2023/6/29

【体験談】妊活・不妊治療のしんどさを、先輩たちに聞いてみた

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
 ビジネスパーソンとしてキャリアを積むなかで、徐々に頭をもたげてくるのが、「産む/産まない」問題。
「いつかは」と思っていたことが、「そろそろ」そして「早く」へ──。しかし、焦りだしても、必ずしもすぐ子どもを授かるとは限らない。
 妊娠や育児の前段階である「妊活・不妊治療」からすでに、女性たちは特有の苦しさを抱え始めている
 不妊の検査や治療を経験する夫婦が増え続ける今、その実情を知っておくことは、男女が平等に働ける環境づくりのヒントになるかもしれない。
 そこで今回は、35歳を迎えて焦り始めたNewsPicks for WEのメンバーが聞き手となり、過去に不妊治療に取り組んだ“不妊治療の先輩”たちの体験を根掘り葉掘り。
 なかなかオープンにしづらい妊活や不妊治療のリアルを語ってもらった。
INDEX
  • 十人十色の不妊治療
  • 何が大変? 3つの見えないつらさ
  • 心も体もハードシングスの連続に
  • 不妊治療に臨む人に必要なサポートとは
  • 「検査してみよう」が第一歩

十人十色の不妊治療

──35歳になって「今から妊娠って、思った以上に大変なのかも」と感じ、慌てて不妊治療の情報収集をし始めています。お二人が不妊治療を始めたきっかけは?
田中 私もまさに35歳のときに妊娠を考えて、クリニックに行きました。
 初めは、人工授精したらすぐ妊娠できるんじゃないかなと気軽に考えていましたが、最初に受けたAMH検査(※)で、さっそく引っかかってしまって…。「もう0.02しかありません」と。
※一生の中でつくられる卵子の数は生まれる前に決まっており、加齢や排卵で減少していくため、卵胞から分泌されるAMH(アンチミューラリアンホルモン)濃度から、卵の残りの数を推定する血液検査。
AMH検査について「卵巣年齢を測れる」と謳うサービスもあるが、あくまで「不妊治療の方針を決定をする上で参考になる数値の1つ」でしかない。妊娠可能かを判定できる検査ではないという点には注意が必要だ。
 いったい0.02がどういう意味かもわからず、数値の表を見せてもらうと、閉経を迎える50代の卵子の数で、かなりの衝撃を受けました。
 いわゆる「早発閉経(※)」だと医師から告げられました。
※40歳未満で卵巣機能が低下し、月経が3カ月以上ない状態。
 言われてみれば、半年ぐらい前から生理がちょっとおかしかったんです。1カ月半来なかったかと思えば、いきなり大量出血を起こしたり。
 でもまさか、30代で閉経するとは思っていなかったので、ショックで受け入れられませんでしたね。
川口 スタートからかなり衝撃的ですね。
田中 結婚当初から「子どもは絶対欲しい」と夫婦で話していたんです。だから、良さそうなクリニックがあったから行こうと即決して、通院初日はもうルンルンでしたね。
川口 なんでルンルン?
田中 これで妊娠できるんだなあと思うと、嬉しくって。妊娠できない可能性なんて、考えもしませんでした
川口 たしかに「まさか自分が」とは想定しにくいですよね。
 私も田中さんと同じく35歳のときにAMH検査を受けました。事実婚で再婚をして、そこからすぐですね。
 この年齢から妊娠を考える場合、まず不妊治療では「タイミング法」を半年間やってみて、ダメだったら次のステップとして「人工授精」に進むのが一般的なんだそうです。
 でも私、半年も待っていられなくて(笑)。せっかちなんですけど、いきなりステップ2の人工授精にいく前提で治療を進めてもらいました。
田中 せっかちになる気持ち、よくわかります。
──不妊治療については周囲にも相談しづらいと思います。クリニックはどうやって探しましたか?
田中 まずは自分で調べまくって、妹も探してくれました。ただ、早発閉経に対応できるクリニック自体が少なかったので、結局ほぼ決め打ちでした。
 早発閉経の発症率は100人に1人といわれています。体験談のブログなどを読み漁っても、妊娠に至っている人は見つけられず、本当に不安でした…。
 その結果、自費で鍼治療を受けたり、怪しいマッサージに通ったりしたこともあります。“情報魔”になるというか、藁にもすがる思いでしたね。
川口 そうなりますよね。私も自分で探したんですけど、まず事実婚カップルを受け入れてくれるかのハードルがあって。
──えっ、事実婚ではダメなことがあるんですか?
川口 そうなんですよ。2022年4月から不妊治療が保険適用になり、事実婚カップルも適用対象になっています。
 ただ、クリニックによっては戸籍謄本の提出や、2年以上の内縁関係の証明が必要だったり。厳しいクリニックだと、そもそも事実婚は受け入れない方針だったりするんです。
「 “母体を借りるビジネス等のリスク”を懸念している側面もあると思いますが、特に産婦人科は“家族観”を重視する傾向があると感じます」(川口)
 だから私は、「事実婚を受け入れてくれて、住民票の提出のみでOK」という条件で通院先を決めました。

何が大変? 3つの見えないつらさ

──不妊治療を受ける難しさとして「仕事との両立」があります。お二人の場合はいかがでしたか?
田中 私は悩みながら働き続けて、半年ほど経ったときに退職を決めました。
 不妊治療では、妊娠できるタイミングを逃さないために「明日来てください」と、突発的に通院が必要になることがよくあります。そのたびに、急遽お休みしたり仕事を抜けさせてもらったり。
 自分からすると、仕事の関わり方が中途半端に思えるのに、みんなと同じ雇用条件で扱われるのは申し訳なくて…。
 人事には「今の働き方のままでいいんだよ」と言ってもらいました。でも、全力で仕事したいけどできないし、治療が長引くにつれて、仕事中もつい考えてしまう。
「周りに迷惑をかけているかもしれない」と思うと耐えられなくなって、いったん治療に専念することにしました。
川口 仕事をセーブしようかと思った瞬間は、私もありましたね。でもそうすると、妊活のことばかり考えてしまいそうだったので、仕事を続ける道を選びました。
 本当に忙しいときは大変だったけれど、仕事で気が紛れて、ある意味救われていたところもあります
──職場のメンバーには、不妊治療をしていることを伝えていましたか?
川口 私は治療内容をステップアップする際に、「誰にも言わずにやりきろう」と決めました。
 不妊治療のことを知っているのはパートナーだけで、本当に仲が良い人にも伝えていませんでした。治療で仕事のパフォーマンスが下がると思われたくなかったんです。
 チームの人たちはもちろん理解してくれるとわかっていたけれど、意地になっていたところがありますね。
 自分のやり方が最適だったとは決して思いません。だから今は、私自身の反省点も活かしつつ、両立に悩んでいる方やこれから不妊治療を考えていく人たちにとってベストな環境をつくりたいと、強く思いますね。
田中 1人でやりきったというのは、本当にすごいですね。私は仕事と治療の両立が限界を迎えたとき、チームメンバーにだけ話しました。
 そうしたら、ある子が「実は私も、もう5年くらい不妊治療中なの」と打ち明けてくれて、誰にも話さずに両立している人も多いんだなと、気づきました。
 不妊治療はうまくいかないことの連続だし、人によっては何年もかかる先の見えないこと。妊娠報告とは違って、決して明るくは話せないじゃないですか。
 やっぱり、なかなかオープンにしにくい話題なんですよね。

心も体もハードシングスの連続に

──周囲に言えないまま両立するハードルのほかにも、不妊治療を振り返って大変だったことはありますか?
田中 とにかくメンタル面でハードなことばかりでしたね。
 たとえば自分がうまくいかない状況なのに、隣の診察室から「順調に育ってますね」という声が丸聞こえだったクリニックは、耐えられなくて3カ月経たずに転院しました。
 1人で通院したときに、パートナーさんが付き添っている女性を見かけるのも、孤独でしんどかったです。
 夫も協力してくれているけれど、立ち向かうのはどこまでも自分1人だと実感しました。
実際に治療を受けるのは女性中心でも、「夫婦2人で治療に臨む」という姿勢は重要だ。できる限り通院にパートナーが同行するようにしているカップルもいる。
  そういうちょっとした積み重ねが夫婦間でしこりになったりもして、ストレスが溜まりましたね。
川口 私はぶっちゃけ、本当に子どもが欲しいのかどうか、治療しながらモヤモヤすることもありました。
 夫婦2人でもずっと楽しくやっていけると思っていたし、治療がうまくいかなかった月はなおさら、「本当に『絶対子どもが欲しい』なのか?」と考えたりもしました。
 でも、いざ不妊治療を始めると、「またダメだった」「今月も生理が来てしまった」って、毎月うまくいかないことに落ち込むんですよね。
田中 「ダメだった」の繰り返しは、落ち込みますよね。
 あと、自己注射(※)も嫌でした。ワンプッシュで簡単に打てるペン型の注入器があるのですが、月によって使える本数が決まっているんです。
※排卵を誘発するホルモンを補うために、女性自身が皮下注射を行うこと。投与のための通院の負担を減らすメリットがある。
 なので、だいたい「シリンジ型」と呼ばれる普通の注射器を、自分でお腹に刺さなければなりませんでした。
 痛いし怖いし「ああ、今日もやらなきゃいけないのか」っていう作業を毎晩繰り返す。
 しかも私の場合は全額自費だったので、毎週5万〜10万円の支出で、経済的にも大変でした。
川口 毎週! それはしんどいですね。
──リアルな話、不妊治療にかかった金額ってどのくらいですか?
田中 総額350万円くらいでした。最初に受ける基本的な検査だけで3万〜4万円ほど。
 一定以上の収入があると助成金も受けられなかったので、うちは全額自費で払って、最後に確定申告で少し戻ってきました。
川口 私はちょうど不妊治療の保険適用の範囲が変わる前後のどちらも経験して、たぶん50万~60万円はかかったと思います。
 実は保険適用範囲が広がっても、まだまだ治療にかかるお金って高いんですよね
 たとえば自己注射のほかに、ホルモンを補充するパッチを貼るんですけど、それは保険適用外だったりします。

不妊治療に臨む人に必要なサポートとは

──周りができるサポートには、どんなことがあるでしょうか?
田中 まず何よりも、社会制度としての支援は必要だと思います。費用に関しても、メンタルのケアも全然足りていないと思うので。
川口 妊娠に関する検査費用が、健康保険組合で負担可能になるといいですよね。
 たとえばポーラでは、子宮頸がんや乳がん等の婦人科検診を健康診断からワンストップで受診できるようにしたら、受診率が80%ぐらいになったと聞きました。
田中 最近は、健康診断のオプションとしても、気軽にAMH検査を受けられるようになっているみたいです。
 検診をきっかけに、若いうちから将来の家族計画を考えやすくなるといいですね。
川口 もっと勤務時間の融通が利けば、両立しやすくなりますよね。
 以前、ワーク・ライフバランス代表の小室淑恵さんに取材したときにすごくいいなと思ったのが、理由を言わずに使える休暇。しかも15分刻みで取得できるんですよ。
 半休までいらないような不妊治療で抜けるときにも便利だし、お子さんのお迎えや介護中の人も助かる仕組みだな、と。
田中 それはいいですね。そういえば、私たちユーザベースグループには、クリニックの情報や実績を教えてもらえる福利厚生サービスがありますよね。
 あとは、パートナーにもサポートできることがたくさんある気がします。
川口 たしかに、なかなか妊活の結果が出ないときに、パートナーから「おいしいお酒を飲みに行こう」「つらかったら、いったん休もうよ」と、声をかけてもらえたのは心強かったなあ。
 日々の服薬のリマインドも、夫がやってくれていました(笑)。だから、私は二人三脚で不妊治療を乗り越えた感覚が強いんです。
田中 素敵すぎる! 妊活はどうしても女性側の負担が大きいので、パートナーにしっかりと寄り添ってもらえるのは嬉しいですよね。

「検査してみよう」が第一歩

──お二人の話を聞いて改めて、不妊治療は相当な“覚悟”が必要だと感じました。
川口 たしかに妊活を始める前までは、私もすごく構えていました。
 でも、担当医の先生に「たくさんの方が治療と仕事を両立していますよ」「休職? 何言っているんですか!」なんて励ましてもらって、肩の力が抜けました。
 いろいろお話ししましたけど、あまり「不妊治療に取り組むハードルは高すぎる」と思い込まないのも重要だと思います。
「意外といろんな人がやってるし、自分もひとまず検査してみようか」と始めてもいいのではないかな、と。
 ただ、まだまだ費用面や労働時間とのバランスなど課題もあるので、企業の制度改定や保障の拡充に期待したいです。
妊娠しやすいかどうか、また女性特有の病気や妊娠や出産に影響のある病気にかかっていないかを調べる婦人科の検診がセットになった「ブライダルチェック」。WHO(世界保健機構)の統計によれば、不妊の約半数が男性原因とされる。女性だけでなく、夫婦2人でこうした検査を受けることが、治療に欠かせない一歩になる。
田中 そうですね。構えすぎず、まずは専門医への相談から始めてみてほしいです。
 私はクリニックの医師との面談で、費用や期間など「どこで治療の区切りをつけるのか」を、あらかじめ夫婦で決めておくことをオススメされました。
 実際のところ明確には決められませんでしたが、治療を諦める可能性も念頭に置いて治療を始められました。
 そして心の限界が来る前に、体外受精した凍結卵移植に踏み切って、幸運にも1人授かることができました。
 このアドバイスがなければ、いつまでも採卵で立ち止まってしまっていたような気がします。
 あと振り返って思うのは、かかりつけのレディースクリニックをつくっておくべきだな、と。
 生理でちょっと心配なことや違和感があったら、普段からすぐ相談できる。そんな頼れる専門家を、早いうちにつくっておくのをオススメしたいです。