(ブルームバーグ): 楽天証券が国内株式の売買手数料無料化に踏み切った。先陣を切ったSBI証券に追随した形だが、今回の決定により楽天証の短期的な業績悪化は避けられず、親会社で新規株式公開(IPO)を目指す楽天証券ホールディングス(HD)の公開価格の決定に影響を及ぼしかねないとの見方が出ている。

ネット証券最大手のSBI証が9月30日の発注分から国内株取引の手数料を無料化すると発表したのは8月31日の朝。同日午前には楽天証もすぐさま、10月1日からの無料化実施を発表した。顧客を囲い込むための手数料引き下げ競争は熾烈をきわめ、ついに収益源の一角を占める国内株取引の手数料が「ゼロ」にまで到達した。

想定外の追随

「上場申請を行っている楽天証の即時追随は想定外の印象」。SMBC日興証券の原貴之シニアアナリストは4日付のリポートでこう指摘した。

     SBI証は以前から国内株取引の手数料無料化方針をいち早く打ち出していたが、楽天証の発表は市場では意外感を持って受け止められた。楽天証HDが7月に東京証券取引所に上場申請を行っている最中であり、業績悪化につながる今回の決断は企業価値評価に影響を与えかねないためだ。

岡三証券の奥村裕介アナリストは手数料ゼロ化により年間の営業利益で「100億円強は影響があるのではないか」とみる。楽天証の来期(2024年12月期)の一時的な要因を除いた同利益について、今期予想の260億円から7割減となる80億円に落ち込むと予想。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト、マービン・ロー氏らも、手数料ゼロ化により楽天証は年間営業利益の約6割を失う可能性があると試算する。

楽天証HDのIPOの公開価格が想定を下回れば、財務改善が課題である親会社楽天グループの資金調達計画にも波及することになる。BIのロー氏らは「楽天証のIPOのバリュエーションが低下し、楽天Gの財務的圧力の緩和に寄与し得る調達額が減少することも考えられる」との見方を示す。

     楽天Gの前期(22年12月期)の連結純損益は過去最大となる3729億円の赤字。携帯電話事業の不振で赤字は4期連続となった。今年4月に楽天銀行が上場するなど子会社によるIPOのほか、5月に公募と増資で計3000億円規模を調達するなど資金手当を進めている。

中長期的には価値向上も

一方、手数料ゼロ化は中長期的には企業価値を向上させるとして公開価格に大きな影響はないとの見方もある。SBI証の森行眞司シニアアナリストは「よりシェアを伸ばすため」の戦略であり「最終的には利益につながる」と指摘。公開価格については「バリュエーションをどうつけるかという話だ」とし、短期的な利益の減少とは「また違う議論になる」という。

ネット証券の間では来年から始まる新しいNISA(少額投資非課税制度)を前に顧客の獲得競争が激化。楽天証の6月末の口座数は924万口座とSBI証の1047万口座を追う。楽天証では9月の総合口座、NISA口座の開設はともに前月比で増加し、特にNISA口座の申込数は、前月比3割増だったという。

     今回の手数料ゼロ化の決断について楽天証の広報担当者は「一時的な業績への影響はあるが、新NISAへの期待と無料化効果による顧客基盤の拡大は力強く、潜在的な事業成長力は増している」と電子メールでコメントした。楽天Gの広報担当者も、新NISAへの期待と無料化効果が楽天証の顧客基盤の拡大に貢献すると考えていると述べた。

米モーニングスターのアナリスト、マイケル・マクダッド氏は手数料下げ競争は短期的には「収益を圧迫する」としながらも、1999年の手数料自由化以来の歴史を振り返れば、「結果的に最大手のSBI証と楽天証のシェアに利益をもたらし、中長期的な価値を押し上げた」と語った。

     楽天証HDが上場申請を行ったのは7月4日。一般的に約3カ月間の上場審査を経て、上場会社としての適格性が認められれば新規上場が承認される。現時点では上場可否や上場時期については決まっていない。

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