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再び「ハーフタイム」が訪れるのか?

いよいよ日本の五輪出場が危うい時代がきた

2015/4/23
日本サッカー代表は1996年のアトランタ五輪以降、常に五輪に出場してきた。だが、アジアの他国が急成長しており、日本の優位性は薄れつつある。アトランタ五輪を描いた名著『28年目のハーフタイム』の著者である金子達仁は、今回のチームをどうみているのか。

すべてが気の抜けない試合になる

──金子さんはアトランタ五輪やシドニー五輪のとき、サッカー五輪日本代表を追っていました。今回のリオデジャネイロ五輪を目指すチームをどうみていますか?

金子:日本どうこうというよりも、いよいよクロスポイントが近づいてきたという感じがする。

──クロスポイントとは?

金子:今までは日本がひたすら伸びていたのに対して東南アジアはほぼ横ばいで、両者の実力は離れていく一方だった。ところが、東南アジアの上昇カーブが急になってきている。2つの成長曲線が、いつクロスしても不思議ではなくなってきた。

3月に行われた1次予選ではベトナムにしてもマレーシアにしても、日本相手に内容を度外視して勝ち点を拾いにきたでしょう? 彼らは日本から勝ち点を奪うことを、リアルに想像できるようになっている。

──ベトナムに関しては、三浦俊也さんが監督ということも関係していたかもしれません。

金子:ちなみにマレーシアのキャプテン(ナジール・ナイム)は、元FC琉球の選手(2013年に1年間在籍)。一応、自分がマレーシアに行って獲ってきた選手だから、すごく期待してみていたんだけれど、あんなにディフェンシブにやるとは思わなかった。彼らはガチで守って、勝ち点を盗みにきた。

──実力差が縮まってきたのは、日本にとっていいことなんでしょうか。

金子:長い目でみたらいいことだと思う。気の抜けない試合が、一番能力を磨くわけだから。来年の最終予選では、すべて気の抜けない試合になる。

だから今回の1次予選をみていて、五輪に行けない可能性がいよいよ出てきたなと思った。アトランタ五輪以降、1次予選でこれだけ苦戦したことはなかったでしょ。初戦のマカオ戦は7対0で勝ったけれど、ベトナム戦(2対0)とマレーシア戦(1対0)はいっぱいいっぱいだった。

──リオ五輪に向けた最終予選は、来年1月にカタールで行われます。16カ国中、上位3カ国しか五輪に出場できません。

金子:日本の立ち位置は、それこそアトランタの時に戻った気がする。出られるか、予選で敗退してしまうか、わからない時代が来たなという感じ。

──2004年アテネ五輪の山本昌邦さん、2008年北京五輪の反町康治さん、2012年ロンドン五輪の関塚隆さんの時は、大会に出て当然という雰囲気でしたが、もはや……。

金子:もう違う。その代わりアジア予選を勝ち抜いて出たチームが、どこも本大会でチャンスがある時代になったと思う。それだけアジアのレベルが上がってきたね。まあ中東がどうかは、まだフタを開けてみないとわからないけれども。

──1月にアジアカップで日本を退けたUAEは、良いチームだと思いましたが。

金子:良かったというか、中東らしくないチームだったよね。日本的なサッカーをあそこだけがやってきた。でも、あとは相変わらず中東だった。正直、A代表に関しては、アギーレのチームと中東のチームの実力差は開いていたよね。

ただ、若年層はW杯に出たことがない国や、五輪に出たことがない国は力を入れやすいし、勝つチャンスがある。まさに日本がかつてそうだったわけで。しつこいようだけれど、いよいよ日本の出場が危うい時代がきている。スリリングだよね、今回の最終予選は。

予選でしびれることを恐れるな

──アトランタ五輪の時と、今のチームを比べてどう思いますか? アトランタ五輪の時は川口能活や中田英寿などタレントぞろいでした。

金子:でもアトランタ五輪のメンバーは、当時誰もヨーロッパでプレーしていなかったから。誰もW杯に出たことがある日本代表をみていなかったから。ものすごく大きなポテンシャルと、ものすごく小さな志のチームだったと思う。

それに対して、今のチームは志がでかいよな。すでにヨーロッパでプレーしている選手(レッドブル・ザルツブルクの南野拓実とBSCヤングボーイズの久保裕也)がいるし、さらに94年組(1994年生まれの世代。2011年U-17杯でベスト8に進出した)がいるわけだから。彼らはW杯優勝を本気で狙っている。

ただ、その本気でW杯を狙っている世代が、今回の1次予選で、あのアップアップぶりというのがショックだった。

──ポジティブに捉えれば、アトランタ五輪の出場権をかけた日本対サウジアラビアのような伝説的な試合を見られるかもしれませんね。

金子:勝って当たり前の試合って、みていて面白くない。正直、近年、W杯予選も五輪予選もしびれたことがないけれど、今回の五輪予選はしびれられそうだなと。で、しびれられる試合をしたことのほうが、楽勝で本大会に行くよりも意味があると思う。

──やはり中田英寿らにとって、アジア最終予選が財産になっていると感じましたか?

金子:なっているよね。まあサウジアラビア戦でヒデは途中出場で、さらにサイドバックだったけれどね。で、ライン上で奇跡のヘディングのクリアをした。修羅場って、やっぱり人を成長させると思う。

(聞き手:木崎伸也)

※本連載は毎週木曜日に掲載予定です。