2023/11/28

【新潮流】“ゲーム”がビジネスの常識を覆す未来とは

NewsPicks / Brand Design editor
 “ゲーム”がビジネスを変える時代がきた── 。
 日本経済が陰りを見せる中、近年のゲーム開発は、数百億円が動く巨大ビジネスに成長。グローバルのテック企業が次々に参入する領域となった。
 しかも、日本はゲームやアニメキャラクターなどのIP(知的財産)大国である。これを活かせば、また、日本が世界を熱狂させる日がくるかもしれない。
 2023年10月10日、NewsPicksはオンラインイベント「【最前線】世界が熱狂する、GAME×IPの未来とは」を開催。
 ゲームやIPの有識者らが、ゲームがビジネスを変える未来について、徹底解説した。
 本記事では、その模様をダイジェストでお届けする。

異業種からもゲーム業界へ参入

中山 まずは、世界のゲーム市場の現在地と未来予測について、簡単に説明します。
 ユーロモニターの統計によれば、世界のゲーム市場の規模は、2021年の約15兆円から、2026年には約20兆円になるといいます。
 各国のシェアは、中心市場である米国が30%、中国が25%、そして日本は7%です。
 セグメント別では、日本は9割がモバイルゲームである一方、他国はPC・家庭用ゲームのシェアも高い状況です。
 日本では「ゲーム業界はレッドオーシャン」といわれることもありますが、世界のPC・家庭用ゲーム市場まで視野を広げると、獲得できるパイは大きいでしょう。
 今回はゲーム業界の中でも、立場やバックグラウンドが異なるお三方をお招きしました。
 まずは、出版業界からゲーム業界に参入した集英社ゲームズの山本さんに、なぜ異業種からゲーム業界に参入できたのかを伺います。
山本 集英社を含め、異業種の企業がゲーム業界に参入し始めた理由は、大きく2つあると考えています。
 1つめは、ゲームをつくるためのゲームエンジンが発展し、個人でも、ゲームをつくれる時代になったことが大きいと思います。
 2つめは、増えた個人クリエイターの強みを生かすうえで、出版社に転用できる知見やノウハウがあったからです。例えば、集英社の漫画家と編集者が伴走するときの作法やマインドは、ゲームクリエイターのサポートにも転用可能です。
 つまり、ゲームクリエイターの増加と、知見を転用できると気づいた企業、特に出版社が同時期に出現したことで、異業種の企業がゲーム業界に参入するきっかけになったと思います。
 ちなみに日本のゲーム市場は、売り上げとしてはモバイル偏重の傾向が強いですが、集英社ゲームズはモバイル・PC・家庭用の全方位に注力しています。
中山 なるほど。同じく異業種からゲーム業界に参入したTBSは、どのセグメントに注目していますか。
蛭田 TBSもモバイル・PC・家庭用の全方位に注目しています。
 というのも、テレビ局がゲーム業界の人材を採用するのが、難しいところがありまして。
 それならばと、ゲーム開発では相性の良いゲーム会社と協業し、セグメントも絞らない方針をとっています。
 またデジタルだけでなく、アナログのボードゲームやカードゲームも事業領域と捉え、より広範囲のゲーム開発をしていきます。
中山 テレビ局が本格的なゲーム事業を立ち上げた事例として、初ですよね。
蛭田 他のテレビ局様もゲーム事業に取り組まれていますが、これほど本格的なものは初だと思います。
 一般的には番組ごとにゲームが作られることが多いかと思いますが、今回はTBSグループ全体でゲーム事業に本腰を入れる動きです。
中山 逆に、モバイルゲーム市場で長く戦っているグリーグループは、今、どんな戦略を描いているのでしょうか。
柿沼 モバイルゲームのこの10年の大きな変化は収益性だと思っています。
 以前は市場全体の成長もあり、モバイルの市場で連続してタイトルを作り続けていましたが、今は1本あたりの開発にかける期間と費用が大きく上がっているため、モバイルだけでない形でもお客様にIPやコンテンツを長く楽しんでいただけるよう多角的な展開を大事にしています。
中山 グリーグループのWFSのライトフライヤースタジオとビジュアルアーツのKeyにて企画・制作し、Google Play ベスト オブ 2022 ベストゲームも受賞された『ヘブンバーンズレッド』はクリエイターの方と一緒に0から作品を作り上げるなど、今までと異なるゲーム作りをされている印象を受けました。
柿沼 もちろん、他社様のIPをお借りして協業で作るケースもありますが、グリーグループでは0から作品を作り上げることにも注力しています。
『ヘブンバーンズレッド』もその中の1つの形ではありますが、引き続き、優秀なクリエイターのみなさんが生み出す作品の魅力を世界に広めるための最適な手法を模索していきたいと考えています。
中山 ちなみに、蛭田さんから「異業種からの参入ではゲームクリエイターの採用が難しい」という話がありました。集英社ゲームズでは、どのような採用を行っていますか。
山本 集英社ゲームズは現在30名弱の組織で、集英社からの出向者は3名です。その他はゲーム業界でプロデュース経験の豊富な人材やPR業界などのプロ人材を採用しています。
 採用で意識しているのは、グローバルで戦える組織づくりです。国内のゲーム市場のみでは厳しく、海外展開が必須の状況があるため、中国や台湾、アメリカなど、海外籍の人材も積極的に採用しています。
 近年、特にPCゲームにおいては、販売開始前のコミュニティづくりが勝敗を大きく左右します。そのため、各リージョンのユーザーやメディアとの関係構築が、非常に重要となっています。

デジタルからアナログまで、IP活用のゲーム開発

中山 日本発ゲームIPビジネスの現在地として、各社の現在進行形の取り組みをご紹介ください。
柿沼 グリーはソーシャルゲームの会社として立ち上がり、現在では、グリーグループ全体でゲーム・アニメ事業に加えて、メタバースやDX、コマース、マンガなど多角的に事業を展開しています。
 WFSやポケラボなどゲーム・アニメ事業を担う会社が3社ある中で、グリーエンターテインメントの特徴としてはアニメの部分です。
 ゲーム化権のための一部出資だけでなく、最近ではIPの成長によりコミットするために、アニメ製作において共同幹事や主幹事をやらせていただく機会を増やしています。
 また、作品作りに深く関わると共に、その作品をゲーム化し開発・運営することはもちろん、それ以外にも音楽やマーチャンダイジングなど多角的展開を通じて、より多くのお客様にIPの魅力を届ける取り組みを目指しています。
 また、ゲーム開発においてはヒットを狙う作品と安定的に収益を生み出す作品の多層化のため、IPのライセンス提供や協業での開発のほか、他社様からの開発受託など様々な取り組みを行っています。
 その中のひとつの事例として海外の企業様と『ワンパンマン』のIPを活用した『ONE PUNCH MAN 一撃マジファイト』というタイトルを協業開発したという実績があります。また『ワンパンマン』に関しては、現在、別の海外の企業様と新たなゲームを協業開発するなど、複数の地域やセグメントへの展開を予定しています。
山本 集英社ゲームズは、集英社が保有する多数のIPを活かして、アナログゲームの展開も行っています。
 2022年12月に開催した「ジャンプフェスタ2023」で、ボードゲーム『ONE PIECE VIVRE RUSH』や「BLEACH 巻頭歌骨牌」を先行販売し、大変好調な売れ行きとなりました。
提供:集英社ゲームズ
 近年、デジタルゲームの価格が安くなっている傾向の中で、アナログ形式のファンアイテムは、価格を下げ過ぎることなく価値提供ができることを実感しています。
中山 なるほど。つづいて、今回のテーマは「日本発ゲームIP」ということで、ぜひゲーム発IPの創出・成長支援についての各社の取り組みも教えてください。
蛭田 実はTBSのゲーム事業は、TBSグループの中で「新規IPの開発」の文脈に沿って発足しました。そのため、メンバーの所属部署名は「新規IP開発部」となっており、新規IPの創出にもしっかり取り組んでいきます。
山本 集英社ゲームズもIPの活用や、ゲーム発IPの創出に注力していきます。
 今、社内で話題にのぼるのが、2023年2月に米国のゲーム会社からリリースされた『ホグワーツ・レガシー』です。同作はハリー・ポッターの主人公、ハリーたちの誕生以前の1800年代の世界を、プレイヤー自身が主人公となり冒険するゲームです。原作の世界観と設定をうまく利用しオリジナルのゲームを作るという方法論は、応用が利くと考えています。
 こうした新しい「ゲーム×IP」の在り方は、積極的に模索するべきだと考えています。
中山 ゲームの良さの1つは、必ずしも原作のストーリーと連動させる必要はないことですよね。その世界観やキャラクター単体に焦点を当て、ゲーム化することも可能です。
柿沼 ただしIPを保有する立場でいうと、IPを活用して多くの人に知ってもらいたい反面、世界観を崩されたくはない葛藤もありますよね。ファンの期待を裏切らず、新しいことにも挑戦していく姿勢が大切だと思います。

世界展開のカギは、普遍的な面白さ

中山 海外展開に向けて、注目している市場や戦略があれば教えてください。
山本 市場規模は北米が大きい一方、日本の作品に対するリスペクトや開発力の進化の面で、中国に注目しています。開発力では、中国は日本の強みであるアニメ系作品のクオリティに追いついているほどです。
 こうした状況では、日本と中国のゲーム業界が争うのではなく、共創していくスタンスで連携を深めるべきだと考えています。
柿沼 グリーエンターテインメントは、モバイルの特性を活かし、どの地域にも展開しやすい強みがあります。
 そんな中で注目するのが、意外な地域で人気を博すタイトルがあることです。
 例えば、漫画『聖闘士星矢』のモバイルゲームは、南米で話題になりました。
 この未知の可能性をどう開拓するかについて、パートナー企業と頻繁にディスカッションしています。
中山 なるほど。地域ベースではなく、作品単位の海外戦略も考える必要がありそうですね。TBSのゲーム事業部はいかがでしょうか。
蛭田 TBSは広く海外市場を開拓していきますが、インドのような、これからの市場にも注目しています。
 まさに今、TBSのグローバルビジネス部門がインドの市場調査をしているそうなので、ゲーム事業もその動きに乗れるといいな、と考えています。
中山 蛭田さんは過去に、ゲームで社会課題を解決する「ゲーミフィケーション」も手掛けていました。その領域をインドで展開する可能性もありそうですね。
蛭田 そうですね。ゲームを単なる娯楽としてではなく、医療や教育の現場で活用するBtoBのビジネスモデルも検討したいと思います。
中山 なるほど。少し視点を変えて、蛭田さんはカナダで5年間、ゲーム開発に取り組んでいました。その経験から、日本発ゲームIPを世界でヒットさせるには、何が重要だと思いますか。
蛭田 普遍的な面白さのあるゲームをつくることです。
 日本発ゲームの海外展開が失敗するケースとして、忍者や富士山などの日本文化を押し出し過ぎてしまったり、逆に海外の文化に寄せ過ぎてしまったりすることが挙げられます。
 そうではなく、例えば任天堂のゲームのように、地域や年齢・性別に関係なく、楽しんでもらえるゲームづくりが重要です。
山本 ゲームに文化的な要素を取り入れるより、PRやマーケティングにおいて、地域ごとの戦略を打ち出すほうが重要かもしれませんね。
柿沼 『ヘブンバーンズレッド』のマーケティングにおいても「最上の、切なさを。」というコンセプトのもと、人間の普遍的な感情にアプローチしました。それがGoogle Play ベスト オブ 2022 ベストゲームやユーザー投票部門大賞に選ばれた理由だとも考えられます。

XRやイマーシブ技術など、ゲーム業界の新技術

中山 最近は、XRやイマーシブ(没入・体験型)テックといった新技術の活用が、ゲーム業界でも広まりつつあります。各社のゲーム業界の未来を見据えた取り組みについて教えてください。
山本 集英社ゲームズのこれまでの取り組みとして、方向性は大きく2つあります。
 1つめは「原石の輝きを世界へ」というミッションのもと展開している、小規模ゲーム開発の支援です。
「集英社ゲームクリエイターズCAMP」という、個人ゲームクリエイターが作品を公開できるコミュニティプラットフォームを提供しています。
 そこではゲーム開発の仲間集めや、コンテストで入賞すれば集英社ゲームズの支援を受けることも可能です。
 クリエイターや作品数が増えた分、集英社ゲームズとしても、1つでも多くの熱狂を生み出せるよう取り組んでいるところです。
 未来を見据えた2つめの取り組みは、小規模開発と真逆の、ハイリスクハイリターンのプロジェクト展開です。
 例えば、中国のNetEase Gamesと共同で『unVEIL the world』というタイトルを開発中です。
『unVEIL the world』は、集英社のキャラクターと物語を生み出すノウハウと、NetEaseの優れた開発力をもとに新たなゲームIPを生み出す取り組みです。
提供:集英社ゲームズ
 これには個人的な思い入れもあって。例えば、中国のゲーム開発メンバーとカラオケに行ったとき、集英社がつくってきたアニメの主題歌で盛り上がったりするんですよ。
 集英社のコンテンツが世界に届いて、それをきっかけに新しい共創が生まれている。非常にメモリアルな体験ができているので、ハイリスクハイリターンとはいえ、しっかりとビジネスに昇華していきたいと考えています。
蛭田 TBSのゲーム部門が事業拡大に向け意識しているのは、社外と社内の双方向に丁寧なコミュニケーションをとることです。
 まず社外向けのコミュニケーションとして、2028年の完成を目指し、本社ビルの道を挟んだ反対側にツインタワーを建設していることを発表しています。
 その中には、劇場や多目的ホールがつくられるので、ゲーム発売時のイベントやXR・イマーシブ技術などを活用したリアルの取り組みなども、協力会社様と一緒に実現できないかと考えています。
 一方、TBSグループがゲーム事業に不慣れなこともあり、社内向けのコミュニケーションも丁寧に行っています。
 具体的には、社内発信用のWebサイトを制作し、ゲーム事業のビジョンや進め方などを周知しています。
中山 対外的には新たな話題を提供しつつ、社内向けのコミュニケーションも丁寧にされているんですね。
蛭田 TBSグループのメディア力で、雑に開発したゲームをゴリ推しして売るようなことはしたくありません。
 TBSのゲーム事業部が目指すのは、番組同様に、ゲームでも最高の“時”をお届けすることです。そのため、同じ熱量や志でゲーム開発ができる企業様と、協業の話を進めさせていただいています。

「ひとつなぎの大秘宝」を手に入れたい

中山 イベントへの質問で、イマーシブゲームやUGC(ユーザー生成コンテンツ)など、新しい技術の活用に興味がある人が多く見受けられます。その辺りの取り組みについて、今後の展望もふまえて教えてください。
蛭田 TBSはハリー・ポッターの舞台化をはじめ、リアルな体験も提供しています。
 そういう意味で、現実と異世界が融合した感覚になるイマーシブゲームの開発や、ゲームとリアルイベントの連動などの仕掛けづくりにも、取り組んでいきたいです。
 とはいえ、TBSのゲーム事業部は立ち上げられたばかりです。IPを活用した映画化や舞台化、物販といった既存のノウハウの活用も進めていきたいと思います。
山本 イマーシブゲームやUGCも注目しているのですが、今はまず看板になるヒット作をつくるフェーズです。その中の、オリジナリティを高める施策として有効だと考えています。
 また今後の展望として、一社で孤軍奮闘するのではなく、日本のゲーム業界の横のつながりにより、『ONE PIECE』でいう「ひとつなぎの大秘宝」を手に入れたいと思っています。
柿沼 UGCというわけではないのですが、近しい話で、ゲーム開発にユーザーのみなさんを巻き込む施策を実施しています。
 ユーザーのみなさんと様々な接点を持ち、耳を傾け、コミュニケーションを通じ一緒にゲームを改良していくことで、いちユーザーからファンになってもらう取り組みです。
 この取り組みに加え、マルチプラットフォーム化や音楽ジャンルへの横展開により、多角的にゲームを楽しんでもらうことで、ゲーム業界を盛り上げていきたいと考えていますね。
中山 今日の話を聞いて、日本の停滞するゲーム業界に、異業種のカラーがブレンドされることで、新たな成長の可能性が広がっていくと感じました。
 今後、ゲーム業界に飛び込もうとしている企業や個人クリエイターには、ぜひ参考にしていただければと思います。