あんしん共創プロジェクト始動。第一弾は『大切な誰かの安全を願うギフト』

2023/10/25
 もしも、大規模な天災で大切な人と連絡が取れなくなってしまったら? もしも、あなたの家族がフィッシング詐欺の被害に遭ってしまったら? もしも、あなたの友人が交通事故の加害者になってしまったら? 
 防災グッズやセキュリティ製品、自動車保険など、世の中には「もしものとき」に備えるさまざまなソリューションがある。やっかいなのは、そうした対策を講じるのは「リスクを認識している人たち」であり、リスクが現実のものとなってから「対策しておけばよかった」と後悔するケースが多いことだ。
 先々の不安をいたずらに煽るのではなく、リスクを認識したうえで行動できる人を増やすにはどうすればよいか。脅威について企業から啓発するだけでなく、一人ひとりが身のまわりの大切な誰かと話し合うきっかけをつくることはできないか。
 このような課題から、トレンドマイクロ×NewsPicks Creationsによる共創プロジェクトが始まった。
 2023年4月に立ち上げられたプロジェクトは、これからさまざまな法人・個人に共創の輪を広げ、活動を次のフェーズに進める。第一弾として予定されているのは、「大切な誰かの安全を願うギフト」をつくること。
 ここに至った経緯とプロジェクトの主旨について、プロジェクトリーダーであるトレンドマイクロの鎌田晃氏と、共創パートナーとしてコンセプトメイクにかかわったイーデザイン損保の友澤大輔氏に聞いた。

なぜトレンドマイクロが「ギフト」を共創するのか?

──セキュリティ製品を扱うトレンドマイクロが、今回の共創プロジェクトを立ち上げた経緯をお聞かせください。
鎌田 当社では「ウイルスバスター」などのセキュリティ製品やID・パスワード管理のソリューションを提供してきました。
 法人向け、個人向けにさまざまな製品がありますが、共通して掲げているビジョンは、「デジタルインフォメーションを安全に交換できる世界の実現」。もう少しかみ砕くと、誰もがデジタルライフを安心して楽しめる環境づくりに貢献したいという想いがあります。
 かつてはPCやスマートフォンなどのデバイスを保護することでサイバー攻撃を防ぎ、安心を得られました。でも、テクノロジーの発展とともに生活全域がデジタル化され、誰もが当たり前のようにオンラインサービスを使っています。
 これから生成AIやメタバースのような新しい技術が出てくると、アプリやサービスの数はますます増えていくでしょう。便利になる一方で、ネット詐欺や個人情報流出などのリスクも増加します。
 そういった変化を見据えたうえで、私たちが「安心なデジタルライフ」にどう貢献できるかを考えたことから今回のプロジェクトが始まりました。
──なぜ「大切な誰かに贈る」というアイデアに行き着いたんでしょうか。
鎌田 将来起こるかもしれないリスクに備えることは、なかなか難しいんです。
 ネット詐欺にせよ、個人情報の流出にせよ、ある程度のデジタルリテラシーを持つ方は、自分自身で気をつけたり、情報を取りに行ったりして対策を講じられます。被害に遭いやすいのは、自分のオンライン上の行動にどんなリスクがあって、それを防ぐためにどんな対策をすればいいかを知らない方々です。
 とくに小学生やお年寄りまでもがスマホでSNSやインターネットを使うようになった今、安心できるデジタル環境を考えるなら、一人ひとりが身のまわりの大切な人たちと話し合い、広めていけるような取り組みが必要だと考えました。
友澤 いま鎌田さんがお話しされた課題は、私が取り組んでいる自動車保険の領域にも通じるところがあります。
 自分が交通事故の被害に遭ったときの備えだけでなく、万が一自分が加害者になったときのために、何をしておくべきなのかを考えないといけない。セキュリティの場合も、自分自身の安全を守ることがスタート地点かもしれませんが、ウイルスに感染するとその被害をどんどん広げてしまうリスクもあるわけですよね。
 そういったリスクを認識し、安心できる環境をつくるには、サービスを提供するだけでは足りないし、企業が一方的に啓蒙するだけでは届かない。これまで数カ月にわたって本プロジェクトにかかわってきましたが、さまざまなアイデアが出るなかで「大切な誰かに贈る」というコンセプトが一貫していました。
 私はここに、共創を広げていくポテンシャルを感じました。

「あんしん共創プロジェクト」が目指す世界

──このプロジェクトはこれまでどのように進んできたのでしょうか。
鎌田 4月に動き出してから、トレンドマイクロ社内では合計12人がかかわっています。社外からも4人の共創パートナーに参加していただき、最初は既存のマーケティングやPRに縛られず、どんなコンセプトを立ち上げられるかを4つのグループに分かれてディスカッションしました。
 そのなかで出てきたコンセプトのひとつが、「大切な誰かのためのセキュリティ」です。デジタルの機器やサービスを使いこなしている方でも、お子さんや両親、友人など、身のまわりの方が危険な目に遭わないかを心配されていました。
 スマホの設定やSNS、Eコマースの使い方について相談を受けても、自分が正しく答えられているかを不安に思う方も多かったんです。
 その後、友澤さんとの共創会議で議論を重ね、コンセプトを詰めてきました。振り返ると、自分に本当に近いところから安全なデジタルライフを話し合い、広めていけるような活動にしたいという点はブレなかったように思いますね。
友澤 鎌田さんは何気なくおっしゃっているんですが、今回の対話のなかで、トレンドマイクロの皆さんが徹頭徹尾、デジタルライフを送る生活者の視点で思考されていたことがよかったと思いますね。
 そのプロセスのなかから出てきたメタファーが「ギフト」だったのかな、と。
──生活者の視点というと?
友澤 たとえばトレンドマイクロという企業の視点に立つと、基本的には提供する製品やサービスの機能やベネフィットを訴求することになりますよね。そこから出てくるのは「リスクから守る」というメッセージです。
 ところが、生活者はそもそも「守りたい」とは思っていない。リスクを減らすことも守ることも、手段であって目的ではないんです。
 その目的を捉え直すところから議論を始めて、結果的にトレンドマイクロのビジョンに通じる「デジタルライフを楽しむこと」に行き着いた。
 これは、企業の社会意義や存在意義をアップデートしているようで、おもしろかったですね。
鎌田 私自身も、その視点の転換を得られたことがありがたかったと感じています。
 今回のプロジェクトでは友澤さんをはじめさまざまなビジネスパーソンの皆さんから、私たちトレンドマイクロの考えがどう受け取られるのか、客観的な意見をいただきました。
 フィードバックを受けて社内のメンバーと話し合い、コンセプトを練ってきた。そのなかで友澤さんが携わっている保険領域との共通課題が見えてきたり、自社のサービスや取り組みをつなげるアイデアが出てきたりと、いろいろな収穫がありました。
友澤 トレンドマイクロは、デジタルライフを楽しむことの障害をひとつずつ地道に取り除いていこうとされていると感じました。
 そのために個人へのデジタルライフサポートを行ったり、診断サービスを用意されていたりと、領域横断でサポートしている。啓蒙活動だってやるし、それだけだとわかりにくいからギフトまでやっていくんだ、と。これはデジタルプラットフォーマーからはなかなか出てこない発想です。
 そのうえで「共創」というカードを選ばれたのは、人の生活における安心・安全を提供できる場面が、デジタルのプライバシーや情報セキュリティよりも広範囲に及ぶからなのかな、と。
鎌田 そうですね。私たちが掲げるパーパスを、トレンドマイクロが提供するサービス領域だけでやろうとしても、できることは限定的です。結果的にうまくいかず、夢物語に終わってしまう。
 だからこそ、さまざまな企業に参加してもらいたい。パーパスに共感する異業種の企業や団体でカバーし合い、その輪を広げることによって社会にもっと大きなインパクトをもたらしたいと考えています。

あなたなら誰に、何を贈る?

──この10月から「あんしん共創プロジェクト」の共創コミュニティが立ち上げられます。ここからどんなふうに展開していきますか。
鎌田 まずはこれまで友澤さんやNewsPicks Creationsの皆さんと議論してきたアイデアを共創コミュニティに展開し、具体的なアクションに落とし込んでいこうと思います。
 トレンドマイクロとしての提供価値には、セキュリティ対策製品や診断サービス、デジタルライフサポートなどのサービスがあります。
 ただ、今回のプロジェクトを「あんしん共創」としたのは、デジタルに縛られずより広い領域の企業と協業する余白を残したかったからです。
友澤 私が考えるアプローチのひとつは、不安を取り除き、安心・安全な世界を目指していこうとするプロジェクトのパーパスを、共創パートナーと共有していくこと。
 具体的に何をアウトプットするかはコミュニティのなかで話し合うことになりますが、目指す方向が同じであればドライブさせる方法は見つかるでしょう。
 もうひとつは、トレンドマイクロ製品の利用シーンから逆算してシナジーの生み出し方を考えること。
 たとえば、セキュリティが心配になるのは生活環境が変わって新しいデバイスやサービスに切り替えるタイミングだったりするので、そうしたシーズナリティのあるイベントを他企業と共につくることも考えられます。
 私もこれまでは一人のマーケターとして皆さんとお話ししてきましたが、ここからは本業であるイーデザイン損保のCMOとしても、具体的なアクションを模索していきたいと思います。
 共創のやり方にもいろいろあるので、「あんしん」や「ギフト」のようなキーワードを掛け合わせて考えていけるといいですね。
鎌田 そうですね。「あんしん」をギフトとして贈るならどんなことを考えられるか。贈って終わりではいけないので、そのギフトを通してどんなコミュニケーションをデザインしていくかもあわせて考えていきたい。
 この数カ月の議論からも、さまざまなアイデアが出てきました。これから新しいパートナーに参画していただくことで、私たちには思いもよらない仕掛けが出てくると期待しています。
 プロジェクトの情報は、共創コミュニティサイト上に順次公開していきます。私たちと一緒に「あんしん共創」に取り組んでいただける企業の方、また生活者の視点でご意見やアドバイスをいただける個人の方の参加をお待ちしています。
取材・執筆:宇野浩志
撮影:後藤 渉
デザイン:武田英志(hooop)