[ワシントン 6日 トムソン・ロイター財団] - ブレイデン・ヘイジャーさん(20)はイリノイ州の高校1年生だった頃、友人を1人失うところだった。原因はインターネットだ。

トムソン・ロイター財団の取材に応じたヘイジャーさんは「ウンザリするような話だ。その友人は、ひどくバカげた過激な思想をいくつかつまみ食いした挙げ句、インターネットの闇にどんどんひきずりこまれていった」と語る。

ヘイジャーさんの記憶によれば、その友人は、たとえばユダヤ人が教育界を支配しているといった陰謀論を信奉し、ランチタイムに大声で口論していたという。

「彼はほとんどの友人を失いかけた」とヘイジャーさんは振り返る。

最初のうち、ヘイジャーさんは、責任はソーシャルメディアの不十分なコンテンツ規制にあると考えていたが、その後「ネット上で目にするレトリック(巧みな弁舌)に対処するツールを生徒たちに与えるべきかもしれない」と考えるようになった。

問題の友人はその後ネット由来の陰謀論から足を洗ったが、最終学年を迎えたヘイジャーさんは、この経験をもとに、そうしたツールを要求する取組みを始めた。彼の努力は州法制定という形で実現し、公立学校では今年度から「メディアリテラシー」を教えることが義務付けられた。

この他にも、ソーシャルメディアによる潜在的な悪影響が新たに認識されたことへの反応として、各州でメディアリテラシーに取り組む動きが見られる。2021年1月6日に発生したトランプ大統領(当時)支持者による連邦議会議事堂襲撃事件も、そうした悪影響の1つだとヘイジャーさんは言う。

「事件をきっかけに、ネットのある一面が、現実世界での物理的に危険な行動となって現れる可能性があることを多くの人が痛感した」とヘイジャーさん。「1月6日の件がなければ、州法も成立したかどうか分からない」

啓発団体メディアリテラシー・ナウが3月に発表した報告書によれば、メディアリテラシー教育の義務を何らかの形で法制化している州は現時点で18を数える。

メディアリテラシー・ナウでは、注視を続けている関連法案が数十件あると述べつつ、「ニーズが緊急かつ切迫していることを思えば、それでも動きが遅すぎる」と警告している。

メディアリテラシー・ナウの創設者であるエリン・マクニール代表は、「21世紀に求められるリテラシーだ」と語る。

<若者が生き延びるためのスキル>

メディアリテラシーへの注目が高まる背景として、ソーシャルメディアが市民社会と公衆衛生に及ぼす危険が、パンデミックの渦中で高まったことへの認識の高まりがある。

米国心理学会は4月、青少年のソーシャルメディアの利用をめぐって、健康に関する勧告を発表。そこで推奨されていたのが、ユーザーがコンテンツの正確性を検証したり差別的メッセージを認識したりすることを支援するなど、「利用に先立って、ソーシャルメディア・リテラシーの訓練を受けること」だった。

またビベック・マーシー公衆衛生局長官も5月に同様の勧告を発表し、学校でのメディアリテラシー教育を支援するよう呼びかけた。

メディアリテラシーに対する政策立案者の関心が高まっていることについて、グーグル、メタ、ツイッター、TikTok(ティックトック)を含む企業にコメントを求めたが、回答は得られなかった。IT産業の業界団体「ネットチョイス」はコメントを控えた。

ニュージャージー州は1月、全米で初めて、幼稚園から高校3年までの必修科目として「情報リテラシー」を新規導入すると発表した。フィル・マーフィー州知事は、これを「政治や市民の言論における真実の役割をむしばむ虚偽情報の蔓延」への対応策と位置付けた。

ニュージャージー州教育省は、現在この科目のカリキュラムを作成中だ。

ニュージャージー州立図書館で若年層向けサービスを専門とするシャロン・ローリンズ氏は、「生徒たちは何であれ携帯電話を使うことに慣れている。だが、グーグルなどのサイトを使えても、そこで目にするものをどう解釈すべきか実は分かっていない」と指摘する。

「情報リテラシーが自分たちにとっても重要だということを親にも知らせる必要がある。子どもたちが(オンラインで)道を踏み外さないよう、親が手助けする必要があるからだ。仕事をオンラインで探すことだってあるだろう」

さらに踏み込んだ見方もある。ミズーリ州議会のジム・マーフィー下院議員(共和党)は、メディアリテラシーを「新しいサバイバルスキル」と呼ぶ。

マーフィー議員は電話でのインタビューで、「今の子どもたちは、10歳くらいになるまでに、私などが72年の生涯で触れてきたよりも多くのメディアに触れることになる」と語った。「親としては、どうやってそうした状況に対応し、子どもたちを教育していくのか分かっていない。今のような世界で育ってきたわけではないから」

マーフィー議員はこの5年間、ミズーリ州におけるメディアリテラシー教育の必修化の旗振り役になっており、多少の反対はあるものの、実現に近づきつつあるという。

「(メディアリテラシーについて)子どもたちを特定の政治思想で洗脳するものと考える人々もいる。だがメディアリテラシーは内容に関するものではない。いかに情報を処理するかという問題だ。そして、それができるようになれば、世界全体がもっとよくなると思う」

憲法に定められた言論の自由などの権利を考えれば、ソーシャルメディアそのものに対する法規制は問題が大きいだろうとマーフィー議員は言う。

「情報をシェアしようとする人々を規制しようと試みるより、情報の受け手としてのスキルを磨くことを子どもたちに教えたい」

<「保育園からのリテラシー教育」>

米軍もやはりメディアリテラシー教育に向けた手を打っており、昨年にはいくつかの部門で新たな戦略を発表した。

また他国の政府でも、メディアリテラシー教育の必修化を進めており、特にフィンランドは、政府系ウェブサイトにおいて、複数の教科で「保育園から」メディアリテラシー教育を行うことをうたっている。

メディアリテラシー教育の必修化が米国で法制化されつつある中で、その推進者らは、同じような戦略に従って、こうした取り組みを多くの年代や授業に広げていくのが次のステップだと語る。

ノースウェスタン大学ジャーナリズムスクールの講師としてイリノイ州での法制化に関与したマイケル・A・スパイクス氏は、「メディアリテラシーをすべての教科で扱いたい」と語る。

「数学の授業の中でメディアリテラシーを扱い始めたという教師たちの話を聞いた。統計と世論調査を理解するという切り口だ。また理科の分野では、調査研究とは何かを理解するチャンスがたくさんある」

シカゴの公立高校で教鞭を執るアン・ミシェル・ボイル氏は、法制化が追い風となって、教師がメディアリテラシーについて利用できるリソースが増えつつあると言う。

ボイル氏の授業では、以前からある程度のメディアリテラシーを取り上げていたが、1月6日の議事堂襲撃事件以降、その扱いを大幅に拡大するよう促されているという。

「2月の授業プランをいったん取り消し、教材をまとめて、2月いっぱいを費やしてメディアリテラシーのスキルを教えた」とボイル氏は言う。

その後、同氏は5-6週間にわたる単元を開発した。偏見を見抜き、信憑性を評価し、デマを見破ることを教え、画像の出典検索といったスキルを身につけさせる内容だ。

(Carey L. Biron記者)