(ブルームバーグ): 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が26日、永久劣後債(AT1債)3300億円を含む社債3本で総額5700億円の発行条件を決めた。クレディ・スイス・グループ危機で市場が揺れたAT1債だが、利回りを求める国内投資家の需要を集めて発行額を大きく積み増し、国内社債市場の地合いの強さを示した。

AT1債を巡っては、3月にクレディSの既発債が全額無価値となり、世界的に投資家の警戒感が高まった。その後、三井住友フィナンシャルグループ(FG)が4月に国際金融システムで重要な銀行(G-SIBs)として初めて総額1400億円のAT1債を発行。国際的な主要行ではMUFGがそれに続く案件となった。

MUFGが起債したAT1債は償還期限の定めがなく発行から5年後と10年後に期限前償還(コール)が可能になる2本。発行総額は3300億円に決まり、当初想定した総額1000億円程度から積み増した。ブルームバーグのデータによれば、MUFGのAT1債としては総額4000億円を起債した16年10月以来の大きさとなる。

国内では4月以降、社債需給の引き締まりとともに社債のスプレッド(上乗せ金利)は縮小しており、今回債の発行スプレッドもほぼ同じ年限で起債した三井住友FGと比べ5-6bp低くなった。それでも実際に購入したある投資家は、流通スプレッド縮小が目立つ事業会社の劣後債と比べ割安だったと指摘。このところ希望通り購入できない案件が多い中、久しぶりに大きめの投資ができたと言う。

クレディS危機を受け、起債は当初予定した4月下旬以降から後ろ倒しした。MUFG広報部の堀野幹人調査役は、投資家が国内AT1債の商品性を検討する十分な期間を確保したのに加え、4月以降は日米金融政策の不透明感が払拭され、幅広い投資家から前向きな検討が確認できたと説明。適切な発行条件を追求しながらも、社債市場全体の好転や投資家との対話の結果、当初想定を上回る発行額になったと述べた。

みずほフィナンシャルグループもAT1債を最速7月に起債する予定で、今年も国内3大銀行グループによるAT1債発行が出そろう見通しだ。海外のAT1債市場はクレディS危機以降、落ち着きを取り戻しつつあるものの、新規発行は再開しきれていない。日本はそうした状況に先行している。

三井住友海上火災保険市場運用部の磯本憲司市場運用チーム長は、日本では「銀行が債務超過に陥っていない状況で公的支援を受けてもAT1債の元本削減要件には該当せず、実質破綻と認定されるリスクが欧州に比べて低い点が安心材料になっている」と分析する。高い利回りを得られるため投資家の注目を集めているとし、今後のスプレッド動向や社債の供給状況にもよるが「当面、国内AT1債の需要は底堅い」とみる。

TLAC

MUFGは併せて最終償還年限が2年で発行から1年後にコール可能になる総損失吸収能力(TLAC)適格債も起債した。発行額は2400億円と、当初想定した500億円程度から大幅に増加。AT1債と合わせた発行総額の5700億円は、ブルームバーグのデータによると、2023年の国内事業債として1月に楽天グループが個人投資家を対象に起債した2500億円を上回り最大となった。

ゴーイング・コンサーン(企業継続時)資本であるAT1債は発行体が破綻していない段階でも元本削減などの可能性があるのに対し、TLAC債は発行体の破綻時に投資家に損失負担を求める仕組み。弁済順位は普通社債の次に高い。クレディS危機の影響を受けておらず、今回も発行スプレッドは米欧の金融不安が生じる前の2月に起債した前回債を下回った。

5バリューアセットの上田祐介チーフ・インベストメント・ストラテジストは、日本では「大手銀行が破綻に至る前に公的資金の注入が想定される」と話す。金融引き締めで金融機関の信用コスト上昇が見込まれる米欧と異なり日本銀行の金融緩和が続いていることからも、信用リスクへの安心感があるメガバンクのTLAC債は「買いの対象となっておかしくない」と述べた。

主幹事の三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、今回債には以下の投資家が参加した。

  • AT1
    • NC5:生保、信託、投信投資顧問、系統下部、地方公的、その他諸法人、アカウントX(匿名の注文)
      • 中央投資家と地方投資家の需要・販売比率は約55対45
    • NC10:生保、信託、投信投資顧問、地銀、系統下部、地方公的、その他諸法人
      • 中央と地方の比率は約25対75
  • TLAC
    • 2NC1:生保、信託、投信投資顧問、系統上部、中央公的、地銀、系統下部、地方公的、その他諸法人、アカウントX
      • 中央と地方の比率は約50対50

(第5段落にMUFGのコメントを加え、末尾に投資家層などを追加しました)

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