2023/12/25

変化する価値観。Z世代リーダーと探る「暮らしの未来予想図」

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
時代ととともに移り変わっていくライフスタイルや価値観。その渦中にいる「Z世代」たちは、どんな生活を志向し、どのような暮らしのあり方を描いているのだろうか。

その未来像を垣間見ようと、これからの社会を担う「Z世代」のビジネスリーダーたちの座談会を実施。日鉄興和不動産のシンクタンク「リビオライフデザイン総研」メンバーが聞き手となり、未来に通じる暮らしのあり方を探った。

「Z世代」に共通する価値観とは?

八代 今日は、Z世代のビジネスリーダーとして、みなさんにお集まりいただきました。
 そもそもご自身がZ世代という実感や、共通する世代観を感じることはありますか?
イギリス生まれ、鹿児島県鹿児島市育ち。2019年に日鉄興和不動産へ入社後、一貫してマンション開発に従事。シングル向けから再開発大規模、学生マンションまで幅広いジャンルの約20物件に携わり、「リビオレゾンTHURSDAY調布」はグッドデザイン賞(2021年)を受賞した。リビオライフデザイン総研室では、Z世代のマーケティングリサーチを通じて、価値観を反映した商品企画を担当している。
関根 私がCOOを務めている「小杉湯」は、高円寺にある昭和8年創業の老舗銭湯です。
 上司である小杉湯の3代目は43歳なんですけど、興味やジェンダー観、SNSの使い方だとかが、誰よりもZ世代っぽいんです(笑)。
 たとえば男湯と女湯で、メイク落としやドライヤー、化粧水、乳液などの備品に差がありません。それは誰が言ったわけでもなく、3代目に根づいている平等の考え方。
 だから、Z世代の特徴としていわれる「多様性を重視する」といった価値観は、世代特有のものではないと感じます。
上海生まれ。2020年に株式会社ペイミーに入社し、カスタマーサクセス、CRM、マーケティング領域を中心に事業責任者を勤めた後、同年末に取締役COOに就任。2022年に銭湯経営を目指し独立。現在は、高円寺で90年続く老舗銭湯「小杉湯」の事業責任者として、銭湯の運営や新規事業に関わる。小杉湯として、2024年4月に、初の2店舗目となる「小杉湯原宿(仮称)」を開業予定。
佐藤 僕もよくいわれるZ世代の特徴については、ある程度理解できるものの、当事者としてあまり実感がないのが正直なところです。
 世代観よりも、自分が属するコミュニティから受ける影響のほうが大きいかもしれませんね。年齢に関係なく、一緒に仕事をしたり過ごしたりすれば、近い価値観が生まれますから。
宮城県仙台市生まれ。「若者と世界を繋ぐ」を理念に、食やアート、音楽をコンテンツに、人と人、若者と大人、文化と価値観が交わる場と状況づくりをおこなう「The Youth」を創業。2021年、ローカルラウンジ「Echoes」(宮城・仙台)をオープン。2022年、カフェレストラン&ミュージックバーラウンジ「Common」(東京・六本木)をプロデュース、運営する。 現在は、東京と仙台の二拠点で活動中。
椎木 「Z世代だから○○」と、単純にイコールで結べるわけではないですよね。Z世代にも、TikTokをまったく見ない人やジェンダーギャップを認めない人もいますし。
 同世代だから同じ価値観ではなく、むしろ多様な価値観が表れるのがZ世代の特徴だと思います。
 私は10代のマーケティング調査を手掛けています。よく接するZ世代の次に当たる「α世代」は、2010年生まれが最年長で、その子たちはまったく違う世代観を持っていますね。
 Z世代はまだ、幼少期にガラケーがあったりリアルなコミュニケーション中心だったりで、上の世代との共通言語がある。
 α世代の子たちの話を聞いていると、親友のつくり方も変わって、「学校の友だちより、オンラインの友だちのほうが親友と呼べる」といった価値観が当たり前ですから。
東京都千代田区生まれ。中学3年生時に株式会社AMFを創業。慶應義塾大学文学部倫理学科卒業。女子中高生マーケティング集団『JCJK調査隊』を率い、Z世代のマーケティング調査等をナショナルクライアント中心に提供。『JC・JK流行語大賞』は毎年大きな注目を集め、広告換算額は25億円、SNSでのインプレッション数は1日で1.9億回を超えるほど話題に。
八代 なるほど。「Z世代は世代観が見えにくい」というみなさんの声も踏まえながら、続いて私たちの調査結果を見ていきましょう。
 私たちリビオライフデザイン総研は2022年に「Z世代の価値観調査」を行いました。
 16歳から25歳までを「Z世代」と定義し、これより10歳上の世代(Y世代)を含めた800サンプルを対象に、家族や住まい、SNS、お金などについて聞いたものです。
 注目すべきポイントとして、「誰かに自慢したい」「SNSでの暮らしの発信に意欲的」という結果から、「外向き志向」が非常に強い傾向が見られます。
 この点は、上の世代からすると「承認欲求が強い」で片づけられてしまうかもしれませんが、Z世代が単に「発信するのが当たり前」という感覚である可能性もあります。背景について、さらなる調査を継続しているところです。
 また、「新しい出会いを前向きに受け止める」「たくさんの人と交流したい」など、「複数のコミュニティに属している」のも特徴的です。
 よく「今の若者はすぐに辞める」と思われがちですが、Z世代にとっては「自分がマッチするコミュニティを選び直しているだけ」なのかもしれませんね。

評価されたいのは“特定少数”

八代 みなさん、気になる調査結果はありますか?
佐藤 僕は食や音楽やアートを軸に、場や状況のデザインを手掛けているので、「SNS上でのコミュニケーションを重視し、反響数やネットコミュニティを大切にしたい意向が高い」という結果が興味深いです。
 僕個人としては、ここ数年で不特定多数からリアクションが欲しいという気持ちがなくなりました。むしろ、“特定少数”から共感を得たほうが、何かが起こる可能性が生まれる。
 一緒に働く仲間や友人たちに向けて、本当に伝えたいことをシェアするほうが、今は充実感を覚えます。
関根 わかります。小杉湯のSNS運用では発信する内容にこだわっています。
 運用してくれているメンバーを見ていると、「世の中全体から、とりあえず『いいね』をもらおう」とは思っていなくて。
 一方で、小杉湯に通ってくださる方々やファンの方々、小杉湯のカルチャーと親和性のあるアーティストや文化人など、自分たちの中で評価されたい人たちのイメージが明確にある。なので、“特定少数”というキーワードにはすごく納得感があります。
佐藤 そうですね。「最初は特定少数に。結果的に不特定多数に」という流れが理想的だと思います。
椎木 私はSNSトレンドマーケティング協会の代表理事を務めているので、基本的にすべてのSNSに張り付いているのですが……(笑)。
 この10年で、発信に対する抵抗感はとても薄れたと感じますね。
 かつては自撮りを上げただけで叩かれたりしたものですが、最近はインフルエンサーでなくても自撮りをアップします。
 お二人とは違って、SNSに関する調査結果にはあまり違和感がないのですが、私が気になったのは、お金の使い方に関してです。
八代 「Z世代の女性は『自分に』、男性は『誰かと』に、より多くのお金を使いたい」ですか?
椎木 はい。たしかに「Z世代の男性が恋人にお金を使う」という傾向の高まりは感じます。ただそれは、プレゼントやデートの内容をSNS上で発信する行為が背景にあると思うんです。
 友人が彼女の誕生日にどんなプレゼントをあげたかが可視化されるから「自分もそれくらいあげないと」と考える。だから、以前よりも恋人にお金をかける傾向が強まるのではないでしょうか。
 とはいえ、あくまで「お金をかけていなかったところにかけるようになった」のが実態で、結局一番お金をかけているのは、男女共に推し活やファッションなどの「自分に」という印象があります。

時間をかけて生まれる価値への憧れ

関根 結婚観に関する結果も興味深いですね。「『20代で結婚、子どもは2人』という結婚観がある」。これ、すごくわかります。
 最近、周りの起業家の間で「結婚、流行ってない?」という話になって。
八代 流行っている、ですか?
関根 同世代の起業家が20代で続々と結婚して、独身のほうが少ないくらいなんですよ。結婚の形はさまざまですが、みんな結婚も子どもも考えています。
椎木 世間でいわれているほど、結婚願望が薄いわけではないですよね。
 マッチングアプリにたくさん登録する、みたいな軽いリレーションシップを若年層が構築していたのは5年ほど前のこと。当事者からすると、もう“ちょっと古い”感覚です。
 最近は「1人の相手と、ぶつかり合いつつ正面からお付き合いするのがかっこいい」という風潮が戻っているように思います。
 交際期間が長い子も珍しくなく、デートの内容や相手への感謝をSNSでオープンに伝えたりしますから。
関根 そこから結婚願望に至るには、“多様な社会の中で、自分を受け入れ、共感・肯定してくれる人の存在“が、貴重になっている影響が考えられそうです。
 もう1つ仮説としては、“伝統への憧れ”もあると思っています。
 同世代と話してわかるのは、銭湯や神社仏閣をはじめ、古くからあるものに価値を感じやすいということ。変わりゆく社会の中で、どんなに焦っても、時間をかけなければ得られない価値──「普遍」や「伝統」に惹かれるんです。
 こうした価値観からか、私の周りでは結婚式を挙げるだけでなく、結納から進めたという人もいるんです。
 きちんと段取りを踏んで儀式を行うことが、“かっこいいこと”になっている感覚があります。
椎木 実は、私も結納を交わしたんですよ。
 うちの場合は夫が椎木姓になったので、一般的な結納のスタイルとは逆でしたが、「家族を大切にするからこそ、きちんと儀式をしよう」と考えました。
 Z世代の特徴の1つに、親子仲の良さがあります。
 反抗期がない人も多いし、家族を大切にすることを別に恥ずかしいと思わない。なかには、「本当は気が進まないけど、家族を喜ばせたいから」という理由で結婚式を挙げる子もいるくらいです。

「東京」という街の魅力を再定義する

八代 ここからは、みなさんのライフスタイルから未来の暮らしの価値観を考えてみたいと思います。
 佐藤さんと椎木さんは現在、二拠点生活をされているそうですね。
佐藤 はい、仙台と東京を行き来しています。3分の1が仙台で、残りが東京ですね。
椎木 私は東京と京都です。基本は東京で、週に1回のペースで京都に滞在しています。
八代 お二人から見て、東京という街の魅力は何でしょうか?
佐藤 変化が起こり続けていること、でしょうか。
 仙台に5日間いただけで、東京には人や場所に何らかの小さい変化が起こっています。その変化が何かを考えるきっかけになったり、新しい人との出会いを生んだりする。
 こうした変化は他の都市でも起こり得ますが、その数とスピード感はやはり東京が随一でしょう。
 ただ、ずっと東京にいたら、些細な変化を見落としてしまうと思うんです。
 違う場所を行き来するからこそ変化に気づけますし、仙台という独特のリズムを持つ街でその気づきを咀嚼したり整理したりする時間がつくれる。この生活はすごく心地良いなと思っています。
椎木 私の場合は、「インプットは京都、アウトプットなら東京」という感覚ですね。
 今の京都は、神社仏閣から地元の方向けの商店まで、どこに行っても外国人観光客の姿があり、東京では難しい観察がじっくりできるなど、ビジネス的なインプットがとても捗るんです。
 一方のアウトプットなら、東京のほうが一緒にできる仲間が多いし、何よりテンションが上がります(笑)。
 東京の街並みや夜景を見ると、「やってやろう」というモチベーションが生まれてくる。東京は、自分を鼓舞してくれる場所ですね。
八代 その東京で続く小杉湯には、若い方がよく訪れると聞きます。オンラインが当たり前になるなか、“リアルの場”にどんな価値が生まれていると思われますか?
関根 人との心地良い距離感でしょうか。
 小杉湯には1日、平日で約600人、休日は多くて1300人ほどにお越しいただきます。その半数が30代以下で、若いお客様の割合は年々上がっています。
 私たちのルールの1つが「家の中で使う言葉しか使わない」です。「いらっしゃいませ」という声かけは禁止。昼は「こんにちは」、夜お帰りの際は「おやすみなさい」。朝に送り出すなら「いってらっしゃい」なんですね。
 銭湯はきっと、お店のような“消費のプレッシャー”がない、もう1つの家のような場所なんですよね。
佐藤 すごく共感します。僕が経営する店舗でも、接客では「いらっしゃいませ」を使いません。
 オンラインで何もかも簡単に得られるようになったからこそ、より人間味を感じられる場所や時間が求められるようになったのかもしれませんね。
関根 よく銭湯は“地域コミュニティ”と表現されますが、かといって、近所のみんなと顔見知りになるのはちょっと抵抗があるじゃないですか。
 その意味で、「もしかしたら、もう二度と会わないかもしれない」という銭湯の“ゆるいつながり”は、ちょうどいいんですよね。
 たまにお風呂で一緒になって、言葉は交わすけど、お互いに年齢も肩書きも知らないような。

未来の住まいは「閉じない」がキーワード?

八代 リビオライフデザイン総研は、人生をもっと豊かにする「ライフデザイン」をテーマにしています。みなさんは、ご自身の中長期的なライフデザインについて、考えていることはありますか?
佐藤 冬は豪雪、夏は新緑の山々に囲まれた岩手県の安比高原での暮らしが自分のルーツです。自然がある場所を拠点に、東京でも過ごすリズムが理想ですね。
関根 銭湯事業に携わってから時間軸が何十年単位になったので、あまり自分自身の将来のことを考えなくなってしまったんです。ただ、死ぬまで銭湯をやることだけは決めています。
 いつか周りで移住した方の多い長野で銭湯をやってみたいですね。みんなと銭湯文化をビジネスになるまで育てきって、あとは毎日番台に立ってぬくぬく過ごしたいです(笑)。
椎木 私はライフデザインというより、社会のデザインですが、情報格差を埋めていくのが今後の展望です。
 京都でLGBTQの支援団体を設立したのですが、代表理事の女子大生を通じて地方の大学生や高校生に会うと、情報格差を強く感じます。
 地方に素晴らしい才能を持つ子を支える大人や環境がないせいで、チャレンジが難しい現状がある。都市部からのサポートを考えていきたいです。
八代 「地方」が共通のキーワードですね。暮らしの基盤として、これからの住まいに期待することはありますか?
座談会を行った「LIVIO Life Design! SALON」は、マンションの検討段階から入居後までをサポートする常設サロン。サンプルルームのほか、3面LEDパネルを用いたスクリーンも設け、間取りや家具配置、眺望などをよりリアルに体感できる。
椎木 “イケてる二世帯住宅”が欲しいです(笑)。人生100年時代が来たら、この先、何世代も一緒に同居することになると思うんです。
 みんなで一緒に仲良く暮らしやすいモデルを提示できたら、今の若者たちが持つ家族観にもフィットした住宅ができるのではと思います。
関根 家の中だけに閉じない選択肢が増えていくと、「家の中に何を持ちたいか」を考えるようになるはずです。
 たとえば小杉湯は、銭湯の隣に会員制シェアスペースがあって、仕事をしたり料理をしたり、赤ちゃんをあやしたり、思い思いに過ごせる場になっています。
 お風呂や書斎、キッチンといった“家の機能”を外に開いていくと、住まいに対する考え方がより多様になるのではないでしょうか。
八代 まだ個人的な野望の段階ですが、まさに今後、従来のオーソドックスな間取りから踏み出すような開発ができないかと考えています。
 マンションの間取りは、どうしても画一的になりがちです。たとえば、キッチンやお風呂を外して、住まいの機能を共有するからこそ、よりよい時間を提供できるのではないか、と。
 みなさんのお話から、同じ世代でも本当にさまざまな考え方や視点があると改めて感じ、もっと多様な住まいづくりにチャレンジしていけたらと思えました。今日は貴重なお話をありがとうございました。