、これまでデータとして蓄積されなかったノウハウも溜まりやすくなります。全社横断的にそうしたデータが溜まれば、マネジメントに対して有意義な示唆を与えることなども可能になります。
 私たちはこれらを「PKSHA AI Suite for Contact Center」という概念で総称し、個別のプロダクト導入だけではなく、コンタクトセンター全体のAI化実現を目指しています。
──お話を伺っていると、従来型のSaaSとでは、導入後の伴走の仕方も変わってきそうですね。
池上 そのとおりです。たんにツールとして使い方を覚えてもらうというより、「AIエージェントを使ってどう仕事をするか」を考えていただく形になりますので、私どもとしてもサポートすべきことは多岐にわたります。
「AIがどこで機能しているのか」といった前提知識のインプットや、「アウトプットされたデータをどう解釈するべきか」といった個別の事象への対応まで、お客さまに向き合い、一緒に考える必要があります。
 現場でも、AIエージェントとしてのSaaSをお客さまと育てていくという新しいチャレンジが生まれています。
──導入した企業からの反応はいかがですか。
池上 ありがたいことに、目に見える形での導入効果があるとの声をよくいただきます。
 背景として、効率化や売上アップへの貢献はもちろんのこと、それが従来の取り組みの延長線上ではなく、非連続的な成長として見られる、というのもあるようです。
──なぜ、そこまでの成長が起こるのでしょうか。
池上 理由はいくつかありますが、QCDが同時に成り立つ、というのは大きいかと。
 これまでは、「品質(Quality)」「コスト(Cost)」「納期(Delivery)」がトレードオフの関係にありました。
 ですが、AIエージェントが稼働する領域では、自動化が早まり、時間の短縮とコストダウンが同時に起こりえます。データのサイクルによって品質も向上します。こうした複数のメリットが好循環していくんです。

AI時代のSaaSキャリアとは

──AI事業はハイスピードで拡大中かと思われますが、たとえば現在、PKSHAでSaaSの仕事に携わっているのは、どのような経歴の方が多いのでしょうか。
池上 AI自体が新しいテクノロジーですから、AIに関する業務経験を持って入社してきたという人間はほとんどいません。
 その上で、SaaS系でいえば各職種いますし、コンサル出身者も、広告代理店出身者もいます。さまざまなバックボーンを持つ人間が集まってきていますね。
──ちなみにAI×SaaSの領域では、どのような素養が必要だと思いますか。
池上 私が考えるのは、ひとつは「オーナーシップ」です。
 SaaSがAIエージェント化していくと、コンパウンドな要素が加速していきますから、クライアント企業に対して全体の方向性を提案できる人は活躍の場が広がると思います。
 もうひとつは、「探究心や好奇心の強さ」ですね。
 初めに申し上げたとおり、PKSHAでの仕事は、AIの社会実装に向かって、研究開発と「共進化」しています。直近では、日本マイクロソフトさま支援のもと、大規模言語モデルの開発も発表しました。
 SaaS系の職種出身の方も、これまでの経験にAIの知見が加わることで、活躍の場が広がっていくと思います。
──SaaSがAIエージェント化した先には、どんなビジョンをお持ちですか。
池上 これは意外と直近の課題にもなりそうですが、「AIエージェントをどんな組み合わせで稼働すると最適か」「どのAIエージェントにどのモジュールを組み込めばいいか」などをコーディネートする仕事も生まれてくるかもしれません。
 企業の中でSaaSとして多くのAIエージェントが動き回るようになると、その最適な組み合わせを考えることも重要になってきますので。
 こうしている今も、SaaSとして、約6,000体のAIエージェントが全国各地で業務をこなしています。ここで話したような可能性は、これからますます実現に近づいていくと思います。