2023/11/28

知られざる、「士業広告」の世界。規制の理由とあるべき姿とは

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
弁護士や司法書士、税理士をはじめとする「士業」の世界は、長らく広告宣伝が規制されてきた領域だ。近年、弁護士や司法書士などは広告規制は緩和されてきたものの、いまもなお表現の自由度は低い。
とはいえ、広告規制を保守的に守るばかりだと、生活者に選ばれるような魅力的なメッセージは打ち出しにくい。しかし、当然のことながら広告規制も遵守しなければならない──。
こうした倫理とビジネスの狭間で葛藤し、頭を悩ませる士業や医業の経営支援に取り組むのがスタイル・エッジだ。代表の島田雄左氏は、自身も司法書士事務所の経営者として、過去に広告規制や経営課題に直面した経験を持つ。
「消費者から信頼される情報発信をする機会を増やし、士業をもっと身近に感じる社会を目指したい」
1988年、福岡県生まれ。24歳で司法書士として独立開業。現在は株式会社スタイル・エッジの代表取締役社長として士業・医業等のプロフェッショナルに向けた総合支援を行う。YouTubeやXで法律、仕事、マネーリテラシーなどさまざまな情報を配信中。著書に『家族信託の教科書』(税務経理協会)、『人生で損しないお金の授業』(税務経理協会)。
そう語る代表の島田氏に、ビジネスパーソンが普段あまり触れる機会がない士業の広告規制の世界と、単なる広告支援にとどまらないプロフェッショナルの経営支援に懸ける想いを聞いた。

なぜ士業の広告は規制が厳しいのか

──ステルスマーケティングや誇大広告の禁止など幅広い業界で適用されるルールに加え、そもそも士業の広告には、どういった規制があるのでしょうか。
島田 そうですね。たとえば、弁護士事務所の広告を例にすると、「相続に強い」「裁判に強い」という表現は問題ないのですが、しかし「相続専門」と記載するのは基本的にNGとされています。
また「訴訟の勝訴率」を記載することや、「100%解決します」「●●地検の検事だったので顔が利く」といった過度な期待を持たせる表現、誤導のおそれがある表現、事実にそぐわない表現などもNGになります。
──なぜ他の業界よりも、士業は広告規制が厳しいのでしょうか。
さまざまな理由が考えられますが、大きく3つのポイントがあると考えています。
1つ目が、「専門性」の高さです。弁護士や司法書士、税理士といった士業は専門的な知見を要する領域のため、一般消費者の誤解を招いてしまう懸念があります。たとえば「先生がそう言うのなら正しいだろう」と鵜呑みにして信じてしまう人が出てしまう可能性もあるでしょう。
2つ目に、「緊急性」の高さです。
士業には、事故や借金などトラブルの最中にある人が相談するケースが多い。急いで決断を迫られるケースもほとんどのため、十分に検討・判断する時間があまりありません。そこで消費者が混乱に陥らないように、一定の制限が必要となっています。
3つ目は、「客観性」の担保の難しさです。多くの人は人生のなかで士業を利用する頻度は高くないため、広告以外の評価方法があまりありません。
たとえば日常的に購入・利用する食料品や飲食店などであれば、みなさん「あの店は高い」、もしくは「あまり好みではない」というように価格や質の判断基準を持つことができると思います。
表現が過度な広告を見たら、少し怪しむことなどもできるはずです。しかし、たとえば弁護士に相談する機会はそう何度もないため、消費者が価格やサービス内容が適正かを判断することは非常に難しいことです。
これらを理由に消費者に不利益が生じないようにするため、士業の広告には厳しい規制が設けられています。これは医療など専門性の高い業界でもいえることです。
──消費者の利益を守るための規制なんですね。
そうですね。これでもだいぶ規制は緩和されました。かつては、CMやホームページどころか、事務所名称、弁護士名、登録番号、住所などわずかな情報しか打ち出すことができなかった。
なぜかというと、弁護士業界が1955年に自主規制として定めた弁護士倫理において、事務所の宣伝をすることを厳しく規制されたから。社会正義を担う弁護士が、営業活動するなんて品位に欠けるといった考え方が背景にありました。
その後、1987年に条件付きで広告を出すことが解禁されましたが、限られた情報だけでは消費者は弁護士事務所の特徴や強みはわからない。そこで2000年にようやく本格的に自由化され、業界内で広告規制を設けながらもホームページの開設やWebマーケティングなどが可能になりました。

広告規制との向き合い方

──自由化されたとはいえ、「どの分野に強いのか」「価格はいくらか」などの情報を知りたくても弁護士事務所のホームページを見ても、よくわからないケースが多い印象です。
そうなんですよね。自由化されたとはいえ広告規制に準じたマーケティングが必要なため、そのバランスに非常に苦労している事務所は多いです。
それが結果として、消費者に士業を選ぶ基準となる情報を提供できないなど、比較検討がとても難しい状況になっています。私自身は、消費者を保護することは大前提のうえで、この規制とうまく向き合うことで、より必要な情報が必要な人に届く社会になってほしい。
一方で、規制を知ってはいても違反によるペナルティーが必ずしも弁護士会から課されたり消費者庁から課されたりするわけではないので、正直なところ中には軽視している事務所もあります。こうした現状では真面目に取り組む事務所が損をしますし、何より消費者側にも不利益が生じてしまいます。
ルールを遵守しながら消費者が必要とする情報を提供し、その人に合った専門的な知見を持つ人と出会う機会を増やすためにも、私たちは士業の方々をサポートしたいと考えています。
──では士業はどのような姿勢で、広告規制と向き合えばいいのでしょうか。
人権や財産を守る役割を担う弁護士は、消費者にわかりやすく情報を発信し、啓蒙することも一つの大切な役目です。
そのため消費者の立場に立ったうえで、ルールのなかでどのような伝え方がいいのかを探索し続ける姿勢が大切だと思います。
最近は、YouTubeやSNSで積極的に情報発信する士業の方も増えています。本人が話しているので信頼感がありますし、消費者側も「この人の言ってることは正しいのか」と自分で調べたり、セカンドオピニオンとしてほかの意見を聞いたりして理解を深めることができます。
士業側がわかりやすく情報を伝える工夫をする。それによって、消費者の知識が増えて比較検討する。このサイクルを回していくことで、双方のリテラシーが高まっていくと思います。
そのためにも私たちが、専門家と消費者をつなぐ役割や客観性を担保した視点を士業のみなさまに提供したいと考えています。

経営を支える「4つの柱」

──実際、士業からはどのような相談が寄せられることが多いのでしょうか。
そうですね。事務所のフェーズによっても、相談内容は異なります。
たとえば、開業当初だとまずは「オフィスや設備をどうやって揃えたらいいかわからない」「設備が揃ってもどうやって集客したらいいかわからない」といった悩みを寄せられることが多いです。
そして、10人をこえる規模になると、「組織の問題を相談したい」と、マネジメントの悩みを抱える方が多い。またそれが100人以上の大規模組織になると、DXや仕組み化などシステムに関する相談が寄せられます。
どのフェーズの経営においても「集客」「マネジメント」「システム」に関する悩みは共通すると思うのですが、弊社では事務所の成長に合わせたご提案をしながら、長いお付き合いをさせていただくことが多いです。
私自身、司法書士事務所を開業し、200人ほどの規模にまで成長させた経験があるので、各フェーズの悩みに対して実体験をベースにお伝えできる点が当社の強みになっているとも思います。
──士業・医業などの経営支援をするスタイル・エッジでは、具体的にどのようなサポートに取り組んでいるのでしょうか。
弊社は、広告支援にとどまらない、士業・医業のプロフェッショナルの経営を支援する企業になります。
たとえば「どの領域で勝負するのか」「どんなメッセージを発信するか」「どんな方法で集客するか」など、経営戦略や集客、システム、人材領域まであらゆる経営支援をする体制を整えています。
具体的には、「インフラ」「マーケティング」「システム」「HR」の4つの事業を展開しています。
インフラ事業では、事業構想やアイデアの整理、事業計画の策定などの経営戦略を考える段階から、また開業のハードルとなるオフィスの転貸、機器リースなどの初期投資の課題などを支援します。
そのうえで、マーケティング事業では、事業計画に基づき、広告規制を守りながら集客の最大化・最適化を支援します。
そして集客がうまくいくと、効率的に案件を管理するインフラや案件を処理する人材が足りなくなります。そこで当社では、業務管理システムの提供やDX推進などシステム領域の支援や採用、人材育成、人材派遣といったHR領域の支援も実行しています。
──2008年の設立以降、順調に成長を遂げ、2023年度には売上高30億円、営業利益9億円に到達されたそうですね。スタイル・エッジがプロフェッショナルからの信頼を継続して得ることができている最大の理由とは?
弊社は非常に高い継続顧客率を誇るのですが、それは単なるマーケティング支援にとどまらず、まさにITシステムやHRを含めた総合的な経営支援に取り組んできたからだと思います。
私自身が、司法書士事務所の元経営者として、顧客獲得やマネジメントの問題に苦しんできたからこそ、プロフェッショナルのみなさまの悩みにとても共感できるのです。
だからといって倫理に反した広告施策を実施しても、それは長期的にクライアントのためにはなりません。目の前の顧客と真摯に向き合い、その先にいる消費者のみなさまが安心して法律サービスを受けられることを一心に目指して愚直に取り組んできました。
また当社では、誤解を恐れずにいうと「ホームページだけつくってほしい」というご依頼は基本的にお断りしています。
経営を安定させるためにホームページは必要ですが、その前提に大切なのは「どんな事務所にしたいか」「どのくらい業績を伸ばしたいか」といったビジョンです。そのため、広告制作だけでの支援には限界があります。
私たちは、「どうしたら事務所が成長できるのか」を一緒に考えて必要な手段を提供し、長期的な視点で経営支援することを大切にしています。

専門知を解放し、悩む人の明日をひらく。

──2020年に「士業適正広告推進協議会(士推協)」という広告規制に向き合う団体にも参画したそうですね。
士推協では、消費者の方々に安心と必要な情報を提供できるよう、士業のみなさまとともに広告規制の基準を捉え直す活動を行っています。
規制の中でルールを守りながら、消費者から信頼される情報発信をする士業の方々を増やしたい。
広告規制の解釈についての悩みを相談いただければ、専門家にアドバイスをもらうこともできます。そのうえで「士推協がこういう意見を出している」と他のみなさまにも参考にしてもらうことで、業界全体で広告規制と向き合う環境づくりを行っていきたいと考えています。
こうした取り組みも業界内で広まり、「スタイル・エッジとなら安心して事業ができる」と評価していただいているのだと思います。
──最後に、今後の展望をお聞かせください。
当社では「悩む人の明日をひらく。」というミッションを掲げています。人びとが抱える“悩み”に向き合い、“明日”という未来から知識格差・機会格差をなくしたいという想いが込められています。
そのためにも士業の支援から始まり、2年前から医療業界の支援に取り組んできました。今後はさらに幅広い業界のプロフェッショナルも支援していきたいと考えています。
たとえば規制が多く、マーケティングが難しい業界として金融や不動産業界などがあります。また、パーソナルジムや学習塾なども専門的な知見を持つプロフェッショナルです。
こうしたプロフェッショナルの方々が本業のサービスに集中できるように、インフラ整備や集客、システム、営業、人材などあらゆる面をサポートしたい。業界は変わっても、経営面の課題は共通していることがほとんどです。
専門家を支援することで、その知見を解放し、一人でも多くの人がより良い選択ができる社会を目指していきたい。そして私たち自身が士業・医業をはじめとしたプロフェッショナルを支援するプロとして、より良い社会の実現に向けてこれからも地道に一歩ずつ努力していきたいと思います。