自尊心を捨てることから始まった、ティール流「独占哲学」

2015/3/4
2015年2月中旬、人工知能や航空宇宙などのIT関連のスタートアップに数多く投資をする“伝説の投資家”ピーター・ティールが15年ぶりに来日した。その際にティールが登壇した「学生向け起業講座」と「アカデミーヒルズ講演録」の2つを詳細にリポートする。
本稿では、事前知識としてティールという人物について改めておさらいすると同時に、特集のハイライトをお届けする。

「ビッグデータ男」の行く末

「あなたの周りに、はやり言葉ばかり使う人はいますか?」
ティールは、アカデミーヒルズで行われた講演で、聴衆にそう問いかけた。「『ビッグデータ』だとか、『クラウドコンピューティング』などといった言葉を使う人が。仮にあなたの上司がそういう人なら、すぐに逃げ出したほうがいい」。大胆にも、ティールはそう言い切った。
そうした“新語”“はやり言葉”の羅列をしがちなNewsPicksとしては耳の痛い限りだ。その理由について、ティールはこう説明する。
「はやり言葉には、『なにかよく分からないけど、すごいもの』だと過大評価させる効果がある。だが、そんな言葉はまるでホラ、一見、差別化した素晴らしいビジネスをやっているかのように見えるが、実は自分たちのビジネスが他と差別化できていないから、言葉でごまかしている」
あまたの事業の真贋(しんがん)を見極めてきたティールの言葉なだけに、説得力がある。このたびの来日講演における、通底したテーマはこうした「本物とホラの見分け方」についてだ。
例えば、ティールは負け犬についてこう定義する。
「人は、自分が有能でなかったから、自分が望むような大学に行けなかったからこそ負け犬なのだと思いがちだ。だがそれは違う。競争そのものに目がいった結果、本当に重要な価値あるものを見失ってしまったからだ。競争に負けたから負け犬になるのではなく、競争をするから負け犬になる」
一方、勝者は空気を読まない非常識人だと定義する。
「私から言わせれば、シリコンバレーで成功する起業家の多くがアスペルガー症候群です。なぜ彼ら彼女らがイノベーションを起こしたのかといえば、独創的な考えを持っているから。“普通の人びと”にイノベーションは起こせない」

ビジネススクールに行く人間は猿?

辛口なティールは、その典型が「ビジネススクールに行く人びと」だと言う。「彼らは、非常に社交的で社会に溶け込むのが上手で、なんでも器用にこなす。しかし、あまり信念がなく、お互いにまねをし合い、まるで“猿”のように振る舞う」
では、ティール流の成功の方程式は?
「言うまでもなく、競争をせずに資本を貯めること。そして、それを成し遂げるには、『独占』を目指すしかない」
もっとも、ティールとて競争とは無縁で生きてきたわけではない。ロースクールを出て法律事務所に入所した時代は、し烈な出世競争に自身の身をさらしてきた。ティールは講演で、法律事務所はまるで「『アルカトラズ刑務所』だった」とたとえる。
「そこから脱出するには、出口から出て行き、二度と戻ってこなければいい。なのに、多くの人はそれができない。自分たちのアイデンティティや自尊心が邪魔するからだ。今まで強烈な競争を勝ち抜いてきた人たちには、自負がある。『自分は今まで他人に勝ってきたのだ』『努力をしてようやくここまできたのだ』と。だが、私に言わせればそんなものは大したことではない。競争をすればするほど、得るものは小さくなっていき、重要度も下がる」
だからこそ、ティールは聴衆に競合相手のいない「いい独占」を目指せとハッパをかける。では、今独占を狙える分野は何か? それは誰しもが聞きたいところだろう。実際、次回お届けするティールと学生の対話では、「もし、ティールが22歳の日本人大学生だったらどうする?」なんて率直な質問が飛び出した。それにティールは、なんと答えたのか?
次回以降のティール講演録の中に、その答えはある。