(ブルームバーグ): 数十社に上る日本のスタートアップが向こう数年間に米ナスダック市場に上場する準備を進めている。投資家の年齢層が高くなりリスク回避の傾向にある国内市場から、前例のない数の起業家が遠のきつつあるためだ。

規制当局への届け出によると、今年に入って5社がナスダックに上場したのに続き、今後数カ月間に約7社が上場を予定。ブルームバーグが最近インタビューしたバンカーや起業家らによると、さらに約10-20社が来年の上場を計画している。昨年相次ぐ上場が始まる前には、ナスダックで取引される日本企業は少なかった。

米中の地政学的緊張の高まりで中国企業の新規株式公開(IPO)が最近減り、米国の投資家とバンカーらがこれら企業に代わる選択肢を模索する中で、ソフトウエアアウトソーシング企業や翻訳機器メーカーなどの日本企業が上場を目指している。

日本のベンチャーキャピタルは活気に欠けると見られ、イノベーションへの投資の大部分が大手複合企業の研究開発(R&D)に限定されている状況で、この動きは一見矛盾しているように見えるかもしれない。人口が減少し、経済成長見通しが不透明な中で、革新的なアイデアを持つ若い起業家は、チャンスと資本を海外に求めている。

法律事務所モリソン・フォースターのパートナー、ジェシー・ギルスピー氏は、「以前は、大企業のための市場だった」と指摘。「それが開放されつつある」と話す。

歴史的に見て、日本企業の米国上場は、二重上場を通じてグローバルな投資家へのアクセスを獲得することを目指すトヨタ自動車のような大企業が中心だった。しかし、多くの企業がここ数十年にニューヨークでの上場を廃止した。外国人が日本株に投資しやすくなり、コストが利点を上回ると各社が判断したからだ。

長引く経済成長低迷も海外での上場をさらに難しくしている。IPOの主なターゲットである日本の個人投資家は、年齢層が高くなりつつあるため、リスク選好度は増していない。それが、海外、特に、機関投資家が革新的だがまだ実証されていない技術に積極的に投資する米国で、資本を求める起業家が増えている一因だと、市場アナリストやエコノミストは指摘する。

3月にナスダックに上場した不動産開発とクラウドファンディングサービスを手掛けるシーラテクノロジーズの創業者でグループ執行役員CEOの杉本宏之氏は、日本の投資家が同社の価値を見積もることに慎重であることが分かったと話す。

ナスダックに問い合わせたり、米国の機関投資家と話したりしたところ、評価額は3倍、IPO規模は5倍という提案だったと杉本氏は言う。「迷う余地はなかった。米国で挑戦することに決めた」。

日本総合研究所の上席主任研究員の岩崎薫里氏は、この傾向について、企業文化の変化も後押ししており、伝統的な優良企業での終身雇用を選ぶよりも、スタートアップへの入社や起業を選ぶ若くて優秀な労働者が増えている背景があると述べた。彼らは国内市場以上にグローバル市場を知っており、グローバル化に対してより柔軟な考えを持っているとの見方を示す。

この変化は、カリフォルニア州を拠点とするブティック型投資銀行ボーステッド・セキュリティーズのような企業に利益をもたらしている。同社は2021年に最初の日本人顧客と契約し、その後9社を追加した。一方、中国の顧客との取引は減少している。

同社創業者でCEOのキース・ムーア氏は、「米国以外で最も急成長しているのは、間違いなく日本だ」と指摘。「その数の多さには目を見張るものがある」と話す。

ボーステッドは、昨年ナスダックに上場したソフトウエアアウトソーシング会社ハートコアエンタープライズの主幹事を務めた。また、今年は超音波技術の開発会社ピクシーダストテクノロジーズのIPOも手掛けている。

ブルームバーグがまとめたデータによると、ナスダックにおける中国企業のIPOは今年、25社に減少。21年には追加公募を含め過去最高の74社を記録していた。一部の中国企業は欧州での新規上場を目指している。

KPMGジャパンのグローバル・キャピタルマーケット・アドバイザリーグループ責任者でパートナーの湯口豊氏は、引受会社のような助言会社は現在、日本企業をターゲットにしていると述べ、新興企業が長い間ナスダックへの上場を目指してきたシンガポールなどとは異なり、日本はまだ相対的に「ブルーオーシャン市場」と見られていると述べた。

ハートコアの創業者でCEOの神野純孝氏は、ナスダック上場を検討する際に参考にすべき新興企業がほとんどなかったという。誰もその方法を知らなかったと話す。

国内のスタートアップファンドのデータを収集するイニシャル・エンタープライズによると、日本のスタートアップ企業は22年の資金調達ラウンドで過去最高の9459億円を調達した。14年時点では1428億円だった。この勢いを持続させるため、岸田文雄首相はスタートアップへの投資額を10兆円規模まで増やし、27年度までに10万社の新興企業と100社のユニコーンを創出する計画を発表した。

東京証券取引所の親会社である日本取引所グループの山道裕己CEOによれば、東証はビジネスの奪回を目指し、成長著しい企業をグロース市場に誘致している。

しかし、日本のナスダックブームは長続きしない可能性があり、今回の上場がより大きな成長と最終的に収益性につながるかどうかは不透明だと指摘する声もある。

ナスダック市場で成功するためには、プロの機関投資家の間で十分な流動性が必要であり、上場しているだけでは意味がないと語るのは、東京大学エッジキャピタルパートナーズの郷治友孝CEOだ。郷治氏は、日本のスタートアップの中には、具体的な成長計画なしにナスダック上場を目指しているように見えるものもあるとの見方を示した。

原題:Nasdaq Helps Japan Startups Escape Risk-Averse Home Market(抜粋)

--取材協力:Julie Chien、Winnie Hsu.

(第8段落以降を追加します)

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