[ベルリン/ワルシャワ 21日 ロイター] - 欧州諸国には、戦火を逃れたウクライナ難民が数百万人も流入している。その多くは高学歴か、あるいは引く手あまたのスキルを備えているにもかかわらず、各国とも、労働力不足を埋める好機として生かしきれているとは言いがたい。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始後、怒濤(どとう)の勢いで国境を越えたウクライナ難民は、欧州連合(EU)東部の諸国にとって福音となっても不思議はなかった。各国では長年にわたり労働力不足が経済成長の足を引っ張り、インフレを加速させてきたからだ。

だが、託児施設の不足や、EU諸国以外での学位や専門資格が認定されにくいといった障害のために、人員不足は埋まらないままとなり、女性を中心とする新たな流入人口を失望させている。これでは、自分のスキルや教育水準に見合わない、希望する長期的なキャリア展望のない仕事を続けざるをえない。

スベトラーナ・チュヒルさん(37)は、2人の子どもと一緒にウクライナから避難した直後、整形外科医・理学療法士としてポーランドで働くための条件付き就労許可を申請した。実は申請には母国のロシア占領地に置いてきた重要書類が必要だったが、それを告げられたのは1年以上も経ってからだった。

ポーランド到着から1カ月後、整形外科学、理学療法学、組織管理学の学位を持つチュヒルさんは、社会福祉センターでインターンとしての仕事に就いた。手当は月1400ズロチ(約4万9000円)、現地の法定最低賃金の約半分にすぎなかった。

デロイトによる昨年10月の調査では、ポーランドはEUの中でも労働市場への規制が厳しい国の1つであることが示された。

チュヒルさんはロイターに対し、「(ウクライナでの)学位を認められなければ、医師や理学療法士として働くのは無理だった」と語った。

インターンシップを終えた後、チュヒルさんは医療とは無縁の仕事を2つ経験したが、娘2人の育児と、スケジュールのきつい仕事を両立させるのに苦労した。

ポーランド西部ズゴジェレツでは家賃も高く、チュヒルさんは昨年12月、国境を越えてドイツ東部のゲルリッツに転居した。ドイツ語の講座を修了し、仕事を見つけるまでは、政府が住居費を支払ってくれる。

チュヒルさんは1月以降、ウクライナ難民の女性と子どもに精神的な支援を提供する市内のセンターでボランティアとして働いている。

<まだ手遅れではない>

経済協力開発機構(OECD)のシンクタンクは、難民として最も新しいウクライナからの流入組をうまく社会に統合できれば、欧州の労働人口は0.5%ポイント増大し、長引く高インフレの主因とされる労働力不足の緩和につながる可能性があると予測している。

だが、パリを本拠とするOECDで移民政策アナリストを務めるアベ・ローレン氏によれば、侵攻開始から17カ月を経過した今、多くの人々がいまだに短期、あるいはパートタイム契約で雇用されており、持続的な職に就けていないという。

「まだチャンスは残っていると私は思っている。各国が今やるべきは、もう一段の労働市場の統合だ」とローレン氏は続ける。同氏が強調するのは、研修やスキルアップ、資格認定といった点だ。

欧州随一の経済大国ドイツは、国連のデータによればウクライナ難民を一番多く受け入れているが、求人件数は第2次世界大戦終了以降で最高の水準に上昇している。

それなのに、これまでに就職にこぎ着けた難民は5人に1人に満たない。ドイツ政府はむしろドイツ語研修に力を入れており、その方が難民のスキルに沿った長期的な雇用につながるはずだと考えているからだ。

「労働市場への(難民の)統合を迅速に進めるか、持続可能な形で進めるか、そこには常にトレードオフが発生する」と語るのは、OECD国際移民局でチーフエコノミストを務めるトマス・リービッヒ氏。

オクサナ・クロトワさん(34)は、文献学の修士号を持ち、侵攻前はウクライナの首都キーウ(キエフ)のホテルでマネージャー職に就いていた。現在はベルリンのホテルで受付係として働いている。

「戦争真っ最中の都市では誰もホテルなど利用しない」とクロトワさんは語る。

子どものいないクロトワさんは1月以来、週30時間の勤務と第2外国語としてドイツ語を学ぶコースを組み合わせ、そのかいあって、ドイツ語はかなり流暢に使えるようになった。

自分の学位をドイツで認定してもらうのは難しいと悟ったクロトワさんは、ドイツで経営管理学を学びたいと思っている。最近の調査でウクライナ難民の40%以上が答えたように、クロトワさんもドイツに数年間はとどまる予定だ。

移民政策のシンクタンク「マイナー」の研究者によれば、ウクライナからの大規模な難民の流入は、ドイツでは大きなチャンスと考えられている。だが研究者のイルディコ・ポールマン氏は、「現実性という障害」があるという。難民が母国で得ていたのと同レベルの職に就くことは、現地語が話せなければほとんど不可能だからだ。

また、後日もっと良い仕事へと移ることは容易ではない。「マイナー」の研究者ギゼム・ウエンサル氏は、「すでに週40時間の仕事に就き、語学教室に通う時間がなくなってしまえば、そうした人々が行き詰まってしまうのは良くあることだ」と語る。

ウクライナ難民の将来は、1つには予見不可能なウクライナ侵攻の展開次第だが、ウクライナ難民に関するEUの暫定保護体制は、今のところ2024年3月に終了することになっている。

「期限が近づいていく中で、戦略を適切に定める必要がある。来年の春になって検討するのでは手遅れだ」とOECDのローレン氏は指摘する。

暫定保護措置の終了は、難民を採用したいと考える雇用主を難しい状況に置く。ウクライナ難民がその後も在留できるかどうか読めないからだ。

ドイツ連邦雇用庁の付属機関である労働市場・職業研究所(IAB)の労働市場専門家エンゾ・ウェーバー氏は「戦火を逃れてウクライナを離れた全ての人に長期の在留を認めるよう、明確な規定を急いで作る必要がある」と語る。

「そうすることで、難民の側だけでなく、雇用する側にとっても大きな障害が取り除かれるだろう」

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(Maria Martinez記者、Gergely Szakacs記者、Karol Badohal記者、翻訳:エァクレーレン)