【変革】株主に届ける「変わる企業の今とこれから」(AGC)

2023/6/12
 建築用や自動車用など、さまざまな用途に使われるガラスのほか、電子部材や化学品、ライフサイエンスなど幅広い分野の素材・ソリューションを提供するAGCグループ。
 「世界トップクラスのガラスメーカー」というイメージを抱く人が多いようだが、「時代の変化に合わせて多様な事業に取り組んでいることを伝えたい」と同社は考えている。
 情報発信では、製品や業績だけではなく、自社の変革を求め続けるチャレンジ精神を伝え、株主からの質疑応答や要望には徹底して応える。
 そんな株主施策について、AGC株式会社 広報・IR部 IRチーム 河野泰人マネージャーに聞いた。
INDEX
  • 工場見学会は株主総会での「知りたい」から始まった
  • CXOが個人株主からの疑問に直接応える対話会
  • コロナ禍に対応して株主イベントをバーチャル化
  • 「変革を求め続けるチャレンジ精神」を伝える

工場見学会は株主総会での「知りたい」から始まった

 1907年に建築用板ガラスの生産を開始し、旭硝子の社名で長らく知られてきたAGC。
 そのため、60代以上の個人投資家にとっては、いまだに「大手ガラスメーカー」というイメージが強いようだ。
 実際、建築用のフロート板ガラスや自動車用ガラスのシェアは世界トップクラスを誇り、売上高の4割以上はガラス事業が占めている。だが、それ以外にも液晶ディスプレイや電子部材などの電子領域、クロールアルカリ製品やフッ素樹脂などの化学領域、合成医農薬やバイオ医薬品CDMO(※)などのライフサイエンス領域等、AGCグループは多彩な素材やサービスを提供している。
(※)CDMO:製薬会社や創薬ベンチャーなどから委託を受け、医薬品を高品質かつ大量に製造する技術を確立し、安定的に量産するビジネス
AGC株式会社 広報・IR部 IRチーム 河野泰人マネージャー
 「当社のように企業向けに製品を提供しているBtoBの会社は、個人の株主や投資家の皆さまにとっては『何をしているのか?』が見えにくい。それが、『ガラスの会社』というイメージを拭い切れない大きな要因の一つだと言えます」と河野泰人マネージャーは話す。
 だからこそ、AGCグループは時代の変化に合わせて、さまざまな事業を展開していることを個人投資家に伝えるための情報発信やコミュニケーションに力を入れている。
「すでに株式を保有いただいている個人株主さまとのコミュニケーションにおいても、『何をしている会社なのか?』『どんな将来像を目指しているのか?』ということを、しっかり伝えるように心がけています。いまのAGCグループの姿を見ていただくための具体的な方策としては、個人株主さま向けの工場見学会や、CXO(最高責任者)との対話会などを実施しています」
 情報を一方的に発信するだけではなく、株主の声にしっかりと耳を傾け、その要望に対応していくことが、AGCの株主とのコミュニケーションにおける基本姿勢だ。
 工場見学会も株主総会で個人株主から要望が上がったことを受けて始めたものだという。
「事業報告を読んだり、経営層による報告を聞いたりするだけでは、事業の現場はイメージしにくい。工場見学会は『実際にこの目で見てみたい』という個人株主さまの声に応え、2013年から開始しました。当初は年1回でスタートしましたが、16年にはさらに年2回に増やしました。安全性への配慮などから、どうしても1回あたりの参加人数は限られてしまうので、参加機会を増やすことにしたのです」
 AGCは、神奈川や千葉、茨城、愛知、兵庫などに工場を構え、それぞれ異なる製品を作っているが、見学する工場についても株主にアンケートをとり、その希望に合わせて選んでいるそうだ。

CXOが個人株主からの疑問に直接応える対話会

 工場見学会に加え、個人株主との対話の場として2017年に始めたのがCXO(Chief x Officer)対話会だ。 こちらは年1回、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)のいずれかが出席して、個人株主と対話する。
17年からスタートしたCXO対話会。コロナ禍以前は東京都内の自社スタジオで催されていた。21年以降はオンラインでの開催に
 1時間の対話会のうち、前半の約30分はプレゼンテーションを実施。CEO、CFOなら中長期経営計画や財務状況、CTOは直近の研究開発動向などについて説明する。会の後半30分は、個人株主との間で質疑応答が行われる。
 「AGCは21年2月に設定した長期経営戦略『2030年のありたい姿』の中で、事業ポートフォリオ変革、サステナビリティ経営の推進という戦略の2本柱を掲げています。対話会ではその内容も詳しく説明しますが、株主の皆さまからは、より突っ込んだ質問をされることが多いですね。『CXOに直接話を聞いてみたい』という熱心な株主の方が参加されるので、とてもレベルの高い質問ばかりです」
 AGCグループは時代の変化に合わせて、成長が見込まれる事業には積極投資を行い、安定収益を稼ぎ出している事業は、より効率性を高めることで、市況変動に強く、資産効率・炭素効率ともに高い事業ポートフォリオへの変革を進めている。
 質疑応答を通じて、AGCグループがいかに多彩な事業を展開しているのかということを改めて認識し、「イメージが変わった」という株主の声も聞かれるという。
 サステナビリティ経営の推進に関しては、カーボンニュートラルや人的資本経営への取り組みなど、非財務的な活動に関する質問も多いそうだ。
22年6月に開催された「個人株主向けCFOオンライン対話会」の資料。事業ポートフォリオ変革とサステナビリティ経営に関するプレゼンテーションが行われた
 「当社はGHG(温室効果ガス)排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げています。対話会ではその達成方法や進捗状況に関する質問をいただくことも少なくありません。ガラスの製造工程においては大量のGHGが排出されるという印象が強いので、環境に対する問題意識の強い株主の方ほど、カーボンニュートラルに向けた取り組みへの関心が高いようです」

コロナ禍に対応して株主イベントをバーチャル化

 新型コロナウイルス感染症の拡大以降、上場企業による株主とのコミュニケーションは、急速なデジタル化が進んでいる。AGCもコロナ禍によってリアルな工場見学会が開催できなくなり、2021年6月に鹿島工場を紹介するバーチャルの工場見学会を開催した。
映像配信ページにアクセス、スマートフォンをゴーグル内側に設置することで、手軽にVRを楽しめる
 抽選に当たった参加者にVRゴーグルを事前に郵送。それを装着して、工場のVR(バーチャルリアリティ)映像を視聴してもらうという形式である。
 「臨場感のある工場見学をしていただきたいということで工夫を凝らしました。参加した株主の皆さまのご感想、ご意見を反映しながら、少しずつ改善を図っています」と河野氏は説明する。
 22年12月に開催した千葉工場を紹介するバーチャル工場見学会では、より臨場感を出すための工夫として、事前に制作した工場の動画を表示しながら、工場長がリアルタイムに解説を行うという方法を採り入れている。これなら、工場長が「これは何を作っているところだと思います?」と問いかけたりできるので、リアルな工場見学会に参加しているような気分に浸れるからだ。
 同様に、CXO対話会も21年以降はWeb会議システムを使って開催している。
 「地方にいる株主さまや、外出が困難な株主さまでも参加しやすくなったので、リアルな対話会よりもむしろ利便性は高まったのではないでしょうか」と河野氏は話す。
 ちなみに、バーチャル工場見学会やCXO対話会の開催告知は、株主とのコミュニケーション誌である「株主通信」で行っている。
 告知のページにあるQRコードをスマートフォンなどで読み取れば、申し込みフォームが表示される仕組みだ。参加の募集からイベントの開催まで、あらゆる面でデジタルを活用し株主の利便性を高める取り組みをしている。
 また、21年3月開催の第96回定時株主総会から、実会場に加えてオンラインで視聴できるライブ中継を実施している。議長(平井社長)をはじめ経営陣の表情がはっきりわかるので好評だという。
 「CXO対話会と同じように、遠方の株主さまや、外出が困難な株主さまでも参加しやすいことも、ライブ中継の大きなメリットだと感じています。これをきっかけに、当社の取り組みに興味を持っていただけるとありがたいですね」

「変革を求め続けるチャレンジ精神」を伝える

半期に1度発行する株主通信「AGC Review」。同社コーポレートサイトからPDFでダウンロードもできる
 株主とのコミュニケーションにデジタルを活用するAGCの取り組みは、多岐にわたっている。AGCは半期に1度発行している「株主通信」をコーポレートサイトからPDF形式でダウンロードできるようにもしている。「株主の皆さまだけでなく、個人投資家の方にも当社の取り組みを広く知っていただきたい」という狙いからだ。
「多彩な事業に取り組み、いろいろな製品を開発・生産していることを知っていただくため、『株主通信』には最新の製品に関する情報も掲載しています。情報ごとにQRコードを添えており、読み込むと、より詳細な情報が入手できるようになっています」
 BtoB事業を中心に展開するAGCにとって、「何をしている会社なのか?」を株主や投資家に理解してもらうことは、IR活動における重点テーマの一つだ。
自社の歴史や製品、戦略をわかりやすくまとめた「5分でわかるAGC」。効率よく楽しみながら理解できるよう、写真やイラスト、グラフなどを効果的に使っている
 コーポレートサイトの「株主・投資家情報」のページも、「もっとわかりやすくしてほしい」というリクエストに応え、2022年12月に公式ホームページをリニューアルした際には、個人投資家向けのページを拡充した。
 また、事業規模や会社の歴史、製品別の世界シェアなどがひと目でわかるようにした「5分でわかるAGC」など、短時間で理解しやすいWebページに仕上がっている。
「当社はガラスメーカーのパイオニアとして100年以上の歴史を持ちます。同じガラスでも、モータリゼーションが発展した1950年代には自動車用ガラス、テレビが普及し始めた1950年代から60年代にかけてはブラウン管用ガラスバルブと、時代のニーズに合わせ、製品を多様化してきました。現在、ガラス以外にも多様な製品を開発・製造していますが、その原点は、つねに変革を求め続けてきたチャレンジ精神にあり、それこそが当社の魅力であることを、ぜひ多くの株主や個人投資家の方々に知っていただきたいですね」
 現在、AGCの個人株主は60歳以上の高齢者が中心だが、より若い世代にも、そうした会社の魅力を強く訴えていきたいと河野氏は語る。そのため、CXO対話会は夕方6時以降に開催するなど、現役世代でも参加しやすいように配慮している。証券会社などが主催する投資家向けセミナーも同様に、夕方から夜の時間帯にかけて開催され、若い投資家の参加割合が高いセミナーに絞り込んで参加しているという。
 河野氏は、「もちろん若い世代だけではなく、幅広い世代の方々にAGCの株式を持っていただきたい。そのために、これからも個人株主や投資家の方々とのコミュニケーションには力を入れていきます」と抱負を語った。
 徹底して株主の問いに応え、要望を実現しながら、時代に合わせて変容していくAGCグループ。これからの環境変化へどのような対応をしていくのか、楽しみな企業だ。
AGC株式会社
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