サッカー日本代表ベスト8への道vsウズベキスタン

日本 5-1 ウズベキスタン

うまい選手であえてカウンターを狙うという新戦術

2015/4/1
ハリルホジッチ新監督の2戦目となったウズベキスタン戦で、日本は5対1で完勝した。少しずつ見え始めた「うまい選手でカウンターを狙う」サッカーとは?

ハイテンポの高速コンビネーション

「縦に速いサッカー」と一口に言っても、2つのモデルがある。

1つは前に大きくボールを蹴り出して、FWが空中戦で体を張ったり、あるいはスプリントの競争を挑んだりして、「肉体の強さや速さ」を生かしたものだ。イングランドのチームに、このタイプがよく見られる。

良く言えばパワフルなのだが、悪く言えば大ざっぱ。自分たちのFWと相手のDFの力関係によって勝負が決まることが多い。

もう1つは、もう少しモダンなモデルだ。

ロングボールをスペースに蹴り出すのではなく、立ち止まっている選手の足下、もしくは走っている選手の足下に、強いグラウンダーのパスを正確につないでいく。ドイツのレバークーゼンやボルシアMGが、このモデルを採用している。

少ないタッチで、足から足へ──。バスケットボールの速攻を思い浮かべれば、イメージしやすい。

選手に技術がなければできない速攻であり、シンプルに言い換えれば、「うまい選手たちでカウンターを仕掛ける」ということだ。

大胆さと緻密さの融合

どうやらハリルホジッチ新監督のモデルは、後者であるらしい。

新戦力の“お試し”の場となったチュニジア戦ではパスが大雑把で、どちらかと言えば、前者に近いサッカーになるかに思われた。

しかし、前線がベストメンバーとなったウズベキスタン戦では、選手の技術の質が上がったことで縦パスへのちゅうちょは見られなくなり、「大胆さ」と「緻密さ」が融合したダイナミックなサッカーがピッチに描かれた。

例えば、前半6分の攻撃にエッセンスが凝縮されていた。

まずセンターバックの森重真人がドリブルを始め、センターラインを越えてボールを持ち出した。すると本田圭佑が右から中央に走り込み、森重が対角線にパスを通す。

それを本田がダイレクトで落とし、岡崎慎司のトラップは大きくなったものの、こぼれを本田が再びダイレクトで横に流すと、乾がこれまたダイレクトでペナルティエリア内にスルーパスを出し、香川が左足でシュートを打った。

結局、DFにブロックされてコーナーキックになったが、このコーナーキックのこぼれから、青山敏弘のスーパーミドルによる先制点が生まれた。

青山敏弘はブラジルW杯後の負傷を乗り越え、ウズベキスタン戦ではスーパーミドルをたたき込んで先制点を決めた。縦に速く攻めるサッカーにおいて、青山のパス能力は大きな武器になる。(写真:AP/アフロ)

青山敏弘はブラジルW杯後の負傷を乗り越え、ウズベキスタン戦ではスーパーミドルをたたき込んで先制点を決めた。縦に速く攻めるサッカーにおいて、青山のパス能力は大きな武器になる。(写真:AP/アフロ)

後半19分にも似た攻撃が見られた。

あえてタッチ数だけで示すと、香川(1タッチ)→宇佐美貴史(1タッチ)→岡崎(1タッチ)→香川(2タッチ)→本田(3タッチ)→宇佐美が3タッチでクロス。

クロスは岡崎にわずかに合わなかったが、特に宇佐美が1タッチで前へ出した縦パスがワールドクラスの速さで、一気に攻撃を加速させた。

うまい選手で、あえてカウンターを狙う──。

ポゼッションができない選手でやると、目も当てられないサッカーになる可能性があるが、これまで日本サッカーは緻密さにこだわってきた。ザッケローニ監督の「主導権を握るサッカー」から転換したように見えるが、その土台があるからこそ、これだけ早く機能したとも言える。
 20150331vsウズベキスタン

本田圭佑が感じる新鮮さ

試合後、キャプテンを務めた本田を呼び止めた。日本を背負ってきたエースは、新監督のサッカーをどう感じているのか?

──キャプテンとしてチームの勝利を喜ぶ反面、個人としては思うようなプレーができなかった部分もあったと思う。今日の試合をどう捉えている?

「ウズベキ相手に勝てた、ひとつ結果を出せたということに関しては、非常に嬉しく思っています。ただ、どういう形で勝ったかということが大事になってくるんですけど、個人としてもチームとしても、監督がやろうとしていることを出せた部分、まだまだ質が足りない部分がある。

5−1という結果なので、あまり僕からポジティブなことを言う必要はないのかなと思っているし、どちらかというと1失点したところ。親善試合であの時間に失点してしまっていると、大事な試合でもああいうところで失点してしまうと思うので。ただ、5得点は評価ができますし、前線も競争がさらに厳しくなってくるのは非常にポジティブなことだと思います」

──前半から縦に速く攻める意識を強く感じた。同時に、速く攻めながら、正確さにもこだわっているように見えた。

「うん。あれで正確さを求めていく、ということなんですよ。でも正確さを求めるが故にスピードを落とすということではないと思うんです。最高のスピードを求めていく。それはすごく必要だなと感じているし、それはやっていてすごい楽しいですね」

──うまい選手であえてカウンターをやるという新しさ、難しさがある?

「例えば、ブラジルとか裏へスピードアップしても、本当に質が高い。技術の差と言ってしまえば、そこまでなんですけど。ああいうインテンシティの中でテクニックにこだわってプレーすれば、かなり向上の余地が全員にあるんじゃないのかな。うん、そこですよね。日ごろからあれだけのインテンシティで、その質にこだわるかどうか、ということだと思います」

最後に本田はこう付け加えた。

「最高のトップスピードでやらないと見えないところがある。そういう意味で、新鮮さを感じています」

ハリルホジッチ監督のサッカーにおいては、ボールを正確に扱う速さ、考える速さ、走る速さ、切り替えの速さ、寄せの速さといった、あらゆる「スピード」が求められる。

今だから分かることだが、ザック時代、ややサッカーが「左脳」的になりすぎていたという印象があった。

「速さ」×「大胆さ」×「緻密さ」×「競争」とういう新たな数式が、しばらくの間、サッカーにおける「左脳」と「右脳」の両方を活性化してくれそうだ。