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各国でここまで違う。映画宣伝ローカル戦略の是非

ダサすぎる日本版ポスター。アベンジャーズの宣伝に批判殺到

2014/5/7
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、トレンドなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピック。木曜日は、ビジネス業界のトレンドを解説します。

2015年のゴールデンウイーク(GW)の映画はまさに“豊作”だった。何をもってして“豊作”であるか判断は難しいが、話題となっている「観るべき」映画が目白押しだったことだけは確かだ。

その中でも注目は2本。

ひとつが、アカデミー賞4冠の栄誉に輝いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。そしてもうひとつがアカデミー賞3冠を獲得した『セッション』である。GW中、この2本の作品をご覧になったNewsPicksの読者も多いだろう。

アカデミー賞では司会のニール・パトリック・ハリスがバードマンのワンシーンを模してパンツ一枚で舞台に登場。聴衆をわかせた(Reuters/Aflo)

アカデミー賞では司会のニール・パトリック・ハリスがバードマンのワンシーンを模してパンツ一枚で舞台に登場。聴衆をわかせた(Reuters/Aflo)

筆者は映画評論家ではないので、作品の批評は専門家やピッカーの皆さんにお任せする。今回はちょっと視点を変えて、「コンテンツの売り込み方」に焦点を当ててみよう。

Pick 1:あなたはどう思う? 『アベンジャーズ』日本版ポスター

先日、このようなトピックが話題になった。

映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のポスターが日本のだけクソダサでコラ画像みたいだと話題にwwwwww” はちま起稿(2015年4月23日)

前作が大ヒットを記録した『アベンジャーズ』の続編『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』である。4月22日に世界の主要な46カ国と地域で公開され、前作のオープニングの興行収入を44%も上回る出足となった。日本での公開は2カ月以上先の7月4日だが、その日本版ポスターが「なんかしっくりこない」とネットで評判になっている。

確かに、海外版と日本版のポスターでは、受ける印象は明らかに異なる。海外版のほうが「スタイリッシュ」だ。

違いは印象だけではない。子細に見ると明らかに異なる点がある。それは「キャラの打ち出し方」だ。日本版のポスターは明らかにハルクが小さい。ハルクはアベンジャーズの一員で他のキャラクターに比べ明らかに体格が大きい。いわば「パワー担当」のキャラにもかかわらず、だ。

それが周囲を飛び回る妖精のような扱いをされている。おそらく初見では、登場人物の中で最も大きいとは気付かないだろう。その代わり、アイアンマンの圧倒的な存在感が際立っている。

Pick 2:味付けの違いを全面に出した好例『ベイマックス』

こうした違いは『アベンジャーズ』だけではない。冒頭に述べた『バードマン』でも同様の「ポスターの違い」は指摘されている。

【海外の反応】映画『バードマン』の日本向け宣材ポスターがダサいと話題にwwwwwww” ユルクヤル(2015年3月3日)

『バードマン』の場合、構図自体は似ているが3点、明らかな違いがある。まずはバードマンの存在。他国のポスターでは主人公の後ろにぼんやりと立っている程度で、凝視しないとその存在はわからない。

だが、一方の日本版では主人公と同等の存在感を放つ。2点目が宣伝文句の強さ。「アカデミー賞最多9部門ノミネート」の強いキャッチはタイトルを食ってしまうほどの、強い赤色でレタリングされている。さらには3点目、他国版が白黒で統一されているのに対し、日本版はカラーが使用されている。

なぜこうしたギャップが生まれるのだろうか。映画ライターの壬生智裕氏はこう指摘する。

「こうしたポスターの違いは、日本の配給会社の宣伝戦略によるもの。最近で有名なのは『ベイマックス』。原作は『スパイダーマン』などで有名なマーベルコミックスで、ヒーローアクション的な要素が強い映画。にもかかわらず、泣ける映画がはやる日本版ポスターではヒューマンタッチな印象を受ける。その国に応じて“受ける”ように変えていくのはしばしばあること」

壬生氏の指摘通り、「味付け」の違いを逆手にとった成功例が『ベイマックス』だろう。本作は、『アベンジャーズ』同様、マーベルヒーローであり、見どころはアクションシーンだ。だが、映画の要素にはヒューマンドラマや絆やヒーローものといった要素が盛り込まれている。

その国の視聴者の感性に響かせるために、どのようなエッセンスを打ち出していくか。各国のポスターを見比べればその違いは一目瞭然。中国版と日本版とでは別の映画である印象さえ受ける。緻密な宣伝戦略がハマった好例と言えるだろう(参照:「世界各国で異なる「ベイマックス」ポスター マーケティング手法の違いが顕著に」)。

たった1枚のポスターが表す、コンテンツの「売り込み方」の違い。各国でどういった「味付け」が受けるのか。ポスターを眺めるのも、ひと味違った映画の楽しみ方だ。

Pick 3(番外編):オリジナルチョイス「ユニーク」なポスター

ここからは編集部と壬生氏が選ぶ「独特な味付け」がされたポスターをセレクト。

ちなみに壬生氏の最も印象的な“日本版”ポスターは『ランボー』だと言う(参考画像:ポスター)。

映画には出てこないニューヨークの摩天楼が印象的だ。そしてこの印象的な赤い夕陽は、デザイナーさんが社員旅行の際に撮影した熱海とのこと。

『007/ロシアより愛をこめて』(参考画像:ポスター)。

この拳銃を持つ手は、当時、日本ユナイト映画という宣伝部にいた映画評論家の水野晴郎氏。

『風の谷のナウシカ』(参考画像:ポスター

日本からアメリカに売り込む時にも同様なことが行われている。ちなみにこのアメリカ版は宮崎駿監督が激怒したそう。

『バーニング』(参考画像:ポスター

この下のほうでシルエットになっている女性は、東宝東和の女子社員だそう。

※Weekly Briefing(トレンド編)は毎週木曜日に掲載予定です。