竹中平蔵の経済がわかる

竹中平蔵の「経済がわかる」

経済と安全保障の狭間の協議

2015/3/26
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」ーー経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく読み解きます。

「集団的自衛権」に踏み込む

「経済がわかるメルマガ」の、文字版としてはいよいよ最終回の配信となりました。これまで約2年間、購読してくださった方々に、心から御礼を申し上げます。いつかまた、形を変えてこのような機会がくることを、私も楽しみにしています。

さて今週は、最終回にふさわしく「経済と安全保障」という大きな問題を取り上げました。

この通常国会で、いよいよ「安保法制」が議論されることになります。この問題にやや消極的だった公明党も合意して、法案の主たる内容が決まりました。民主党は反対なので、この国会そのものが対立色の強い「安保国会」になります。

安倍内閣は発足以来、一貫して「エコノミー・ファースト」(経済が第一)を唱えてきましたが、安倍首相の政治的信念を受けて、いよいよ「集団的自衛権」に踏み込みます。

これはもちろん重要なことです。すでに安倍内閣としては、これまでの集団的自衛権に関する解釈を変えて法案を提出することを閣議決定(昨年7月1日)しています。したがって、今回の出来事は、手順としても自然なことです。

要するに、日本の存立が脅かされることなどを条件に、他国軍を防衛する集団的自衛権を使えるよう法改正するという内容です。「日本の存立が脅かされる明白な危険」など三つの要件にあたる状況を「新事態」として定義し、自衛隊が防衛出動して他国軍を守ることができるように、自衛隊法と武力攻撃事態法を改正するものです。

これから具体的な法案づくりに入りますが、自衛隊派遣の歯止め策を具体的にどうするか、改めて与党で4月中旬から協議することになっています。 私は、集団的自衛権という各国固有の権利を行使できるようにするのは、当然のことと考えます。ぜひ国会で、しっかりと審議を進めてもらいたいと思います。

AIIB参加、不参加問題

しかしこの間、もうひとつの難題が降りかかってきました。以前も紹介したことのある「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)です。

中国が主導するこの構想に対して、日本はアメリカとともに反対し、参加しない意向を示してきました。表向きの理由としては、アジア開銀などの機関がすでにあること、ガバナンスがきちんと確保されるか不明確なこと、が挙げられてきました。

しかし、明らかにその本音は、アメリカと中国の主導権争いで、日本はアメリカの側を支持するという表明だったのです。ところが、ここにきて情勢が大きく変化してきました。

アジアの途上国はもちろんのこと、ヨーロッパのいくつかの国も、AIIBに参加すると表明したのです。明らかに、アジアへのインフラ輸出に当たって、これに参加することが有利と判断したのです。

これを受けて日本政府の中にも、「条件次第では参加もありうる」という議論が出はじめました。日本の産業界も、AIIBに不参加ならインフラ輸出において不利な環境になるのではないか、と懸念しています。

アメリカは、中国との影響力争いの中で、早い時期から同盟国に対して不参加を呼びかけてきました。しかし、いま明らかに結束が崩れています。アメリカ、とりわけオバマ大統領のリーダーシップ欠如と言ってしまえばその通りですが、安全保障と経済の微妙な関係を象徴しています。

AIIB問題は、あくまで外交判断の問題です。個々の外交判断では、日米、日欧で対立が生じることはありえます。しかしそうであればこそ、集団的自衛権に関する法整備など、いわば外交・安全保障のインフラ作りはしっかりとしていかねばならないのです。

外交判断と安全保障のインフラ整備……その両面において、安倍内閣はひとつの正念場を迎えます。

今週の経済ニュースの要旨

「自衛隊、他国軍も 安保法制、自公が合意」『日本経済新聞』2015年3月21日付(朝刊第1面)

自民、公明両党は20日、自衛隊の海外活動を広げる新たな安全保障法制の骨格で合意した。中国の海洋進出などを念頭に「いかなる事態でも、切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備する」とし、海外派遣では、(1)国際法上の正当性(2)国会の関与などの民主的統制(3)自衛隊員の安全、を確保する方針を掲げた。
 
結論を先送りした歯止め策には、恒久法で派遣する際の国会の関与がある。基本とした「事前承認」をどこまで義務付けるか、集団的自衛権で武力行使の3要件をどう反映するか、これから詰める。

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