【齋藤潤一×細田高広】グローバルとローカルの掛け合わせが、新たな価値を生む

2023/5/30
実践第一主義のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」では、2023年7月23日(日)から『グローカル事業創出ブートキャンプ』を開講する。地域に根差しながら、世界へと発信できる、これからの起業家精神を育成する、特別プログラムだ。
本プロジェクトの講師は2名体制。
まず1人目は、AGRIST株式会社 代表取締役CEOであり一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事も務める齋藤潤一氏。
齋藤氏は米国シリコンバレーのスタートアップでのクリエイティブ・ディレクターを経てデザイン会社を創業、2011年の東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命に活動を開始。
全国10箇所以上での地方創生プロジェクトに携わり、2017年よりこゆ財団 代表理事に就任。2019年には農業課題を解決するための収穫ロボットを開発するAGRIST株式会社を創業するなど、気鋭の起業家として知られる。
そしてもう1人は、TBWA/HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める細田高広氏。
様々な企業でクリエイティブリードを務め、広告にとどまらず企業のビジョン策定や新規事業開発、家電・アパレル・化粧品・食品・飲料・小売・金融サービスなど幅広いジャンルのコンセプト開発を手掛けてきている、いま最も勢いのあるクリエイティブディレクターの2人だ。
グローカル事業創出ブートキャンプ』では、多くの受賞歴を持つ両講師からビジネス創出に役立つ実践的なノウハウを学び、日本の産業課題に向き合う方・グローバル進出をローカルから目指す方などに、それぞれが目指す新しいビジネスアイデアを創り上げていただく予定の講座だ。
開講にあたり、2人の対談を実施。2人が語った講座への思いとはー。

「おかしい!」問題を「おもしろい!」構想に

──今回は2人で、『グローカル事業創出ブートキャンプ』をテーマに講座を行います。まず、この講座の印象について教えてください。
齋藤 講師2人がパートナーとなって取り組むのはNewSchoolでも珍しいですよね。イノベーションは組み合わせで起きるものですから、始まる前からもうワクワクしています。
純粋に起業や、ブランディング、クリエイティブに興味がある人材に参加してもらいたいと思いますが、農業や第一次産業に関心のある方、「地方大好き」という方も歓迎したいですね。
いずれにしても扱うテーマの幅が広いので、集まる人も多様になるでしょう。そんなコミュニティこそ、今までにないイノベーティブなことを生み出せるはずので、楽しみは尽きませんね。
テーマに関しては、特にグローバルとローカルの両方を知るというメリットは大きいと考えています。現代はオルタナティブに生きることが重要視されはじめ、数年前のように「東京がすごい」というイメージを抱いている人々も、今はほとんどいないのではないでしょうか。
NewSchoolの講座としては、森岡毅さんと刀の『実戦マーケティング・ブートキャンプ』では、卒業生が自発的にコミュニティを作り上げていると聞いていますし、私たちも最大限にできることを駆使し、同じように“神講座”にしたいと考えています。
AGRIST株式会社 代表取締役CEOであり一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事も務める齋藤潤一氏
細田 ちなみに、地方と世界をつなぐような潤一さんの起業家精神は、そもそもどのように生まれたんでしょうか。
齋藤 私は基本的に「これっておかしいよね」と感じると、脳がイライラする人間なんです。
例えば私が関わる宮崎県新富町で、1粒1000円のライチブランドをつくった理由も、非常に美味しく価値のあるライチが、道の駅であまりに雑に売られているところを目にしたからでした。理想と現実のギャップを埋めたい、という思いがモチベーションとしては非常に大きい。だからこそ現場主義で考えて動くのが好きなんです。
写真提供:こゆ財団
ライチのブランド化のときも事業者からのヒアリングを重視しました。農業課題を解決するために収穫ロボットを開発した際にも、農家との勉強会を2年間続けています。農家の平均年齢は67歳。現場でも人手不足は大きな問題になっていました。だからこそロボットの必要性が理屈でも肌感覚でも理解できたのです。
やはり「矛盾」を見つけることは重要です。まずは現場で気づき、その矛盾を乗り越えたいという内発的動機が、私なりの起業家精神の柱になっています。
細田 「おかしい!」と感じる地域課題を「面白い!」と思える未来構想に。このダイナミックな思考を学ぶのが、まさに今回の講座の狙いですよね。地域に向き合って閉じるのでも、いたずらに世界を目指して浮き足立つでもない。地に足のついた創造性を学べるものにしたいと思います。
TBWA/HAKUHODOのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務める細田高広氏

地域で見つける。世界を見つめる。

細田 地域と世界は、どうしても対立概念で捉えられてしまいます。それを乗り越える発想や行動のあり方は、これまであまり議論されてきませんでした。
齋藤 その通りですね。「グローカル」という言葉にまつわる体験をいかにつくり上げるかが、講座のポイントと言えそうです。
基本的に事業というものは、できるならグローバルで展開した方が確実にメリットは大きいものです。利益が大きく、可能性も広がります。
新富町では「茶心」という1泊平均5万円ほどの一棟貸切の宿があり、海外からの観光客が殺到して業績も非常に伸びています。仮に地元だけで展開していたら、市場規模は10分の1以下になるはず。
同じように私たちの自動収穫ロボットも地元だけなら、「いいロボットだね」で終わってしまうところ、ロボットが収集したデータを活用してアフリカをはじめとする食料課題の解決にまで役立てようとすれば、国連やJICA(国際協力機構)とともにチャレンジするところまで、事業の幅が広がることもあります。
私の事業も、結果としてG7の担当大臣が視察に訪れるなど、人生での面白い経験が生まれています。ローカルには埋もれている宝や資源が潤沢なため、多くのチャンスが眠っています。グローバルで展開しないのはもったいない。
細田 同感です。
グローバルブランドと仕事をしていて感じるのは、地域を忘れてグローバルな存在にはなれない、ということです。例えば、アップルは「Designed by Apple in California」という言葉に誇りを持っていますよね。決して、U.S.Aではありません。
ファッションでは例えば、ブルネロ クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)。イタリアの高級ブランドですが、ブランド自体がソロメオ村という場所に深く根ざして成立していて、もはや地域と運命共同体とも呼べる存在になっています。
ワインだってフランスという国名よりもボルドーやブルゴーニュのような地域の方がブランドとして強い。地域性は、世界に愛されるためのブランド資産としても捉えられるわけです。
もうひとつ、地域性が大切な理由は、それが問いの解像度に影響するからです。最初からグローバル視点で考えると、どうしても雑な思考になります。例えば、世界をサステイナブルな場所にしようという問いから始めると、抽象的な思考になります。
何かしらの理論にはたどりつくかもしれませんが、実行可能なアイデアを見つけるのは容易ではありません。けれど、この地域だけでもサステイナブルにしよう、と考えると解像度の高い答えが見つかる。地域で見つけた可能性を、世界に広める方が、解決への近道かもしれないのです。
最近では日本有数のホタテの産地である、北海道の猿払村と弊社のクリエイティブチームが関わることになり、地域は世界に通じるんだという想いを強くしています。
齋藤 来月、行きますよ(笑)。猿払村。
細田 本当ですか?偶然ですね。猿払村は、ご存知の通りホタテ漁で有名な場所です。美味しいホタテがたくさん獲れるのですが、そのぶん貝殻が山ほど余ってしまっていました。殻を廃棄物ではなく新素材にできないか。そんな考えから、貝を守ってきた殻で、人の頭と地球を守るヘルメット「ホタメット」をつくることになったのです。
齋藤 私の知り合いが一生懸命に売っていましたね。
細田 ありがたいことです。海外にはシェルメット(Shellmet)という名前で発信したのですが、瞬く間に話題になり、世界中から問い合わせが殺到しました。今後も貝殻を素材にして、さまざまなプロダクトを企業とのコラボレーションでつくっていく計画があります。
齋藤 地域から世界へ。面白い事例ですね。
細田 「ホタメット」も最初からグローバルを想定していたわけではありません。地域の課題を解決しつつ、面白いものがつくれればいい、と考えていた。それが想定を超えて世界に広がっていったのです。「グローカル」という言葉が腑に落ちた瞬間でした。

地域にこそブランディングが必要だ

齋藤 細田さんはローカルに眠っている宝を見つけて、それを輝かせるプロと言えそうです。今回の講座では「見つけ方」から「輝かせ方」まで伝えていくと思いますが、自身で普段から意識していることはありますか。
細田 「見つけ方」という意味では、潤一さんと同様に、理想と現実のギャップは常に意識しています。
大切なのはビジョンです。ブランドがどうなっていけばいいか、まずは理想の未来を具体的に描くこと。すると現状を見たときに「なぜ、そうならないのか」という問いが生まれます。ビジョンがない人には問いもつくれません。
もうひとつ、地域の問題を考える時は、タイムマシンに乗っているのだと考えるようにしています。例えば、秋田であれば、高齢化率が日本で一番高く、人口の40パーセントは65歳以上です。
これは、数年後の日本全体の数字です。地域を見ながら、日本と世界の未来を見る。すると、課題も希望もどちらも見えてくる。若者の分まで活躍しているシニアがいたり、一歩先のテクノロジーで労働力を代替したり、それらは未来の日本のヒントになります。
こうやって、時間軸を持ち込むとさらに地域から発見できることがあると思うんです。
齋藤 課題の多いところに飛び込むからこそ見えてくることも、ありますからね。
「輝かせ方」という意味では、地域ブランディングという言葉があるように、ローカルの方がブランディングに関しては馴染みがあったりもするのかも知れません。
数年前に、丸の内朝大学で地域ブランディングに関する講座を行ったときも、参加枠はすぐに埋まったほどでした。地域とブランディングの掛け合わせは、意外に都心にも興味・関心を寄せている層が多いようで、今回の講座も地域ブランディングの聖地になればいいですね。
細田 都市発のブランドは「世界観から」つくり上げられる場合が多い。一方、地方発のブランドは優れたモノが先にある場合が多いと感じます。外側からつくるか、内側からつくるか。両者の手法を合わせることで、さらに新しい方法論がつくれるかもしれません。
齋藤 都市はデジタルで地方はアナログという印象もあり、そのデジタルとアナログの組み合わせだからこそ、新たな化学反応も起こりそうです。セオリーと現場、無機質と有機質といった対比としても見ることができ、振り子のような2つの構図は面白そうです。
その大きな振れ幅から生まれるイノベーションを体感せよ、という講座になればいいですね。
細田 「振れ幅」は、新講座のキーワードのひとつになりそうですね。ちなみに、講座を受けてほしい人物像はイメージしていますか。

“ノーボーダー”で動ける人材に

齋藤 私としては、どういう人に来てほしいかよりも、受講し終えたときにどんな人になっていたいかを重要視しています。そう考えると、講座終了後には、受講者にはグローカル人材になってもらえれば嬉しいですね。
具体的には、固定概念や凝り固まった考え方にとらわれず、“ノーボーダー”で動けるような人材になります。
地方で働くことは難しいとしている都市部の考えや、都市部で売り上げを作るのは難しいとしている地方の考えといった、自分で勝手に限界を設けないようになってもらいたいところです。
細田 “ノーボーダー”人材、大賛成です。ひとつだけ加えさせて下さい。グローバルとローカルの振れ幅は、同時にThinkとActの振れ幅でもあります。「考える」と「行動する」。この2つを高次元でつなげられる人材は希少です。
深く考える。けれど考えすぎて身動きが取れなくなるどころか、フットワーク軽く行動できる。深さと軽さのどちらも、身につけた人になってほしい。私自身も学ぶつもりでのぞみたいと考えています。
大企業に所属していても、個人で活動していても、課題を見つけたら、そのままにするのではなく、課題をすぐさま希望に変換する。それができる人が、本当の意味で“ノーボーダー”な人材だと言えそうです。
齋藤 いいですね。ぜひ、「Think Globally, Act Locally」を目指しましょう。
(構成:小谷紘友、編集:上田裕、撮影:是枝右恭)
「NewsPicks NewSchool」では、2023年7月23日(日)から『グローカル事業創出ブートキャンプ』を開講します。詳細はこちら。