日本はブランディングが下手?

日本企業にはCMO(最高マーケティング責任者)が少ない

2015/2/24
プレミアリーグの名門クラブで働く本村由希は、スポンサーシップをセールスするために世界中の企業を研究している。その中で気付かされたのが、日欧のブランディング意識の違いだった。今回から3回にわたって、サッカークラブの立場から見たマーケティング論を紹介する。第1回は「CMO(最高マーケティング責任者)」について。

日本はカタチがないものを売るのが苦手

今回は私がずっと気になっていた「マーケティング」に関することがテーマです。

コメントでも何度か見かけましたが、「日本はカタチがないものを売るのが得意でない」ということ。

これは私がこの仕事を始めてからずっと感じていたことです。

ではなぜ私が、こうしたサッカーと全く関係のないことに気付くことになったのか、お話したいと思います。

それには日本企業のマーケティングに対する考え方が大きく関わっていると思います。

日本のマーケティング、世界のマーケティング

私がサッカーの仕事を始めて最初に衝撃を受けたのは、外国企業で働くことのカルチャーショックでもなく、定時退社にこれでもかというくらいこだわる現地社員でもなく、実は私自身が生まれ育ってきた日本にある「日本企業のユニークさ」でした。

というか、正直、サッカー関係者になって、サッカーよりも日本企業についてここまで突っ込んで知りたくなるなんて思ってもみなかったというのが本音。

なにに衝撃を受けたって、なんてったって日本のマーケティングに対する捉え方です。

皆さんご指摘のように日本には、カタチのないモノや企業そのものをマーケティングし、強いブランドにするという、「マーケティングからの企業ブランディング」という概念があまりないようなんです。

これに関しては西洋と東洋、そして日本と外国のどちらが正しいか、正しくないかの問題ではなく、ただ日本がユニークなだけだと思います。ユニークな歴史と「モノづくり日本」という意識がそうさせているのかもしれません。

クラブ側から見たスポーツマーケティング

よく、マーケティングを説明するときに4Pっていうのが使われると思います。Product, Place, Price, Promotionってやつです。これはマーケティング戦略を考えるときに使われるもので、これらを組み合わせて戦略を立てるとうまくいくかもよ、っていう戦略指標みたいなものでもあり、戦略テンプレートみたいなものです。

私なりにかみ砕いた解釈では、

Product:いいもの、サービスを創造し売るための戦略

Place:必要とされる場所で売るための戦略

Price:適切な値段で売るための戦略

Promotion:より多くの人に届くように目立たせて効果的に売るための戦略

というようになると思っています。

つまりマーケティングというのは、人々のニーズを知り、上記のPたちをうまく組み合わせて効果的に売り、顧客を満足させること。うまく売るための戦略や戦術の集合体であって、効果的に売るために欠かせないものです。

そしてこの連載で何度も繰り返しお伝えしていますが、スポンサーはお金を払って単に広告スペースを買うのではなく、何年ものパートナーシップを結び、企業ブランド力の向上を目指すもの。

私たちが取引しているのは、広告スペースではなく契約を結ぶことによって獲得できる権利なのです。権利とはピッチサイドやユニホームに企業名を載せられる権利、スタジアムのネーミングライツ、共同イベントの開催など、さまざまな角度からサッカーというスポーツを使ってプロモーションをするもの。

西洋の文化では、スポンサーシップ契約により、獲得した権利で製品や企業ブランドそのものをスポーツにのっけて広めるというマーケティング戦略を使い、企業全体のブランド価値を高めるというスポーツマーケティング文化が発展してきたわけです。

ですからクラブ側は当然、「企業のマーケティング担当者」と話がしたいと思います。当然です。だって西洋の価値観を通せば、スポンサーシップはマーケティングの一環なのだから。

マーケティング部がない、CMOがいない?

前回、私が企業の組織図を見るのが好きと書きましたが、組織図萌え体質になったのは、日本企業にマーケティング部を見つけようとしてもなかなか見つからないということに気付いたことがきっかけです。

クラブ側はスポンサーを扱うのはマーケティング部だと思っています。だから、クラブの魅力はマーケティング部に伝えるべきだと思うし、企業がどういったマーケティング戦略を持っているのか知りたいわけです。

でもまず、マーケティング部がない。

マーケティング部がないのだから、CMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)がいない。

今でこそ、CMOという役職が少しずつ見つけられるようになりましたが、私が仕事を始めた頃はこのCMOという役職を設置している会社は本当に少なくて、驚きました。

日本にはあれだけマーケティングという言葉が浸透していて、関連書籍もたくさんあるのに。

企業のホームページを見てマーケティング部を見つけても、あれれれ? 製品の名前ごとにマーケティング部があったり、地域ごとに分かれていたりするのですが、全製品、全地域のマーケティングを統括し、企業そのもののマーケティングやブランド強化をリードするはずのCMOという役職が見当たらないのです。

何度か企業に電話をしてみる機会もあって、マーケティングを統括する部署やCMOを探そうとしたのですが、「どの製品のマーケティング部ですか?」とか、「うち、地域ごとに分かれてるんですけど、国内ですか? 海外担当ですか?」とか、そういうふうに聞かれてしまうことも多く、電話の相手はひどく混乱しているようでした。

趣旨を説明しても本社ではなく子会社に転送されてしまい、「なんでここに電話をしてくるのか?」と困っている人もいたし(私も困った)、スポンサーを扱う部署や企業ブランドの強化を担当するような部署を探してもらっても、残念ながらそういった部署はありませんと言われてしまうこともありました。

では、日本ではどういった部署がスポンサーを扱うのでしょうか?

(次回に続く)

※本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。