(ブルームバーグ): 11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は前年比伸び率が2カ月ぶりに前の月を下回った。食料品やエネルギーが前年比の押し下げ要因となった。

総務省の22日の発表によると、コアCPIは前年同月比2.5%上昇と、前月(2.9%上昇)から伸びが縮小した。市場予想と一致した。生鮮食品を除く食料は6.7%上昇と3カ月連続で伸びが鈍化。エネルギーは電気代と都市ガス代のマイナス幅が拡大した。一方、全国旅行支援の影響で昨年押し下げられた宿泊料は62.9%上昇と、1971年1月以降で最大の上昇幅となった。

輸入物価上昇を起点とした価格転嫁が落ち着くのに伴い、消費者物価のプラス幅が縮小していくのは日本銀行の見立て通りだ。金融政策の早期正常化観測が根強い中、今月の日銀決定会合では現行政策が維持され、植田和男総裁からもマイナス金利解除などを急ぐ発言はなかった。市場では過度な政策正常化の織り込みを修正する動きが出ており、引き続き日銀が発信する情報の見極めが重要となる。

大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは、CPIの伸び鈍化について、政府の物価対策の延長が下落圧力となったほか、食料品の値上げの端境期で上昇が一服したところが大きかったと指摘。日銀が「第2の力」と位置付ける賃金と物価の好循環は続いているとし、来年1月の日銀支店長会議に向けて、「人件費の価格転嫁の動きに前進があるかどうか」が次の注目点だと語った。

生鮮食品とエネルギーを除いたコアコアCPIも3.8%上昇と伸びが縮小。プラス幅の縮小は3カ月連続で、4%割れは3月(3.8%上昇)以来、8カ月ぶり。

植田総裁は19日の会見で、「基調的な物価上昇率が、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていくという見通しが実現する確度は、少しずつ高まってきている」とも指摘していた。物価目標実現に不可欠な賃金と物価の好循環の強まりを確認する上で、賃金から物価への波及の面で特にサービス価格の動向などに注目していると述べた。

11月のサービス価格は2.3%上昇と前月(2.1%上昇)からプラス幅を拡大し、消費税率引き上げの影響を除いて1993年10月(2.4%上昇)以来、30年ぶり高水準の伸びが続いた。総務省は、外食や家事関連サービス、宿泊などで人件費の上昇の影響もみられると説明。ウエ-トが低い補習教育や警備など人件費の要素が大きい品目が上昇したという。

野村証券の岡崎康平シニアエコノミストはサービス価格が加速しており、「日銀にとっても明るい動きを確認するような統計になった」とみている。日銀のシナリオ通りの動きの中で、2%の物価安定目標の達成は、予想インフレ率の高止まりや企業の賃上げ継続などの「総合判断」にならざるを得ないと指摘。日銀が1月にマイナス金利を解除し、4月にYCCを撤廃すると予想している。

内閣府は21日公表した2024年度の政府経済見通しで、CPI(総合)の前年度比上昇率を2.5%と前回7月試算(1.9%)から引き上げ、日銀が掲げる2%物価目標を3年連続で上回るシナリオを示した。1人当たりの所得増加率は前年度比3.8%で、所得の伸びが物価の上昇率を上回ると試算している。

詳細(総務省の説明)

  • 政府の電気・ガス価格激変緩和対策事業の影響はコアでマイナス0.51ポイント。対策がなかったと仮定した場合のコアは前年比3.0%上昇
  • エネルギーのうち電気代と都市ガス代は燃料費の下落が影響。ガソリンの前月からの押し下げ寄与は、政府の補助金増額の影響
  • 生鮮食品除く食料のプラス幅が縮小は、昨年に価格改定で値上げが行われた影響が主因。昨年11月は牛乳、炭酸飲料、茶飲料が上昇していた
  • 宿泊料は全国旅行支援によって昨年10、11月に大きく下落した反動に加え、観光需要の回復で足元の宿泊料も上昇傾向にある

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--取材協力:氏兼敬子、Mia Glass.

(エコノミストコメントを追加して更新しました)

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