2024/3/20

画期的リサイクル技術で米国上場!? 誰もできなかった仕組みとは

フリーランスライター
服から服を、ペットボトルからペットボトルを――これまでにない画期的なリサイクル技術によって、資源が循環する「循環型社会」の実現を目指すベンチャー企業、JEPLAN(本社・川崎市、旧・日本環境設計)。創業者の岩元美智彦会長(59)のモットーは「正しいを楽しく」。その言葉通り、技術だけでなく、あの手この手で人々を楽しませながら巻き込んでいく手法で会社を成長させてきました。世界進出も視野に入ってきた同社の、快進撃の理由を探ります。(第1回/全3回)
INDEX
  • 高尾山の店にある古着回収箱
  • 「リサイクル技術」と「ものづくり」のセット
  • 「水平リサイクル」を商業レベルで実現
  • 利益が出るリサイクルの仕組みで世界へ
岩元美智彦(いわもと・みちひこ) JEPLAN(旧・日本環境設計)取締役 執行役員会長。1964年鹿児島県生まれ。北九州大学(現・北九州市立大学)卒業後、繊維商社に入社。2007年1月、現社長の髙尾正樹氏とともに日本環境設計を設立。2015年アショカ・フェローに選出。著書に『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。

高尾山の店にある古着回収箱

東京都を代表する観光スポットとしてにぎわう東京・八王子の高尾山。その登山口近くに2023年10月、一軒の目新しいショップがオープンしました。
古民家を改装した店内には木材が多用され、シンプルでありながら洗練されたデザインの服が整然と陳列されています。顧客の中心はアウトドアウェアに身を包んだ20~30代。登山帰りの休息を求めて店内のカフェスペースに吸い寄せられた人々が商品を手に取り、生地の質感を確かめています。
高尾山の「BRING CIRCULAR TAKAO」(提供:JEPLAN)
ここだけ切り取ると、単なる登山客相手のアパレルショップに見えますが、この店、「BRING CIRCULAR TAKAO」にはもうひとつ、注目すべき特徴があります。入り口付近に、古着を回収するための金網製の大きな箱が置かれているのです。その中には、さまざまなメーカー製の色とりどりの服が、何十着と山積みになっていました。
店名にもある「CIRCULAR」とは循環の意。そう、この店はリサイクルによる“服の循環”を社会に広げ、定着させるという壮大なミッションを帯びてオープンしたのです。店内に並ぶ商品の多くは、化学繊維の再生ポリエステル100%。その素材は、店を運営するJEPLANの独自技術によって、回収された古着等からリサイクルされたものです。
(提供:JEPLAN)
ただ店内を見回しても、こうした仕組みが大きくアピールされているわけではありません。JEPLANの岩元会長は、こう語ります。
「いきなり『地球環境のため』というと、押しつけがましい感じがしてしまうので、そうしたメッセージを目立つかたちでは出していません。多くのお客さまには、あくまでも商品の機能性を評価して購入していただいています。当社の商品で使うポリエステル繊維は、吸汗性、速乾性に優れているので登山やランニングをする方々にも好評ですし、同時に100%綿製と遜色がない、心地いい肌触りを実現しています。そうやって来店していただくなかで、『なに、回収ボックスがあるの?』と気づくお客さまがいて、コンセプトを知って『リサイクルで、環境にもいいんだ』と理解されるようになって――そうして、より一層、ファンになっていただけるんじゃないかと考えています」
“仕組み”を知った顧客は、次に来るときは古着を持ってきてみようと考えます。古着を提供すると商品の10%割引クーポンがもらえるという特典も呼び水になっているのでしょうが、それだけでなく、服を捨てることによる罪悪感も軽くなります。そして、こうして来店した顧客の何割かは、再びお店の商品を購入してくれて──と、こうした好循環が続くうちに、消費者に服をリサイクルする習慣が自然と定着していくというわけです。
(提供:JEPLAN)
古着の回収が行われているのは、自社の店舗だけではありません。JEPLANはすでに、「BRING」のブランド名で大規模な古着回収・リサイクルのネットワークをつくり上げることに成功しています。回収実施企業は無印良品、GUなどの大型チェーンや、パタゴニアやスノーピークといったアウトドアブランド、三越伊勢丹や高島屋といった百貨店など、200以上にのぼっています(2023年9月12日時点)。
つまり、冒頭で取り上げたショップは、JEPLANが運営するさまざまなリサイクル事業のパズルの1ピースなのです。

「リサイクル技術」と「ものづくり」のセット

岩元会長が2007年にJEPLAN(当時は日本環境設計)を創業したとき、事業の中心は綿繊維からバイオエタノールを生産するリサイクル事業でした。その後、使用済み携帯電話からの貴金属やレアメタルの回収事業などへもビジネスの幅を広げ、現在、主力に位置付けているのが、服などに使われるポリエステル繊維や、ペットボトルのリサイクル事業です。
そんな技術を持つ会社が、なぜ自前でショップまで運営して古着の回収をしているのか――。そこには、こんな理由があります。
「じつは、リサイクル技術だけでは循環型社会は実現しません。古着などリサイクルする原材料を安定的に集める仕組みが大事で、それを技術で素材に戻して、そこからまた新たに商品を作ってお客さまに提供する……そういう“循環”の仕組みをグルグルとまわすことが重要なんです。逆にいうと、これまで循環型社会をつくるといって、できたためしがないのは、こうした循環の仕組みができていないからです」
そして、その仕組みを自ら実践してみせているのが、現在、東京・恵比寿と高尾山の2カ所で運営する自社ショップなのです。
「誰もやってくれないから、やっているんです(笑)。自分たちで『ほら、高機能な製品ができるでしょ』『消費者が製品を買ってくれるでしょ』と見せているわけです。こうした取り組みの効果もあって、さまざまな企業の協力で回収拠点が全国的に増えています」
岩元会長は、ポリエステルは「リサイクルの王様」だと言います。衣料品の素材別シェアは、綿製品が約30%、ポリエステル製品が約60%。また、日本では1995年に制定された容器包装リサイクル法によって、ペットボトルの回収率は90%を超えています。
「インセンティブもなくこれだけペットボトルを回収できるなんて、そんな国は、世界中で日本だけです。そして衣服についても、繊維全体のリサイクルを考えたとき、やはり多くを占めるポリエステルが本命。ペットボトルとポリエステル繊維、このふたつの再生技術は基本的に同じもので、それを循環させる仕組みを確立することが重要だと考えています」

「水平リサイクル」を商業レベルで実現

ポリエステル繊維もペットボトルも、ともに石油からつくられる「ポリエチレンテレフタレート(PET)」という樹脂を素材としています。JEPLANはPETのリサイクルに、ある画期的な新技術を持ち込みました。岩元会長はこう語ります。
「従来の技術はメカニカル(物理的)リサイクルといって、集めた服やペットボトルを細かく切り刻んで、洗ったり削ったりしてキレイにしたうえで再生します。しかし、素材の色や添加物はいくら洗っても落ちません。この方法だと再生するたびに素材が劣化してしまって、リサイクルできるのは数回と言われています」
一方、JEPLANの技術はケミカルリサイクルという手法を用いており、ポリエチレンテレフタレートを分子レベルまで分解して不純物を取り除くことで、石油からつくったものと同等の品質に再生しています。
「この技術ならば、色や添加物も落とすことができますし、なにより何度リサイクルしてもほとんど品質が劣化しません。だから、ペットボトルからはペットボトルを、服からは服を、というように循環のサイクルを何度でもまわしていくことができるのです」
ボトルからボトルをつくるリサイクル図。「BHET」は「PET」を製造する過程の中間生成物(提供:JEPLAN)
服から服をつくるリサイクル図(提供:JEPLAN)
従来、行われてきたような品質の劣化を伴うリサイクルは、階段状の滝から水が落ちていくさまに例えて「カスケードリサイクル」と呼ばれています。一方で、使用済みの製品を同じ製品に再生するリサイクルは「水平リサイクル」と表現されます。
「これから訪れる循環型社会にとって、一丁目一番地になる技術だと考えています。ペットボトルの国内での年間販売量はおよそ60万トンですが、この仕組みが広がれば、国内で完全循環ができる。つまり、生産のために新たに石油を輸入する必要がなくなるんです。石油価格や為替相場の乱高下に影響されることもなくなります。そして、ペットボトルで完全循環を実現できるならば、それをほかのアイテムにも広げていくことができるはずです」

利益が出るリサイクルの仕組みで世界へ

岩元会長が強調するのは、この事業が、政府の補助金などに頼ったビジネスモデルではなく、その事業収益できちんと採算がとれるものになっていることです。つまり、回収した服や、自治体などから買い取った使用済みペットボトルをリサイクルして再び素材や商品として販売することで、リサイクルにかかるコストを差し引いても利益が出ているのです。
「これまでリサイクルはコストが高すぎて採算がとれないといわれてきましたが、ケミカルリサイクルなどの技術の進歩によって、ようやく時代が追いついてきました。いま弊社のペットボトル用の再生樹脂は、飲料メーカーなどからの需要が高まっています。ゴミを買ってリサイクルして利益を出す――そうなれば、ゴミも“資源”になりますから、誰もポイ捨てをしなくなります。こうしてPETなどの『地上資源』を循環させていくことで、新たに石油などの『地下資源』を投入する量を減らしていくことができる。石油の使用量を減らせばCO2の排出量も削減できますし、資源をめぐる争いも減り、ひいては世界平和にもつながるわけです」
世界平和、というと大げさに聞こえるかもしれませんが、JEPLANは実際、すでに世界を視野に入れて動き出しています。2020年からはフランスの企業と提携してPETのリサイクルに関連した技術開発を行っているほか、2024年にはニューヨーク証券取引所への上場を目指しているのです。
「いま現在、国内で自社のリサイクル工場が2つ稼働していますが、もちろん、この規模だけで地球環境全体がよくなるはずがありません。ただ、これが“事業”としてまわっている、という事実が重要なのです。海外でもまだ、水平リサイクルはこれからの分野ですが、日本国内での実績を見て、海外からの投資は増えています。次は海外のパートナーと一緒に、この技術や仕組みをまわしていきたいと考えています。いまはようやく、スタートラインに立った気持ちです」
川崎にあるグループ会社・ペットリファインテクノロジーの工場(提供:JEPLAN)
岩元会長は、さらに“その先”も描いています。
現状、いくら技術力が上がったといっても、なんでもかんでもリサイクルできるわけではありません。さまざまなリサイクルに対応していくためには、その技術開発に途方もない資金と時間が必要になります。そうした“制約”があるなかで、どうやって循環型社会を実現していくのか――。
「これまで、いろいろな製品を集めて、これをどうにか再生してくれ、という話でした。でも、そうではなくて、リサイクルができる製品をリサイクルする、という発想の転換が必要なのです。つまり、あらかじめこちらがリサイクルできる材料などの条件を提示して、その範疇で製品をつくってもらえれば、確実に循環させることができる。リサイクル技術とものづくりをセットにするのです。これまで、その発想がなかった。世界で循環型社会をつくろうと思ったら、“リサイクル技術の枠”をちゃんと提示することが大事なんです」
Vol.2に続く