Miho Uranaka Anton Bridge

[東京 19日 ロイター] - 東芝は20日、74年続いた上場企業の歴史に幕を下ろし、日本産業パートナーズ(JIP)を中核とする国内企業連合のもと再建を目指す。不正会計問題から迷走を続け有望な事業を売却しており、再生への道筋は容易ではないとみる向きもある。JIPにとっては過去最大の案件で、パソコンメーカーVAIOの再建などで培った手腕が東芝の規模の再生で通じるのか試される。

2002年にみずほ証券や米コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーなどが立ち上げた事業再生ファンドのJIPは、これまでソニー(現ソニーグループ)から分離したVAIOやオリンパスのデジタルカメラを中心とする映像事業などに投資。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)からみずほ証券を経て独立した馬上(もうえ)英実氏が社長を務め、業界内では製造業に強いことに定評がある。

メディアの取材など表舞台にあまり出てこない「黒子役」に徹していることも特徴で、2017年11月に東京で開かれた経済イベントに登壇した馬上社長は、「普段はひっそりと活動しているので、こういうところで話すことに慣れていない」と話した。

証券会社のM&A(合併・買収)担当幹部はJIPについて、「買収後の粘り強い再生が印象的」と話す。買収した企業だけでなく自社にもコスト意識が強いとし、「経営トップの海外出張もエコノミークラス」と明かす

VAIOは投資から9年経つ今も株式を保有し、赤字続きだったソニーの旧事業は23年5月期に売上高358億0200万円で設立以来過去最高、最終利益7億円を計上するまで改善した。米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)とともに買収した日立国際電気については、日清紡ホールディングスへ売却することを今年5月に決めた。

これまで30程度の案件を手掛けてきた中で、東芝ほどの規模の企業再生を手掛けたことはない。今月22日からの東芝経営体制は島田太郎社長兼最高経営責任者(CEO)が続投するものの、取締役7人のうち4人は馬上社長や池谷光司副会長らJIP幹部が占め、ローム、オリックス、中部電力など20社超も再建計画に参加する。JIP連合が東芝買収に投じた約2兆円のうち、1兆円規模は銀行から借り入れる。

銀行筋によると、多くの利害関係者が絡む中、島田社長が続投する買収後の経営体制について合意を得るのに時間がかかり、銀行との融資契約を取り付けるのが数カ月後ろ倒しになった。

JIPを知る別の関係者は「これまでの大型案件ではKKRやベインキャピタルなどと協業し、こうしたファンドの専門知識を生かすことができた。今回は非常に複雑な案件を国内企業と進め、陣頭指揮を取れることを示さないといけない」と指摘する。

JIPと東芝は、ロイターの取材にコメントを控えた。

東芝は15年に不正会計が発覚し、米原発子会社による巨額損失と破綻により、財務状況が一気に悪化した。財務基盤を立て直すため約6000億円の増資を実施したが、このとき引き受けた物言う株主と言われる欧米ファンドとの対立が表面化した。虎の子だった半導体メモリー事業は株式を売却して持分適用会社に、医療など有力事業は切り離した。

日本のテクノロジー産業を長く見ているマッコーリー・キャピタル証券のダミアン・トン調査部長は、「東芝の事業のうち、半導体とハードディスク駆動装置(HDD)以外の大部分は成熟し、成長ストーリーを描くのは簡単ではない」と話す。一方で、「安定したリーダーシップと経営体制で、会社の士気と全体的な実行力が向上するだろう」ともみている。

11月に東芝が上場企業として最後に発表した決算は、23年4ー9月期の連結営業利益が前年同期比8.1倍の222億円と大幅な増益だったが、主因は子会社の東芝テックで前年同期に計上したのれんの減損がなくなった一時的なものだった。HDDは市況回復が遅れ、メモリー半導体を手がける持分法適用会社キオクシアの不振も足を引っ張り、最終損益は521億円の赤字だった。

一方、JIP連合と組んだことによる実績もすでに出始めている。東芝は今月7日、社会の省エネ化で需要拡大が見込めるパワー半導体の増産にロームと共同で投資すると発表した。

前出と別のJIPに詳しい関係者は「リターンを得るために事業をすぐにばらばらにする、切り売りするというような戦略に安易に打って出ることは考えにくい。伸ばせる事業は伸ばす」と話す。「JIPにとって規模がすごく大きいし、難易度もある。東芝の良さを維持しながら、他の出資企業と一緒になってやっていかないといけない」と語る。

(浦中美穂、Anton Bridge、白木真紀、山崎牧子 編集:久保信博)