2023/10/27

【最前線】Z世代に刺さる、デジタルサービスの作り方と届け方

NewsPicks / Brand Design editor
 Z世代 ──。
 2000年代生まれの若者たちを指し、真のデジタルネイティブとも呼ばれ、新たな市場の担い手として注目されている。
 彼・彼女らに刺さるデジタルサービス(Web、アプリ)をつくるには、何が必要なのか。そして、Z世代のユーザーインサイトを丸裸にするには、何を知るべきなのか。
 2023年9月19日、NewsPicksはオンラインイベント「Z世代を動かす デジタルサービスのつくり方」を開催。
 Z世代有識者らが、これからのデジタルサービスづくりの肝について、徹底解説した。
 本記事では、その模様をダイジェストでお届けする。

Z世代の行動源泉は「自己有用感」

井上 Z世代の当事者でもある椎木さんは、Z世代の特徴をどのように捉えていますか。
椎木 Z世代の特徴にはいくつかの分類があるのですが、そのうちの一つが「全員批評家」というものです。
 例えば、自分が利用した飲食店やサービスの感想やおすすめ情報などを、TikTokやインスタグラムに投稿します。PRのお金はもらっていなくても、です。
 企業側からすれば口コミでサービスを拡散してもらいやすいメリットがありますが、もし質の悪いサービスを提供すれば、そうした情報もあっという間に広まってしまう面もありますね。
井上 なぜZ世代は、わざわざSNSで情報発信を行うのでしょうか。
椎木 自分がいかに社会や誰かの役に立っているか、という「自己有用感」を得たい傾向が強いためです。
 SNSを見てみると、「この洋服はいくらでしたか?」といった、ググればすぐにわかるような質問にもマメに回答している人をよく見かけます。
 またZ世代には、「世界との距離が0センチ」という特徴もあります。これは主にSNSを通じて、日本と外国のトレンド交換が頻繁に起きていることを意味します。
 例えばミュージシャンの藤井風さんの楽曲を通じて、世界中の人がダンスをしたり、エモいBGMとして使用したりしています。
 逆に日本ではTikTokなどでK-POPの音楽はもちろん、メイクやファッションなどがトレンドになっていますよね。
井上 海外とのトレンド交換が頻繁に起きていることは、サービス開発やマーケティングの現場で押さえておきたいポイントですね。
 飯塚さんは、ビジネスの視点からZ世代の特徴をどう捉えていますか。
飯塚 高品質な体験を提供することが重要な世代だと考えています。椎木さんからもあったように、サービスを利用した感想が、SNSで拡散されやすいためです。
 低品質なサービスで目先の利益を追い求めると、中長期的にマイナスの影響を受けることは間違いありません。
井上 飯塚さんは2023年9月末までマッチングアプリ「タップル」の運営会社で代表を務め、10月以降も取締役として事業を拡大させています。
 その施策のなかで、Z世代向けに意識していることはありますか。
飯塚 早くサービスを理解できて、早く卒業してもらえることを意識しています。
 目先の収益だけを見れば、当然長く使いつづけてもらいたいものです。しかし、マッチングアプリは、優れたサービスであればあるほど、早く恋人が作れて卒業できるべきですよね。
出典:タップル社資料より
 また安心安全であることも重視していて、パナソニックの顔認証技術をアプリに導入し、本人確認をしています。
 ほかにも連絡先の交換を禁止するなど、「安心安全に恋人を探すならタップル」というブランディングを徹底してきました。
椎木 たしかに、タップルは真剣なお付き合いができるイメージがありますね。
 私が代表理事を務めているSNSトレンドマーケティング協会では、Z世代の行動パターンを表す概念として「SCSETAR(スクセター)」を提唱しています。
 気になるお店やサービスがある場合、まずGoogleで検索(Search)して、スクショ(Capture)する。次にXやYouTube、Instagramなどの複数SNSでさらに検索(Search)し、比較検討(Examination)。時期(Timing)が来たら購入(Action)という具合です。
 先ほど口コミの話もありましたが、最後の「Review=口コミ」を蓄積できていないサービスは、どんなに優れていても検索しても引っかからないので、彼・彼女らにとっては存在しないに等しいものとなってしまうんですよね。

サイバー流サービス開発の“極意”

井上 検索もレビューもスマホ一択の時代です。サービスづくりで意識していることはありますか。
飯塚 尖った特徴をつくることと、本質的な価値提供をすることです。
 ほかのサービスには無い特徴があることで、SNSで言及されやすくなります。
 またヒットサービスと言えるXやInstagramは、一人ひとりのユーザーが長期的に使い込んでいます。
 一方で、新興のWebサービスやアプリは、少し触って価値を感じてもらえなければすぐにアンインストールされてしまいますよね。
 なので、尖った特徴があることと、毎日使われる本質的な価値があることを両立している必要があると思います。
井上 言い換えると、少し触っただけで、毎日使いたいと感じてもらう必要があるということでしょうか。
飯塚 その通りです。しかも「このアプリは不要」と判断されるまでのスピードは、年々速くなっていると感じます。
 そのためアプリのダウンロードからその価値を体験できるまでの時間を、できるだけ短くすることが重要です。
井上 なるほど。椎木さんは、スマホ一択の時代という観点から、サービス開発において重視していることはありますか。
椎木 大きく分けて2つあります。1つ目は、ネガティブに感じられる要素は、小さなものでも取り除くことです。
 たとえば一時期流行した、友人と位置情報を共有するアプリに関して、スマホのギガをたくさん消費するというSNS投稿が悪い意味でバズりました。
「たかがギガくらい」と思うかもしれませんが、Z世代はストレス耐性が低いので、小さなペインを放置しないことが重要です。
 2つ目は、Z世代はSNSやプラットフォームを目的別に使い分けているということです。
 同じA子さんでも、InstagramとYouTubeは、異なる目的や気分で見ています。そのため、プラットフォーム別に、販売方法や広告戦略を検討する必要があります。
井上 なるほど。飯塚さんは多くのWebサービスやアプリを開発するサイバーエージェントで執行役員を務めていますが、サイバー流のサービス開発の“極意”などはあるのでしょうか。
飯塚 極意と呼べそうなものは2つあります。1つ目は、担当者が熱狂しているかどうかです。
 結局、Z世代向けのサービスが当たるかどうかは誰もわからないんですよ。なので、発案者がヒットのイメージを明確に持てていたら、ゴーサインを出す文化があります。
 2つ目は、ひとまず撤退基準だけを決めて、気軽にリリースしてみることです。発案者の熱量を根拠にゴーサインを出しても、撤退基準が明確なら、業績に大きなダメージとなることは避けられます。
井上 発案者の熱量のほかに、サービスのヒットが予想できる具体的な指標はありますか。
飯塚 リリース後の初速やオーガニックの購入数は重要ですね。
 たとえばアプリでいうと、広告ではなく、SNSでのバズや口コミからのダウンロードが加速していると、その後の伸びも期待できます。
 次に継続率です。これはサービスの利用が習慣化される可能性があると予測できるためです。
井上 なるほど。シンプルに言えば、ファンを作れ、と。
椎木 私もN=1、つまりたった1人のコアファンの声に耳を傾けることを大切にしています。
 クライアントからZ世代マーケティングの相談を受けるときに「数万人のビッグデータを分析したが、何が正解なのかわからなかった」と言われることがよくあります。
 そのため最近では、そのクライアントのサービスを何度もリピートしているコアファンの意見を、商品開発や広告戦略に落とし込むことが主流になりつつあります。
 結局、長年のファンをないがしろにすれば、すぐに悪評がSNSで拡散されますしね。

コアファンは“外部アドバイザー”

井上 ファンの声はどのように拾っていますか。
飯塚 私はXでタップルについて書かれた投稿と、問い合わせに届く質問には、ほぼすべて目を通しています。
 大量のコアユーザーの意見を見ることで、少なくともプロダクトの方向性を大きく見誤ることは防げると思います。
井上 飯塚さんクラスの責任者が、ユーザーの意見に目を通すことも重要ですか。
飯塚 はい。責任や権限のある人が、サービスの管理画面しか見なくなったら、そのサービスは終了に向かうでしょうね。
 それこそタップルに携わり始めた当時は、男性ユーザーから「サクラが多い」という問い合わせが多かったんですよ。
 当然ながら、サクラは雇っていません。ではなぜサクラが多いと思われていたのかというと、女性からメッセージの返信がないことを「サクラのせい」と認識されていたんです。
 それならばと、サクラを雇っていないことを公式から伝えたり、返信したくなるようなメッセージの送り方について情報発信したりといった改善策を実施しました。
井上 大変リアルな事例をありがとうございます。
 椎木さんは、コアファンの声の拾い方について、意識していることはありますか?
椎木 SNSや問い合わせ窓口からの意見に目を通すことは、誰でも取り組みやすいという意味でも、オススメな方法です。
 声の拾い方については飯塚さんと同意見なので、私は、拾った声をどう生かすのかについて考えてみました。
 私の場合、SNSでなんでもかんでも文句を言っているような方は、スルーしています。逆に、毎日サービスを使ってくれるユーザーの声はきちんと受け止め、もしクレームが入れば、個別に謝罪やヒアリングをさせてもらうこともあります。
 コアファンは、いちユーザーというより、外部のアドバイザーくらいの認識でサービスに巻き込んでいくことが重要です。

本音は閉じられた世界で発信される

井上 とは言え、多数のユーザーの声の中から価値ある情報を見抜くのは難しいイメージですが、コツはあるのでしょうか。
飯塚 拾うべき声は3種類あります。
 まず無料のサービスであれば、習慣的に利用してくれるユーザーの声です。次に課金のあるサービスであれば、ロイヤルユーザーの声は当然重要です。
 あとは課金の有無にかかわらず、サービスを利用しはじめたばかりのユーザーの声ですね。
 サービス利用1日目の方にとって、わかりにくかったり、使いにくかったりするところがあるなら、徹底的に取り除くべきだと思います。
椎木 私はコアユーザーはもちろんですが、潜在顧客の声も重視しています。
 Z世代はネガティブな情報を、SNSの裏アカウントではなく、Instagramの公開範囲を限定できる「親しい友達」機能で発信する人が多い傾向にあります。
 そうなるとサービス開発者が直接的に声を拾うのは困難です。
 そこで一例ですが、Z世代の社員に「限定公開でサービスのレビューが投稿されていたら、教えてほしい」と伝えておくのも有効な手段だと思います。
井上 Z世代がSNSの裏アカウントで不満を吐き出していないとは、知りませんでした。本音は閉じられた世界で発信されているんですね。
椎木 裏アカウントを持っているユーザーは多いのですが、アウトプットの出口よりも、インプットの入り口を変えているケースのほうが一般的です。
 たとえば、リアルな友達との交流用、推し活用、また別の趣味用のように、各アカウントから別々の情報を得ているイメージですね。

サービス利用の手本を見せる、Z世代マーケの第一歩

井上 ここからは商品リリース後のファンづくりについて、具体策を伺いたいです。飯塚さんからいかがでしょうか?
飯塚 先ほど、オーガニックの意見が重要と述べましたが、ユーザーの心を動かすプロモーション戦略も重要です。
 その具体策の一つが、タップルのTikTok公式アカウント「幼馴染と共同生活中【おさ活】(以下:おさ活)」です。
 アカウント開設1年でフォロワー34万人、累計再生回数2億回突破と、Z世代から大きな支持を得ています。
 おさ活の目的は、タップルのファンづくりの前段階、Z世代の恋愛離れを解消することと設定しています。
 現在、20代の男性の約7割に恋人がいないと言われています。原因は、恋愛が数あるエンタメの1つであり、自分の生活に必須のものではないという認識があるようです。
 そのため「タップルで恋人探しをしましょう」と訴求するより、そもそもZ世代の人たちに恋愛をしたいと思ってもらうほうが重要だという方針になり、おさ活の運営を始めました。
 内容は幼馴染の男女の、曖昧な関係をストーリー形式で発信するもので、多くのZ世代から共感の声をいただいています。
椎木 おさ活は、どの企業もマネするべきZ世代マーケティングの手本です。おさ活の男女を見ていると、応援したい、自分もああいう関係のパートナーがほしいという気持ちになります。
 そこでパートナーを探すために、タップルを使い始めるという、企画や動線づくりが本当にうまいんですよ。
 それこそ私はZ世代マーケティングで「テンプレを与える」ことを重視しているんですが、おさ活のアカウントは、まさしくテンプレと言えます。
 Z世代は、何をするにも手本を欲しがる世代です。だからこそ、おさ活のように「恋愛ってこうすればいいんだよ」と見せてあげることが非常に重要です。
井上 それこそサービス利用時のシチュエーションを、5W1Hくらい細かく提示するほうがいいのでしょうか。
椎木 そうですね。たとえば、TikTokでよくあるダンスの投稿であれば、どこで、誰と、どんなダンスをするのか。
 さらに言えば、この光の当たり方が盛れやすいというレベルで包括的に手本を示してあげることで、視聴者がマネをしてくれたり、ファンになってくれたりします。
井上 Z世代に届いてほしいからとりあえずTikTokを始めるのではなく、サービスを利用するシチュエーションをかみ砕いて、コンテンツに落とし込むことが重要なんですね。

コツは、細かくても共感するコンテンツ

井上 おさ活の事例から学べるのは、「共感からサービスへの導線が生まれる」ということですね。
 ユーザーの共感を意図的に作ることは可能なのでしょうか。
飯塚 ベネフィットを訴求するのではなく、見る人の気持ちを動かすような広告やマーケティングを仕掛けることが大切だと思います。
 恋人を作るとこんな良いことがあります!と説明するよりも、ストーリーでキュンキュンさせるイメージです。あと、ひろゆきさんを広告に起用したらすごくバズったのですが、ネタ的な面白さも有効ですね。
 仲間を取り込むというか、僕らが投げたボールをうまく跳ね返してくれるような届け方を意識していますね。
椎木 私はめちゃくちゃ狭い共通点を見つけるのも良いと思います。
 あるあるでも、ないないでも良くて、よくバズっているのが、カップルでよく彼女に言われること第58位はこれです、みたいな。多くの人は「それはないない」と楽しめるし、当てはまった人は楽しくなりますよね。
 そうした小さな共通項を見つけて拾っていくのも、共感を生み出す一つの方法ですね。
井上 Z世代に寄り添う姿勢の大切さがよく分かりました。最後にメッセージをお願いします。
飯塚 ここまでZ世代というテーマで語ってきましたが、正直なところ、Z世代向けの秘訣みたいなものは無いと思っています。
 私ができるアドバイスとしては、色々なインサイトがある中で、一人ひとりのユーザーやファンをしっかりと見ることが一番重要だなと。
 あとは結局のところ、サービスは出してみないと分からないところが難しさだと思うので、それに耐えうる会社や挑戦する文化をつくっていくことが大切なのかなと思いました。
椎木 Z世代イコール全然違う考え方の人たちだから何もしないと一蹴されてしまうことって、すごく多いんですね。でも、それはすごくもったいない。
 Z世代のことをどうしても理解出来ないときは、自分の会社にいる若い子たちとちょっと会話をしたり、小さな工夫をしながら徐々に知っていき、少しでも苦手意識を克服していただけたらなと思います。