2023/6/17

【メダカ×福祉】就労支援利用者を正社員に、巨大モールにも進出!

フリーランス ライター
日本メダカの第一人者としての圧倒的な知識・技術に裏打ちされた魅力のある商品、従来のカタチを超えた新しい福祉のあり方で躍進を続ける「あやめ会」。

代表の青木さんが手掛ける次の一手とは。
INDEX
  • 福祉の先にある“働き手”としての期待
  • 就労訓練の卒業生を正社員として雇用
  • 「イオンモール×メダカ×福祉」で新たな挑戦
青木崇浩氏
東京都八王子市等を拠点に障がい福祉サービスを展開する「あやめ会」代表。改良メダカブームの火付け役ともいわれる日本メダカの第一人者。「誰もやっていないことに挑戦することで、困難に立ち向かう若者を応援したい」と、オリジナル商品「めだか盆栽」の宇宙打ち上げを計画。クラウドファンディングで300万円の資金を集め、2022年10月打ち上げに成功。その様子をYouTubeチャンネル「めだかやドットコムCH」で公開中。

福祉の先にある“働き手”としての期待

ヒレ長メダカ(写真:青木さん提供)
障がいなどによって一般企業への就労が困難な人に、就労の機会や知識・技術向上の訓練などを提供するのが就労継続支援事業。サービスを提供する事業者にとって利用者が福祉を“卒業”し、一般企業へ就職することは、目指すゴールの一つでもあります。
東京都八王子市でメダカや水槽の販売事業も手掛けるB型福祉事業所「あやめ会」の代表、青木崇浩さんに話を聞きました。
直営店「めだかやドットコム本店」。水槽が美術品のように並べられている
2020年、青木さんは福祉事業とは別に株式会社めだかやドットコムを設立しました。あやめ会が手掛けるオリジナルのアクアリウム(水槽)「めだか盆栽」を主力商品とした直営店「めだかやドットコム本店」を運営するための会社です。
八王子駅南口の一等地、駅ビルOPA内に決定。2021年2月にオープンしました。折しも新型コロナウイルス感染症による2回目の緊急事態宣言が出され、世の中が閑散としていた時です。
「企業で働くなら、青木さんと一緒に働きたい」。福祉の枠組みを卒業する利用者の一言が、青木さんを新しい挑戦に突き動かしました。
青木「世の中がどんどん萎縮していくのを感じ、自分がうつ病と闘っていた時を思い出してしまいました。利用者の中には家で待機し続けることが必ずしも良い影響を与えない方もいました。みんなのことを元気づけたかったですし、下を向きそうな雰囲気に負けず、“やってやるぞ”という気持ちを伝えたかったのです」

就労訓練の卒業生を正社員として雇用

もちろん、青木さんの狙いはそれだけではありませんでした。
ショップでは、メダカの飼育や水槽内の環境について親切にアドバイスがもらえる
青木「あやめ会を利用した卒業生を正社員として雇用し、店舗運営を任せることにしました。あやめ会で培ったメダカ飼育の知識や技術を生かせる職場があるといいと思っていましたし、何よりも僕自身が彼らと一緒に仕事をしたいと心から思ったんです。
一緒に仕事をしたいと思える人材とはどんな人材なのか。そういう雇う側の感覚はとても大切で、一般企業に就労することをゴールの一つとしている事業者として、あやめ会での支援事業にも役立てています」
直営店でも「カッコいい福祉」のブランディングは奏功。アクセスがいい駅ビルの上りエスカレーター目の前の好立地に、ひときわ目を引く大きなアクアリウムを設置しています。高級感あるライティング、インテリアショップのようなおしゃれなたたずまいに、思わず足が吸い込まれるような店舗です。売り上げも好調で、コロナ禍にもかかわらず初年度黒字という結果を出しました。
アパレルショップのような雰囲気の店舗

「イオンモール×メダカ×福祉」で新たな挑戦

あやめ会の“卒業生”を自らが経営する企業に正社員として採用した経験から、福祉を卒業した先にある働き方の支援に可能性を見いだした青木さんは、2023年6月、新しい事業に挑戦します。
これまでの就労継続支援B型に加え、企業などへの雇用が見込まれる利用者を対象に、就職に必要なスキルを身に付けるための就労移行支援事業をプラス。多機能事業所として「めだかやドットコム富津」(千葉県)を開設します。
「めだかやドットコム富津」の店舗エリア(写真:青木さん提供)
障がい福祉の多機能事業所としては珍しく、大型のショッピングモールであるイオンモールの中に拠点を設けます。床面積300平方メートル超の広いスペースに、メダカやアクアリウム商品やオリジナルグッズを販売する店舗エリアと就労支援エリアが併設されます。
青木「新拠点は、就労移行支援も行う多機能事業所なので、就職に必要なアドバイスや支援も行います。ショッピングモールという立地を生かして、モール内の他店舗にジョブトレーニングのような形での職場体験をさせてもらうことも想定しています。
同じモール内にあることで、職場体験の中でうまくいかないことがあってもすぐにサポートに行けますので利用者にとってはメリットが大きいんですよね。ゆくゆくは福祉の卒業生たちがモール内で働き手として活躍することも期待しています」
2022年10月の「めだか盆栽」(めだかは入っていない)宇宙打ち上げの様子(写真:青木さん提供)
地方部のショッピングモールの課題ともいえる「空き店舗」「働き手不足」の問題に、青木さんが取り組んできた「メダカ×福祉」の事業モデルが、見事にマッチした新しい事業モデル。他のイオンモールでの展開も視野に入っているといいます。
「障がい福祉」というと過剰にサポートしたり、身構えてしまったりしがちですが、そうした隔たりは福祉との接点が足りなかったからではないか……。ショッピングモールという生活の中に、スッと入り込む青木さんの福祉のカタチに触れると、そんな疑問が湧いてきます。生活の一部にある福祉。このさりげなさこそ、境界線をなくす福祉改革への第一歩であると期待します。