(ブルームバーグ): 日本銀行による2007年以来の利上げが近づいているが、来週の金融政策決定会合では政策変更を見送るとの見方が支配的だ。日銀が2%物価目標実現の確度の高まりを意識しているとみられる中、植田和男総裁が記者会見で示す見解への注目度が高まっている。

ブルームバーグが10-15日に実施したエコノミスト調査では、能登半島地震もあり、全員が22、23日の会合で金融政策の現状維持が決まると回答した。昨年12月会合前の調査では15%が1月会合でのマイナス金利解除を予想していた。日銀の金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)でも、1月会合でのマイナス金利解除の確率はほぼゼロに低下している。

日銀は地震による影響の把握に努めているが、日本経済が緩やかに回復しているとの従来の認識が変更を迫られることはなさそうだ。前回会合以降、国内経済・物価情勢に大きな変化はなく、日銀内では昨年10月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で示したシナリオにおおむね沿った動きとの認識だという。

会合で議論する新たな展望リポートでは、2024年度の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)見通しが、原油価格の下落を主因に従来の2.8%から2.5%前後に下方修正となる公算が大きい。25年度見通し(従来は1.7%上昇)には大きな変化はない見込みだ。最新の見通しなどを踏まえ、日銀は直前まで内外の経済・物価・金融情勢や金融市場の動向を入念に点検して金融政策対応を判断する。

4月解除予想が6割

一方、エコノミスト調査では最多の59%が4月会合でのマイナス金利解除を予想している。前回調査の50%から増加し、日銀が4月会合で政策正常化に踏み出すとの見方に市場は収れんされつつある。7月会合までの解除予想は85%に達している。

楽天証券経済研究所の愛宕伸康チーフエコノミストは、「日銀では既にマイナス金利政策解除の準備を整えていると思われ、あとはタイミングの問題」と指摘。災害時に焦る必要はないとし、「春闘、3月短観、4月支店長会議を踏まえ、4月会合で解除するのが最も自然だ」とみている。

4月25、26日の会合であれば、日銀は中小企業の妥結結果をより多く含む春闘の集計結果のほか、全国企業短期経済観測調査(短観)、支店長会議でのヒアリングなどの内容を精査できる。また、1月から3月までの消費者物価のデータも得られる。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「植田総裁が発するシグナルは、3月以降に結果が出る春季労使交渉が、2%目標を実現するために物価を十分に押し上げる賃上げにつながると判断するまで、日銀は政策修正に動かないことを示唆している」

木村太郎シニアエコノミスト

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賃金と物価の好循環

焦点の賃金動向は、高水準の企業収益と人手不足の強まりを背景に、大企業を中心に積極的な対応を表明する動きが相次いでいる。11日の日銀支店長会議では、昨年よりも早いタイミングでの賃上げ機運の高まりが報告されたが、現段階で多くの中小企業が対応を決めていない中で、賃上げの程度や広がりの不確実性も指摘された。

日銀が持続的・安定的な物価2%の実現に不可欠と位置付ける賃金と物価の好循環の確証を得るには、賃上げとその物価への反映についてさらなるデータの蓄積を待つ必要がありそうだ。一方、関係者によると日銀は今年の賃上げについておおむね楽観的だという。物価目標実現の確度は着実に高まっているとの認識を強めている可能性が大きい。

日銀が市場の見立て通りに正常化に踏み出すかは経済・物価情勢次第だが、植田総裁がハト派的なレトリックの下で進めてきた政策修正や情報発信を受けて、年前半がヤマ場となってきた。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、1月会合で「マイナス金利解除の条件である賃金と物価の好循環達成までの距離感がどのように説明されるか」を注視している。

こうした中、先月28日に1ドル=140円台まで上昇した円相場は、米国の早期利下げ観測や日銀の早期正常化観測の修正が進む中、足元で148円台に下落している。東京株式市場では17日に日経平均株価が一時3万6200円台と、34年ぶりの高値を付けた。一方、金利引き上げで恩恵を受け得る銀行株は、市場全体のパフォーマンスを下回っている。

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--取材協力:関根裕之.

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