日本女子inプレミアリーグ_20150415_FC東京

プレミア女子×FC東京 特別対談第4回

広告代理店だけに頼らない自前営業のメリット

2015/5/5
プレミアリーグのビッグクラブで働く本村由希が連載でJリーグ関係者との対談を呼びかけたところ、FC東京の小川知洋・事業部長が手をあげてくれた。対談の最終回となる今回は、日本のスポンサーセールスにおける改善点を考える。
第1回:プレミアリーグとJリーグのスポンサー営業はどこが違うのか?
第2回:ライバルチームとの戦いをクラブがあおるのはタブーか?
第3回:東京五輪をきっかけにFC東京はビッグクラブになれるか?
FC東京の小川知洋・事業部長。部下2人とともにクラブのスポンサーセールスを担当している(写真:木崎伸也)

FC東京の小川知洋・事業部長。部下2人とともにクラブのスポンサーセールスを担当している(写真:木崎伸也)

スポンサーになったら面白いぞと思わせられるか

――もし本村さんがFC東京で働いたら、こんなことができるんじゃないかというのはありますか。

本村:私の経験を生かすなら、スポンサーに段階をつけて、大きいところにはこういう権利、小さいところにはこういう権利というふうに分けることです。

企業のニーズをリサーチして、段階ごとにアクティベーションの提案をつくる。たとえば、アジアに出て行こうとする企業があれば、こういうことができますよ、と。

小川:なかなか段階的な整理はできていませんが、私たちもいくつか取り組みを始めていて、たとえばスポンサー同士でのコラボ企画。スポンサーである飲料メーカーさんが「紅茶はおにぎりに合う」というCMをやっているときに、スポンサーであるコンビニエンスストアさんの「おにぎり」とコラボさせ、クラブのイベントでプロモーションを実施しました。

本村:それはいいですね。

小川:FC東京のスポンサーになって頂いたからこそできるプロモーションにチャレンジしています。

ただ、まだ単発的で、発展させられていない。もっと楽しいこと、もっと話題になることをやって、「FC東京のスポンサーになったら面白いぞ」と言ってもらえるようになりたいです。

本村:楽しさというのは必要ですよね。やっぱりサッカーはエンターテインメントなので。広告っていう発想だけだともったいないです。

小川:広告だけだったら、広告代理店さんに頼んだほうが早いですもんね。

広告代理店を通すメリットとデメリット

本村:代理店は通していないんですか。

小川:代理店さんからの紹介でスポンサーになっていただいた企業も数社ありますが、クラブが直接契約しているほうが多いですね。

本村:そのほうが、クラブの意図が伝わっていいんじゃないですか。

小川:はい。代理店さんならではの良さもありますが、フィルターを通してしまうと両サイドの満足度が上がりづらくなると思うので、脱落してしまうリスクも高くなってしまうと思います。

Jリーグ発足のときは、代理店さんが多くのスポンサーさんを紹介してくれました。クラブもだんだん成長して自社で営業もできるようになったことや、既存のスポンサーさんが新たなスポンサー候補企業を紹介してくれたりするようになって、今の状態にいたっていると思います。

本村:代理店を通していない案件のほうが多いとは、個人的に意外でした。日本は代理店の力が大きい印象があるので。

コストが高くつく私営スタジアム

本村:スタジアム運営は、クラブとは別なんですか。

小川:私たちは民間のスタジアムを借りてやっています。

Jリーグは県営とか市営の公営スタジアムが多いですし、クラブがスタジアムの指定管理業務を請け負って、クラブ自身がスタジアムを運営し、クラブ自身に貸して試合をするという仕組みも多くあります。

でも、FC東京の場合、完全な民間スタジアムを借りているので、どうしてもコストが高くなってしまっています。

本村:プレミアリーグとの比較は難しいことを承知で言うと、プレミアの場合、クラブがスタジアムをもっているので、ミュージアムをつくれるし、オフシーズンに引退した選手のサッカースクールを自由に開催できます。

小川:ヨーロッパのスタジアムにはレンジェンドたちの写真が通路に飾られていたりしますが、私たちはそれを常設できない。試合後に現状復帰しないといけないので。もしパネルを展示しても、毎試合回収しなければなりません。

本村:私が働いているクラブでは、スタジアムのコンコースを使う権利も売っています。コンコースに広告を何枚出せるとか。

小川:FC東京では、大雑把に言うと、ピッチが主催クラブの広告を出せるスペースで、スタンドなどはスタジアム所有者の広告スペースとなります。

本村:それは苦しいですね。

小川:言うまでもないことですが、スタジアムをもっているか、もっていないかはすごく大きな問題だと思います。

プロフェッショナリズムの必要性

――小川さんは対談をされてどう感じましたか。

小川:やっぱりプロフェッショナルですよね。私たちは部署の境界線がはっきりしておらず、みんなで協力し合って頑張ろうというかたち。今後はその良さを生かしながらも、それぞれがプロフェッショナル度を上げていくことが必要なのかなと感じました。

本村:イギリスの人たちは、専門分野として分かれていないとすぐに訴えるので(笑)。労働の対価として、お給料をもらっているという意識。自分の範囲外の仕事はしない。営業の人は営業、広報の人は広報、ソーシャルの人はソーシャル。そうやって分かれてないと、人が動かないんです。日本みたいに和の精神がない。人は人、自分は自分、会社は会社という感じです。

スポンサーセールスに関して言えば、サッカーだけでなく、いろいろなスポーツのスポンサーを見て使えるエッセンスを取り入れることが大事だと思います。

また、プレミアのビジネスモデルが大きすぎるなら、地域密着型のブンデスリーガを見ると参考になると思います。

ブンデスのスポンサー事情を個人的に調べたんですけど、プレミアと全然違いますね。何十社というスポンサーを地域から取っていて、わかりやすいのはシャルケ。ガスプロムといった大きい企業とは別に、地元の小さいドイツの企業とたくさん契約していた。

そういうノウハウをもって、ブンデスからプレミアのクラブに転職して来る人もいます。Jリーグの状況と似ているリーグや他スポーツを見るといいと思います。

小川:なるほど、参考にさせていただきます。日本に帰国された際は、ぜひFC東京の試合を観に来てください。

本村:高校生のときは関東圏のJリーグの試合によく行っていました。ぜひ今度、味の素スタジアムに伺わせてください。

(構成:木崎伸也)