竹中平蔵の経済がわかる

竹中平蔵の「経済がわかる」

高橋是清の名言から読み解く経済政策

2015/2/19
「この先の日本経済がどうなっていくのか」「世界経済はどのように動いているのか」ーー経営者にとっても、ビジネスパーソンにとっても、日々の経済動向をウォッチすることが不可欠です。本連載では、竹中平蔵氏が、経済の時事テーマやキーワードについて、鋭くわかりやすく解説。今回は歴史上の名言から経済を見渡します。

歴史の「名言」から経済を読み解く

「1足す1が2、2足す2が4だと思いこんでいる秀才には、生きた財政はわからない」高橋是清

以前から、高橋是清という人物にはとても関心がありました。彼は、困難な時代の経済運営を最前線で担当した、歴史に残る偉大なる政策マンです。

高橋是清(1854〜1936年)の時代には、昭和2年(1927年)の金融恐慌、昭和4、5年の世界恐慌下のドル買い事件、軍部台頭などが立て続けに起こります。まさに、「毎日が経済危機」であり、その時期に高橋是清は、6度の大蔵大臣と日銀総裁、そして総理大臣を経験したのです。

このように書くと、エリート中のエリートを想像するかもしれませんが、彼は私生児として生を受け、アメリカで奴隷を経験するという数奇な人生を送ったのです。そして彼は1936年(昭和11年)2月26日の朝、あの2・26事件で凶弾に倒れました。まさに、波瀾万丈の人生でした。

高橋是清については、しばしば偉大なる「財政家」という言い方がなされます。しかし以前から私は、このような評価には違和感がありました。 彼は、大蔵大臣を6度もつとめたのですから、財政に詳しいことは疑いありません。たびたび国家の危機、財政の危機を救い、国民的な人気を集めたのも事実です。だからこそ「財政家」といわれるのでしょう。

しかし財政は、広くとらえれば、あくまでも経済の一分野です。高橋是清が偉大な仕事を成しえたのは、彼が財政に詳しかったからではなく、人間が生きる経済社会全体に対し圧倒的に深い理解を持っていたからです。最大の強みは、波瀾万丈の人生のなかで、広い世界を知り、実体経済への深い理解を持っていたことなのです。

財政の話になると、どうしても「金庫番」的な発想になり、増税論議に走ります。しかし、財政はあくまで経済を良くする手段であり、その背後にある経済やさらには人々の生活を忘れてはなりません。 高橋是清は、不況時には徹底した財政拡大を行ないました。だから「日本のケインズ」と言われることもあります。

しかし彼が2・26事件で暗殺されたのは、人々の重税負担を考えて軍事予算を削減しようとし、軍部から恨みをかったからでした。彼は、決して、財政拡大一辺倒の人ではなかったのです。

彼の人生は、13歳で仕事を始めた時期に、馬丁やコックたちと一緒に酒を飲むことから始まったと言われています。だからこそ、実体経済を知る財政専門家になり得たのでしょう。

日本では、これから夏にかけて、財政健全化の本格的な議論が始まります。高橋是清の教訓をどう活かすか……。狭い意味での金庫番ではない、しっかりとした政策論議を期待したいものです。

※本連載は毎週木曜日に更新する予定です。

「竹中平蔵の『経済がわかる』メルマガ」配信終了のお知らせ
いつも「竹中平蔵の『経済がわかる』メルマガ」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。
このたび「竹中平蔵の『経済がわかる』メルマガ」は、2015年3月31日の配信をもちまして配信を終了させていただくこととなりました。
これまでご購読いただきまして、誠にありがとうございました。最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします。