[東京 28日 ロイター] - リフレ派の代表的論客とされる野口旭・専修大学教授は27日、ロイターのインタビューで、2年で2%の物価安定目標を達成できなかったことの説明責任は、日銀の黒田東彦総裁にあると指摘した。新たな物価目標の達成期限を設定すべきとの選択肢も示した。

野口氏はインタビューの中で、量的・質的金融緩和(QQE)そのものは「予想以上の大成功を収めた」と語った。

一方、「2年で2%のコミットメント(必達目標)を達成できなかったのは事実」と指摘し、「なぜ達成できなかったか説明責任を果たし、2%目標に達する時期をあらためて提示してほしい」と述べた。

主なやり取りは以下の通り。

──QQEが始まって2年経過した。効果をどうみるか。

「QQEは予想以上の大成功を収めた。反対派は物価目標を達成できなかったと批判するが、2%の物価目標を掲げるのはマクロ経済の安定化に必要だからだ。潜在成長率を(上回る成長率を)達成し、失業率をできるだけ下げることが最大の目標だ」

「成果がもっとも顕著に表れているのが雇用。労働市場が人手不足となり、企業も賃上げをせざるを得ない状況になった。賃上げが政府主導との批判があるが、労働市場がひっ迫しつつあるのが一番の要因だ」

──日経平均株価が2万円の大台に乗せ、バブルへの懸念もある。

「QQEは資産市場に働きかけるのが目的となっており、ある程度円安、株高が起きるのは、それが政策目標達成のための重要な経路。このため株高や債券高に対するバブル懸念は理解できない」

──円安・株高は進んだが、輸出や貸出への効果が限定的との指摘も出ている。

「為替や株と比べれば、貸出や輸出など実体経済への波及に時間がかかるのは当然だ。米国が1980年代にドル高からドル安に転じた際も、(円安転換後一定の期間を経て輸出が増える)Jカーブ効果が現れるまでに3─4年かかった。海外に拠点を移した企業が国内に戻るには時間がかかる」

──QQEで何が想定外だったか。

「昨年4月の消費税率引き上げで、せっかく上向いていたデフレ脱却の道筋に待ったがかかった。消費増税の影響について、黒田総裁は楽観的過ぎた。日銀としても反省すべき。昨年の消費税増税は大失敗だ」

──2年で2%との当初目標への評価は。

「物価目標の達成期限を区切らざるを得なかったのは、『日銀は何もしない』とのデフレ期待が定着していたためだ」

「2年2%のコミットメントを達成できなかったのは事実。黒田総裁として、なぜ達成できなかったか、説明責任を果たしてほしい。消費増税の影響が予想外に大きかったことや、原油価格の急落が想定外であったことを説明し、その上で2%目標に達する時期をあらためて提示してほしい」

──追加緩和は必要か。

「仮に物価目標の達成時期を15年度から16年度に延期し、その場合に物価の上昇経路が想定シナリオからずれるなら当然追加緩和が必要だ」

「今週の金融政策決定会合で、日銀が追加緩和に踏み切るべきかどうかは日銀の判断だ。昨年の消費増税の影響はなくなってきている。雇用環境も崩れていない。昨年10月の追加緩和による円安・株高の効果も非常に効いている」

「追加緩和手段は、原理的には、いくらでもある。現在すでにETF(上場投資信託)などを買い入れている。買い入れ資産に工夫の余地があるが、まだ国債を買い入れる余地はあるのではないか」

──2017年4月の消費再増税はすべきか。

「2017年4月に消費増税を実施するには、その時点までに、構造失業率(まで失業率を低下させること)を達成している必要がある。そこまで行けば景気の過熱を抑える局面なので、消費増税が可能だが、景気がそこまで回復しない段階で増税すれば昨年の二の舞になる」

──QQEの出口戦略はどう描くべきか。

「QQEは永遠に続けられる政策ではない。2%の物価目標を達成した時点で、実質成長率が仮に1%だとしても名目長期金利は3%になる。QQEを永遠に続ければハイパーインフレになってしまう。続けられるのはデフレギャップが継続する場合のみだ」

「QQEへの批判論者は、みな出口での日銀の損失のみを問題視する。緩和の入り口で日銀は金利低下による国債価格上昇で多額の通貨発行益(シニョレッジ)を計上し、納付金の形で国庫に納めている。入口の利益に目を向けず、出口の損失のみ指摘するのは間違っている」

──巨額債務を健全化させる課題も残る。

「2%を達成した後に消費増税を実施すると増税で景気が冷えるので、日銀による資産買い入れ縮小や利上げなどの『出口』は、増税の後になる。黒田総裁の任期中の出口は無理ではないか」

「2020年度までに基礎的財政収支(PB)の黒字化を目指すよりも、現時点では17年までに景気を回復させ、その前の16年ぐらいまでには完全雇用の状態に達することが期待される」

「完全雇用を達成しても財政赤字が出る場合、もしくは財政赤字が十分減る見通しが立たない場合、社会保障の削減・合理化を進めながら、増税も一つの選択枝とするのが望ましい」

(竹本能文 編集:山口貴也)