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公共サービス型公民連携(PPP):刑務所PFIの実現の鍵となった「細分化」と「包括化」

公共サービス型公民連携(PPP):刑務所PFIの実現の鍵となった「細分化」と「包括化」

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藤木 秀明
公民連携(PPP)の活用藤木 秀明

今回は、前回ご紹介しました東洋大学の公民連携(PPP)3つの類型(下図)のうち、公共サービス型についてお話したいと思います。

(出所:根本祐二[2011]より筆者作成)

PFIを活用した刑務所運営

公共サービス型の例として、PFI(Private Finance Initiative)を活用した刑務所の運営を考えることにしましょう。

刑務所は、罪を犯した方に更生・矯正を目的とした懲役刑を与える施設でありますが、刑期を終えた方が仕事を得られず再度罪を犯してしまい、繰り返し入所することが課題となっています。そこで、国は刑務所の一部を、模範囚を対象とした社会復帰を促進するための教育訓練を重点的に行うこととし、刑務所の名称を「社会復帰促進センター」に改称しました。「社会復帰促進センター」に対して、民間の資金や能力を活用する公民連携(PPP)手法の一つであるPFI(Private Finance Initiative)を活用しその建設や維持管理のみならず職業訓練をも包括的民間委託することで実現しています。

業務を細分化することで、公権力そのものである刑務所でさえ、PPPが可能に

刑務所全体を捉えれば、懲役刑を与えることは究極の公権力の行使と考えることができると思います。犯罪者として逮捕・起訴され刑事処分が決まった方の全員が、刑務所に入所することを事前に納得しているとは考えにくいでしょう。

では、なぜ刑務所を民間委託することが可能となったのか考えてみましょう。実は、PFIにより刑務所を包括的に民間に委託する検討段階で、刑務所の業務を細分化し、刑務所の中で公権力の行使が必要とされる業務かどうかの評価を行っています。これにより、施設全体としては公権力の行使そのものである刑務所についても、職業訓練や警備、食堂運営、施設の建設、設計、情報システムなど多くの業務が、設置者(国・法務省)の監督下であれば包括的に民間に委ねること可能と判断されました。

中核業務である職業訓練業務を民間に委ねる

このような判断で民間に業務が切り出されたのが、社会復帰促進センターの中核業務の一つである職業訓練です。刑務所においては、懲役刑が行われる過程でさまざまな製品を制作し、法務省矯正局の矯正展や即売会で販売されていますが、懲役刑によって与えられた仕事として仕事をさせるのではなく、もう二度と犯罪を犯さない(言い換えれば刑務所に戻ることのない)人間として社会復帰が実現できるよう、社会での需要が見込まれる内容の職業訓練を民間のノウハウをPFI契約を機に取り込んだものです。平成22年版「犯罪白書」では、と、民間に委ねたことにより、従来の刑務所にはない新たな取組みが可能となったと評価しています。

これらの社会復帰促進センターにおいては、受刑者の社会復帰が円滑に行われるよう、民間のノウハウとアイディアを活用し、フードコーディネーターやシステムエンジニアの養成、パソコン技能の習得やホームヘルパー資格取得等の多様な職業訓練を実施しているほか、各種の特色あるプログラムに基づく改善指導を実施している。例えば、島根あさひ社会復帰促進センターでは、財団法人日本盲導犬協会の協力により、受刑者が盲導犬候補の子犬に生後12か月まで基本的な訓練を実施する社会貢献活動(パピープログラム)が一般改善指導として行われている。
平成22年版「犯罪白書

PFI刑務所の含意:細分化と包括化

PFI刑務所事例から、究極の公権力行使を行う施設である刑務所運営の民間委託において、業務を細分化すれば、一つ一つの業務は民間に委ねることが可能であり、中核業務である職業訓練をも委託することで、施設の目標である社会復帰促進、言い換えれば再犯者を作らない新たな刑務所を実現したことを見てきました。

併せて、民間に委ねることが可能とされた業務については、一つ一つの業務(例えば施設の清掃、警備、食堂運営)が業務ごとに分割して発注されず、刑務所を運営するPFI事業のSPC(Special Purpose Company:特定目的会社)に包括的に委託されています。業務ごとの分離分割発注ではなくSPCに対する包括発注とすることで、前述の公権力の行使を除いた業務全般を民間にマネジメントさせること、すなわち民間へのリスク移転が可能となっています。例えば、機械警備やICタグを活用することによって、我々が刑務所の警備で想像してしまう厳重な警備を用いず、社会復帰後の生活環境に近い環境で受刑者を処遇することが可能となっています。

細分化と包括化は、公民連携(PPP)の事業構想・デザインに有効

このように、公民連携(PPP)の対象とする事業の構想・検討においては、公民の役割分担について見直すこと、その際には公権力の行使の有無を精査して、民間に担わせることが可能と判断されたものを包括的に委ねることがポイントとなります。

PFIに限らず、公共サービス型の公民連携(PPP)手法である指定管理者制度、市場化テスト、コンセッション(PFI法に基づく公共施設運営権)、そしてPFS(Pay For Success:成果連動型民間委託)に至る、ハード・ソフトの公民連携(PPP)のデザインにあたり、民間が望む事業内容は従来公務員により検討・運営が行われてきた業務の設計思想とマッチせず、民間委託が「なじむ」「なじまない」と意見が官民で異なってしまい、その後の事業化検討の課題となることも少なくありません。

シンプルに、「公権力の行使」を伴うかどうか、という基準で、民間委託の検討対象となっている事業を構成する一つ一つの業務内容を精査する。民間委託になじむ・なじまないの意見は時にロジカルな議論から離れてしまうことも時に生じてしまうことも我が国の公民連携(PPP)では生じてしまいます。客観的な基準と議論の積み上げによって、適切な公民の役割分担の解が見いだされ、よりよい公民連携(PPP)の実現につながるものと思います。

おわりに

次回は、残りの2つの公民連携(PPP)の類型(公有資産活用型、規制・誘導型)について解説したいと思います。

見出し画像:我が国初のPFI方式による刑務所「美祢社会復帰促進センター」の航空写真(法務省ウェブサイトより)

参考文献:根本祐二[2011]「PPP研究の枠組みについての考察(1)」『東洋大学PPP研究センター紀要』創刊号、pp.19-28


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コメント


注目のコメント

  • 藤木 秀明
    東洋大学大学院 客員教授

    PFI(Private Finance Inititative)や指定管理者制度をはじめとした「公共サービス型」について解説しました。色々考えましたが刑務所PFIに、今日の公民連携(PPP)を考えるヒントがあるものと思い、掘り下げて取り上げました。


  • ONODERA Rinsei
    コンサル

    公権力の行使に当たる部分は民間移転できない、それ以外の部分から包括的に民間移転を考えるという例。勉強になります。
    一方で、公権力の行使でない公共サービスもPPPの対象ですので、その場合の官民分担を考える際には何が手がかりになるかも気になりました。


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