ドラッグストア特集:日本チェーンドラッグストア協会・宗像守事務総長に聞く
2015/04/20, 日本食糧新聞
◆10兆円産業への挑戦課題 需要創造と情報提供が不可欠
ドラッグストア(DgS)業界は、6兆円規模に達してから成長スピードが鈍ってきた。再成長の条件、そして10兆円産業への挑戦課題はなにか。日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の事務総長を務め、各省庁の健康食品、介護食品に関する検討会にも名を連ねる宗像守氏は、「需要創造、そのための情報提供と解決策の提案が不可欠」と強調した。
●医薬品・化粧品・日雑の争奪
--DgS業界は急成長を遂げ6兆円を超えたが、伸び率が鈍り踊り場にきているという見方もあります。
宗像 マーケットは飽和状態にある。現在、人口は年間20万~30万人単位で減り続け、コモディティ(生活必需品)マーケットは、供給過剰になり価格競争が激化し、さらにマーケットが縮小するというスパイラルに入りつつある。
いままでの品揃えや売り方では対応できていないとするならば、われわれが新しい商品・サービス、売り方に対応できれば新しい需要が生まれることになる。JACDSはそれをリードしていくというスタンスだ。
DgSはOTC(一般用医薬品)、化粧品、日用品はシェア7割くらいを取っている。24時間営業にすれば、さらに1~2割取れるかもしれないがビジネスとして採算が合わない。新しいマーケットを創る必要があるが、DgS業界はいままでその経験がない。
--7割のシェアをDgS同士が奪い合っているという構図ですね。
宗像 だから競争はさらに激化する。「14年度日本のドラッグストア実態調査」では店舗数は前年比2.2%増えているのに、売上高は1.0%しか伸びていない。
DgSは他の業種業態が創った需要を安さと便利さで奪ってきたが、新たな需要創造は安さと便利さだけではできない。潜在ニーズを顕在化させるには情報や解決策が提案できないとだめだが、それには手間暇とコストがかかる。
薬剤師や登録販売員は医薬品の知識はあるが、健康食品や介護食品の情報を提供できる知識がない。栄養成分などは管理栄養士、要介護の食事はホームヘルパーや訪問看護師、そして薬は薬剤師と分業しているため、縦割り制度を越えた情報提供ができないからだ。
病気ではないが少し調子が悪いので改善したいと思っている人たちに情報と商品と問題解決法を提供できる場がほとんどないのが実情だ。
●機能性表示食品の可能性
--政府は、健康長寿を推進しているが、既存の制度、規制の壁が立ちはだかっているわけですね。
宗像 健康長寿延伸に向けて規制緩和あるいは制度見直しが閣議決定されたが、実際には簡単には進まない。
「食品の新たな機能性表示制度に関する検討会」でも、いま現在売っている健康食品に例えば「骨を丈夫にします」と記載するだけなのに、「危険だ」と反対する意見が出た。
アメリカは、1994年にダイエタリーサプリメント健康教育法(DSHEA法)が制定されビタミン、ミネラル17成分を含め論文に基づいた機能性表示ができるようになった。日本ではビタミン、ミネラルのほかに成分特定が難しい青汁、プロポリス、黒酢などは今回見送りになったが、1~2年後には機能性表示ができそうだ。
届け出の際に提出する論文も、当初は成分Aに関する論文が世界に10本あれば全部集めないといけなかった。その費用は500万~2000万円になる。検討を重ねた薬科大学、医科大学や農業系大学などが収集管理する研究レビューを利用してもいいことになった。費用は数十万円で済む。
--数十万円なら中小メーカーでも参入できますね。
宗像 そこが重要だ。メーカーも部位別、機能別のシリーズで商品を出したいので、研究レビューが認められたことで中小メーカー、食品メーカーが参画しやすくなった。
--健康食品機能性表示は4月1日から受付を開始し、6月には市場に登場する見通しですが、第1弾はどのくらいの数になり、業界への影響をどう見ますか。
宗像 届け出すると受理番号が交付され、必要な書類が揃っていれば受理され、成分に基づいて10文字以内で機能がうたえるようになる。6月1日から揃い踏みとはならないだろう。1年単位のスパンで考えないといけないが、将来はサプリメントだけで3兆円くらいのマーケットができると思っている。現在は約6000億円なので5倍に拡大することになる。
しかし、そのためには前述したように消費者の潜在需要なり、悩みなりを解決する情報提供と、商品開発が必要だ。メーカーの開発努力と、われわれDgSの販売努力がセットになって初めてマーケット化していく。
DgS全体で健康食品売上高は約2000億円、シェアは10%くらいしかない。通販・無店舗販売が8割のシェアを占めている。
アメリカの健康食品も以前は同じような状況だったが、DSHEA法ができたことで実店舗のシェアが75%、市場規模が4~5倍に拡大した。日本も同じように市場が急拡大する一方で、けん引役が実店舗に替わるだろう。
--その中でDgSが一番シェアを伸ばすことになると思いますか。
宗像 少なくともサプリメントは半分近いシェア、1.5兆円くらいになるだろう。
●スマイルケア食の定着担う
--「スマイルケア食」として普及拡大を図る介護食品については。
宗像 介護食品も健康食品と似た状況で、国の政策で在宅介護に移行してくるので、健康維持や予防というテーマで新しいマーケットを創らなくてはいけない。そこにDgS業界も期待している。
例えば、昔は赤ちゃんに粉ミルクを飲ませることに消極的だったが、粉ミルクメーカーが「赤ちゃんが十分栄養を取り、母体を守る意味でも粉ミルクをうまく使ってください」と産婦人科医経由で普及させていった。それによって、人前でほ乳瓶から飲ませることが普通になった。離乳食も昔は親が軟らかくした食べ物を口移しで食べさせたが、品質・栄養が管理された離乳食品に置き換わった。
名前をスマイルケア食に変えるだけでなく、健康な人も喜んで食べるためにはどういう商品がいいのかを考え、かつてのベビーフードように、自分や家族のためにスマイルケア食を使うことが栄養・品質・安全面でベターであることを伝えていく必要がある。
スマイルケア食を寝たきりで訪問看護を受けているお年寄りに提案しても普及は進まない。まず、健康な人、軽度の嚥下(えんげ)障害や咀嚼(そしゃく)障害がある人を対象にすれば、喜んで抵抗なく利用してくれる。検討会議の来年度のスマイルケア食の課題もそれに決まった。
--40代、50代から利用してもいいと思います。
宗像 そういうニーズが圧倒的に多いはずで、医療費削減にも役立つし、本人もハッピーな人生が送れる。40代、50代にも受け入れられるようにスマイルケア食という名前に変えたのだから。
検討会議のメンバーからは「薬剤師や登録販売者が常駐するDgSでぜひ普及させてほしい。その人たちをトレーニングすれば対応できる」という声があがっている。また、介護食品は病院で販売しているが、DgSでも扱ってほしいという要望がでている。ベビーフードに例えれば、いまは粉ミルクを定着させる段階で、その役割をDgSが担うだろう。
--14年10月にJACDSと新日本スーパーマーケット協会で「健康食品需要創造研究会」を立ち上げました。
宗像 14年12月から15年5月まで月1回ペースでセミナーを実施している。合わせて、スマイルケア食の品揃え、情報提供方法などの研究も進める。10社くらいのメーカーに依頼してハイカロリー・ハイタンパク質の食品やサプリメントの開発にも取り組んでいる。
アメリカでもDSHEA法で健康食品、一般食品合わせて10兆円のマーケットが創造できたのだから、日本でもマーケットを創造し大きくするために製配販が連携して取り組む必要がある。
--DgS業界が10兆円規模になるために健康食品、スマイルケア食以外の市場開拓の構想を教えて下さい。
宗像 調剤であり一般食品だろう。一般食品のDgSシェアは約3%なので、店舗数が増えればもっと上がってくる。安さと便利さでまだまだ伸びしろがある。
調剤は急速に増えている。高齢化とともに自宅の近くの調剤薬局で受け取りたいということで、いわゆる面分業が広がっている。DgSでも調剤を扱ってほしいという要望が増えてきた。
--業界の再編についてはどうみますか。
宗像 資本の論理で再編は進み、マーケットが縮小すれば加速する。しかし、新しいマーケットが拡大し、そこにうまく乗れば中小でも大きくなれる可能性がある。
新しいマーケットは製配販がもうかって、消費者が満足しないと創れない。それには1円でも高く買って、1円でも高く売ってマーケットを育てることだ。マーケットが拡大すれば、競争論理で安くなるのは自明の理だが、最初から1円でも安く売ろうとしたらよい商品が消費者に届かなくなる。われわれ小売業も原材料、製造工程を勉強して、商品の付加価値をきちんと伝えられるようにする必要がある。
(文責・板倉千春)
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