2023/8/30

EVシフトのカギを握る、スリーダムアライアンスとは何者か

NewsPicks, Inc. Brand Design Editor
脱炭素をけん引すると期待されるEV(電気自動車)シフト──。
しかし、その製造工程ではガソリン車の2倍の温室効果ガスが発生するほか、バッテリー寿命の短さなどから、結局は大量生産と消費を繰り返す問題が指摘される。
(istock:Teamjackson)
この課題の解決に向け立ち上がったのが、次世代脱炭素プラットフォーマー、スリーダムアライアンスグループだ。
2014年に創業以降、革新的なセパレータ(絶縁体)技術を核とした次世代型バッテリーの研究開発に取り組んできた同社。
EVシフトのカギとなる電池が抱えるコストや寿命、廃棄時に生じる環境汚染などの問題を解決するため、長寿命かつエネルギー密度に優れた次世代型バッテリーの開発・量産化に挑んでいる。
またシンガポールに拠点を置くグループ会社「noco-noco」とともに、その技術力と新たなビジネスモデルの構築を通じて、企業のサステナビリティを支援する脱炭素プラットフォーマーへとさらなる進化を遂げようとしている。
脱炭素プラットフォーマー、スリーダムアライアンスグループとは何者か? スリーダムアライアンス取締役兼noco-noco CEOの松村正大氏に話を聞いた。
アメリカンインターコンチネンタルユニバーシティロンドン卒業。デザイナーとして日本のファッションブランドのクリエーティブディレクター兼代表取締役に就任。自身のブランドも立ち上げ、代表取締役として経営に携わる。その後、スリーダムアライアンス取締役、代表取締役を経て、2022年11月よりnoco-noco CEOに就任。

大量生産・大量消費サイクルからの脱却

──世界的に加速するEVシフトの現状をどのように見ていますか。
松村 EVは環境にやさしいというイメージが先行していますが、EVの普及が進むだけでCO2の排出量が劇的に削減されるかといえば、そうとも言い切れません。
 石炭火力発電で作られた電力で充電している限り、結局は化石燃料由来のエネルギーで走行することになります。
 しかも、EVの心臓ともいえるバッテリーを製造する際には大量のCO2が発生しており、EV製造時のCO2排出量はガソリン車の製造時の2倍以上と言われます。
 さらにその生産過程では生活用水や農業用水を枯渇させたり、水質汚染や土壌汚染を引き起こしたりしている地域もある。
 もちろん製造時に大量のCO2が発生しても、その後長い期間にわたりCO2を排出することなく走り続けられるのであれば、トータルでは環境負荷を抑えられるでしょう。
 しかし、現状ではEVはガソリン車よりバッテリーの寿命が短く、中古車市場に出すと価値も大きく下落してしまう。EVもPCやスマホと同じで、充電と放電を繰り返すほど蓄電できる容量が減ってしまいます。
 そのため車体自体に損傷はなくても、バッテリーが寿命となり、まだ乗車できる綺麗な車がスクラップにされてしまうこともあります。
──バッテリーの交換などで、長く乗り続けることはできないのでしょうか。
 交換ができないわけではありません。ただEVのコストの3~4割をバッテリーが占めるとされますから、それこそ新車を買った方がいいという価格になってしまう。
 しかも、EVのバッテリーにはコバルトやニッケルなどの重金属のほか土壌や水、空気を汚染するマンガンも含まれており、汚染力がきわめて強いとされています。
 回収や廃棄の仕組みが確立されていない国や、不法投棄が問題になっている国もあり、深刻な土壌汚染も引き起こしています。
(istock:Tuayai)
 小さなスマホ用の電池でも陸地に廃棄されれば、1平方キロメートルの面積を50年にわたって汚染すると警鐘を鳴らす研究者もいるほどです。
 寿命の短い車を大量のCO2を排出しながら作っては売り、毒性の強いバッテリーを大量に廃棄することを繰り返す現状のモデルを回し続けることは、果たして環境負荷の低下につながるのでしょうか。
 問題点の多い現状のままEVシフトが進んだところで、走行中にCO2が発生しないEVの真価を発揮することはできないのではないかと危惧しています。

次世代型バッテリーの研究開発

──ガソリン車を単純にEVに置き換えるだけでは、環境負荷の低減につながらないと。では解決策はどのように考えていますか。
 大量生産・大量消費社会から脱却するためにも、私たちは大きく二つのアプローチが大切だと考えています。
 一つ目は、バッテリーの寿命を延ばすこと。そして二つ目は、EVを作って売るだけという従来のビジネスモデルの根本的な変革です。
 まず一つ目のバッテリーの長寿命性については、当社は2014年の創業以来、この問題を真に解決するために次世代電池の研究開発に注力してきました。
 その核となるのが、バッテリーの重要な部材である「セパレータ(絶縁体)」です。
 セパレータとは、電池の正極(+)と負極(-)が直接接触するのを防ぎ、イオン電導性(イオンの移動のしやすさ)を確保する役割を持つ部材のこと。
 セパレータが機能しない場合、正極と負極の電極同士が接触し、ショートが発生する可能性があります。ショートが発生すると、電池が過熱し、熱暴走さらには発火・破裂の可能性が上がったり、エネルギー効率の低下を招いたりします。
 従来のセパレータは、このショートのリスクを低減することが主な役割とされてきました。しかし、その構造や材料を根本的に変えることで、電池の寿命をはじめさまざまな性能を向上させることができるのではないか。
 そう考えたのが、リチウムイオン二次電池の研究開発における第一人者でもあり、弊社のCTO 金村聖志です。従来そこまで重視されなかったセパレータに着目し、2014年に研究開発をスタート。
 そして8年間の研究を経て開発したセパレータ「X-SEPA™」は、独自の構造により電池の寿命を飛躍的に延ばせる目処が立ちました。
 従来の一般的なバッテリーからは、2倍以上長い寿命を持った電池の開発を実現することが可能になっています。
 また高温地域では、性能の劣化により電池の寿命が大幅に短くなるという問題がありますが、X-SEPA™は高温環境下での長寿命化も実現しました。
 8年間の研究開発の月日を費やしましたが、いよいよこの革新的なセパレータの実用化に向けて動き出しました。
 2023年2月より電池メーカーにサンプル提供を開始しており、5年以内に全てのバッテリーへの搭載を目指しています。

脱炭素プラットフォームの正体

──EVの最大の弱点の一つだったバッテリー寿命の問題が解決されそうですね。二つ目の、従来のビジネスモデルからの変革とは?
 バッテリーの長寿命化は重要な要素ではありますが、それだけで全ての問題を解決できるわけでもありません。
 長い苦労を経て長寿命バッテリーを開発できたとしても、稼働率が低い個人保有の車に眠っているだけではもったいない。効率的な利用によって、バッテリーという貴重な資源を最大限に活用する必要があります。
 それには車体やバッテリーをインフラ化し、サービスとして提供する。その効率を高めることで、モノの量を減らしていく。
 そして販売量の減少によりサプライチェーンが苦境に陥らないよう、そのサービスから得た利益をともに分け合える仕組みが必要です。
 この根本的な変革を実現するため、当社のグループ会社であるnoco-nocoとともに、私たちは新たなビジネスモデルを通じた脱炭素プラットフォームの実現に挑んでいます。
──具体的に、どのようなビジネスモデルの実現を目指しているのでしょうか。
 noco-nocoは、サステナビリティに向けたソリューションを導入しやすい形で提供します。
 たとえば、当社のセパレータを使用した長寿命バッテリーを搭載したEVを当社が買い取り、物流企業などのユーザーに利用料をいただく形でリース(賃貸)する。これにより、その企業は初期投資が不要となり事業の脱炭素化を目指すことができます。
 そしてEVの利用だけでなく、製品の製造時に排出されたCO2をオフセットするカーボンクレジットや再生可能エネルギーでEVを充電できる設備の利用権などもパッケージ化して提供することで、運輸のカーボンニュートラル化を目指します。
※カーボンクレジット:森林の保護や植林、省エネルギー機器導入などで生まれたCO2削減効果を排出権として発行し、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組み
 いま多くの企業がカーボンニュートラルに向けた脱炭素化の目標を宣言しており、サプライチェーンのなかにある物流会社などにも圧力をかけています。
 しかし、車両を全てEVに置き換えるのに莫大な投資が必要だったり、カーボンクレジットをどこでどのように買えばいいかが分からなかったりと、多くの企業が苦労しているのが現状です。
 そこで私たちは、脱炭素化に対する経済的・実務的な障害を取り除き、なるべくシンプルで導入しやすい形でサービスを提供したいと考えています。
 また私たちがバッテリーを保有することになるため、劣化のモニタリングや利用の最適化、必要に応じた交換も随時行います。
 さらに、長寿命の一つのメリットでありますが、EV向けとしては寿命が来てしまったバッテリーも、回収して太陽光や風力発電向けの蓄電池として再利用できます。それにより、循環型経済の実現も目指します。

地球の残り時間、あとわずか

──実際、ユーザーの反応はいかがですか。
 ユーザーとしても九州のバス会社である九州産交グループ様と覚書を締結し、東南アジアでも複数のプロジェクトに取り組んでおり、実証実験の準備を進めています。
 このビジネスモデルを提供するnoco-nocoは、今年8月に米NASDAQに上場し、今後グローバルビジネスも展開していきます。
 ただ、地球温暖化に歯止めをかけるには、EV領域だけのアプローチでは足りない。社会全体でCO2排出量を減らすためには、モビリティだけでなくより広い視点で電力使用を効率化することが不可欠です。
 そんななか、最終的には、バッテリー残量や充放電状態、エネルギー使用に関する情報を処理するCPUを備えたインテリジェント・バッテリーを作ることを目指しています。
 このようなバッテリーをEVだけでなく、家庭や個人用機器など社会全体に普及させることで、より効率的で持続可能なIoTを支えるインテリジェント・バッテリーのメッシュ・ネットワークを構築したいと考えています。
──松村さんご自身は、かつてファッションデザイナーとして最年少となる26歳でミラノコレクションにデビューするなど、異色の経歴の持ち主です。もともと環境問題に関心があったのですか。
 洋服自体もCO2の排出量が非常に大きく、当時から問題意識を持っていました。
 ファッションでのキャリアは創造的で刺激的な経験ではありましたが、社会を劇的に変えるにはデザインだけでなく圧倒的な技術力が必要であることを痛感していました。
 そんななか技術力を武器に環境問題に挑むスリーダムアライアンスにジョインすることになり、その問題の深刻さをより理解し、解決に向けて意義ある変革を起こすことは私たちの使命だと考えるようになりました。
 多くの専門家によると、地球の転換点と言われる平均気温が1.5℃上昇するまでの残り時間は、もう数年しかない。
 私たちだけではなく、次の世代に豊かな未来を残すためには、脱炭素化を加速させなければならない。本当に、待ったなしの状況です。
 環境問題を真に解決するためには、私たちが思い描く脱炭素プラットフォームの構築と拡大が急務です。同じ志を持つ仲間を増やしながら、多くの会社や人に利益と、そして生活と環境をより良いものにできるような事業展開に励んでいきたいと思います。