2023/9/22

【與那覇潤】日本人が囚われる「正解フォーマット」の罠

NewsPicks編集部
多様性、ポリコレ、ルッキズム…。
こうした言葉を聞くたびに、そうだそうだとなずきながら、どこか心の奥ではモヤモヤした感覚を抱く人はいないだろうか。
どれも大切なことだけれど、どんどん社会で“真っ当な”人間として生きるための必要科目が増えているようで少し不自由を感じる。批判されない言葉を探すうちに、口数が少なくなっていく。
そうした違和感の正体は何か。評論家の與那覇潤氏が、鋭く切り込む。
INDEX
  • 視覚の強化は「触覚の衰退」
  • 考えずに「正解」に乗る社会
  • 「意識高い」は思考停止?
  • ネガティブさに場所が必要
  • 見た目の「操作主義」は幻想
  • 健康の鍵はグラデーション

視覚の強化は「触覚の衰退」

なぜルッキズムが、近年ここまで問題になるのか。それは社会で主流をなすメディアが、私たちの五感のうち「視覚」のみを、強化し過ぎたためでしょう。
かつてカナダの文明批評家マクルーハンは、ニューメディアの出現を「人間の拡張」という比喩で表現し、一世を風靡しました。
たとえばラジオの普及は、自宅にいながら遠くの会場での演説を聞くことを可能にしました。テレビによって、地球の裏側での戦争を目撃するようにもなりました。
つまり、ラジオによって私たちは異常なほど「耳がよくなり」、テレビのおかげで「目がよくなった」。人間の五感の一部が、メディアによって拡張されたとも言えるわけです。