Jayshree P Upadhyay Ira Dugal

[ムンバイ 13日 ロイター] - インドでは今年に入り、個人投資家の間で株式オプション取引が熱狂的な広がりを見せており、規制当局が投機的取引の拡大に懸念を示している。

オプション取引が広がっている背景には、証券取引所が一部のオプション取引を安く手軽に執行できる体制を整えたことや個人投資家向けのオンライン証券会社の急成長がある。

取引所のデータによると、株式オプション取引の想定元本は3月─10月に2倍以上急増し、1日平均4兆2000億ドルに達した。現物取引に対するデリバティブ取引の想定元本の比率は世界最高に達している。

インド証券取引委員会(SEBI)は現時点でオプション取引の規制には踏み切っていないものの、リスクを認識し警告を発している。

トラスト・ミューチュアル・ファンドのミヒール・ボラ最高投資責任者は、オプション取引の急増について、ヘッジ目的ではなく投機的な側面が強いとし「これは市場の急落を増幅する潜在的なリスクとなり得る」と指摘した。

アナリストによると、韓国では2000年代初めに経験の浅い個人投資家がデリバティブ取引で損失を出し、規制当局が個人の取引参加を制限した事例がある。

インドのデリバティブ市場は未成熟で、株式オプション取引に参加する投資家に最低純資産や一定の資格を義務付けていない。株式市場は毎年のように値上がりしており、リスクテイクの拡大と投資家の油断につながる状態にある。

同国では、Zerodha、Groww、AngelOneといったオンライン証券会社がここ数年で躍進。フィンテックブームや新型コロナウイルス流行に伴う在宅勤務を背景に、ロボトレーディングなど低コストプラットフォームを利用して手早く儲けたいという個人投資家が増えている。

アクシス・ミューチュアル・ファンドは、国内に400万人のアクティブなデリバティブ・トレーダーがいると推定。SEBIのデータによると、こうしたトレーダーの大半は個人投資家だ

アクシスによると、一部のオプションはレバレッジが最大500倍。2000ルピー(24.01ドル)の取引で100万ルピー相当のエクスポージャーが得られる。個人投資家のポジション保有期間は平均わずか30分であることが多いという。

SEBIのアジャイ・ティアギ元委員長は、1日当たりのオプション取引高が急増しており、投資家保護の問題が生じていると指摘。「市場は泡立っており、個人投資家は限られた知識で簡単に儲けようとしている」と懸念を示した。

ムンバイ東部郊外にある5階建てのオフィスビル「カイラシュ・プラザ」はオプション取引ブームの中心地の一つとなっており、数百人の株式トレーダー、ブローカー、投資アドバイザーが入居している。

あるオフィスのドアには「月500インドルピー(6ドル)で最大15万インドルピーを稼げる」との張り紙が張られていた。最も若い顧客は21歳で、片手間の仕事で稼いだ小遣いを投資しているという。このオフィスの関係者は「若者はよくゲームをするのでゲーム感覚で投資している」と語った。

関係筋によると、SEBIは近く全ての証券会社に対し市場のリスクについて具体的な警告を出すよう指示する見通し。投機的な取引の削減につながる増税についても予備的な協議が行われているという。

インド最大のディスカウント証券会社Zerodhaによると、顧客の65%以上は過去に投資経験がなく、新規口座の60%以上はムンバイなどの金融都市ではなく、小さな町に住む人が開設している。過去1年間に新規登録した顧客の平均年齢は29歳。先物・オプション取引が増えている。

1月にアダニ・エンタープライゼズ株のオプション取引で20万ルピーの損失を出したインド西部スーラト出身の36歳の個人投資家は投資を諦めていない。「オプション取引は損失に上限があるが、最大限の利益が得られるチャンスがある」とロイターに語った。