2023/4/11

【リーダー必読】共創を加速する 最高のチームの作り方

 少子高齢化や人口減少など、様々な社会課題を抱える日本。山積した課題を乗り越えるために、国内外・業界・年代などの枠を超えた「共創」が求められている。
しかし、さまざまなステークホルダーとの協業を図る中で、求められる結果を残すことは、容易なことではない。
「リーダーが腹をくくっていないと駄目だ」と指摘するのは、元サッカー日本代表監督であり、J3リーグ・FC今治を運営する株式会社今治.夢スポーツの会長である岡田武史氏。
結果を残すチームは、何が違うのか。
今回は、「日本が勝つためには『チームの力』が必要だ」と題し、岡田氏に加え、F1とインディカー両方の表彰台を知る唯一の日本人レーシングドライバー・佐藤琢磨氏、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下、DTC)代表執行役社長の佐瀬真人氏を招聘。
スポーツとビジネスの両視点から、日本を変革する共創に必要な「チーム力」について議論を交わした。

「勝つチームには一体感がある」は本当か?

── 初めに「勝つチームの条件」について教えてください。昨年のサッカーW杯では、日本代表の勝利が大きく世間を賑わせました。強豪国であるドイツ、スペインに勝利したチームは、これまでと何が違ったのでしょうか。
岡田 選手が見せた主体性は、これまでにない大きな違いだと思います。
岡田武史(おかだ・たけし)株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長、元サッカー日本代表監督。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業に入社、DFとして活躍。1990年に現役引退後は、コンサドーレ札幌、横浜F・マリノスの監督、2度の日本代表監督を務めた。2014年にFC今治の運営会社である株式会社今治.夢スポーツのオーナー兼会長に就任。環境教育や地方創生などの社会貢献にも取り組む。
森保一監督は、ずっと我慢して、選手たちに戦術をあまり押し付けなかった。選手の主体性を引き出すことに徹底していました。それが今回の代表チームの強みであり、違いだと思います。
あとは、一体感
ただ、勝つとみんな言いますよ。「一体感があった」と。そして勝つチームを分析すると、一体感がある。
ところが、チームをつくるときに、一体感からつくると、大体失敗する。一体感が目的になって、なかよしこよしで負けてしまうんです。
そうではなくて「あいつ、どうも好かんけどな」「でも、あいつにパスを出したら、絶対点を決めてくれる」とか。勝利という一つの目標に向かって結果を求めること。その中で、それぞれが持つ役割や性格を認め合いながら、力を合わせることが重要です。
こういったプロセスの中で結果を出せると、一体になってくるんですよ。
── 主体性や一体感が、チームを強くすると。
岡田 結果的にはそれらがうまくはまったことが、強豪国に勝てた要因だと考えています。
佐藤 レースと共通するところがたくさんありますね。
佐藤琢磨(さとう・たくま)レーシングドライバー。20歳でモータースポーツの世界へ。英国F3で頂点を極め、2002年にF1デビュー。2004年アメリカグランプリにて表彰台を獲得。2013年、米国最高峰のインディカー・シリーズのロングビーチグランプリにて日本人初優勝を成し遂げ、世界最高峰のレースと言われるF1とインディカー両方で表彰台に上がった唯一の日本人ドライバーとなる。インディカーシリーズ通算6勝。2023年はチップ・ガナッシ・レーシングに移籍し、インディ500を中心にオーバルレースに参戦。
ドライバーが目立つので個人スポーツのように捉えられがちな競技ですが、インディカーレースにおいても、チームワークは非常に重要です。
例えば、車がピットインしたときに給油やタイヤ交換が行われますが、ピット作業では、1秒や2秒を簡単に失います。
時速370キロで走っているので、1秒間で100メートル以上の差が生まれる。そして、その1秒をコース上で取り戻すためには、コンマ1秒ずつ縮めたとしても、10周かかるんです。
まさにチームの結果を左右するので、一体感は勝つチームの必須条件だと思っています。
佐瀬 コンサルティング業務も、基本的にプロジェクトごとのチームで仕事を行うので、まさに一体感なくしては成り立ちません。
佐瀬真人(させ・まさと)デロイトトーマツコンサルティングCEO 製造業を中心に事業戦略立案、マーケティング戦略立案、技術戦略立案、組織・プロセス設計に関するコンサルティングに従事。特に自動車業界においては自動車メーカー、自動車部品サプライヤー、販社ディーラーの領域をカバーする経験を有する。著書に『モビリティー革命2030自動車産業の破壊と創造』がある。2019年6月より現職。
一体感をつくるために必要なのが、目的意識の共有だと考えています。
目的がバシッと決まったときは良いチームになりますし、一方でなかなか定まらなかったり共有されないと、なあなあで進行してしまいます。
ただ、当社の場合、企業のカルチャーやバックグラウンドの違うクライアントを含めたプロジェクトチームなので、目的意識の共有だけで一体感を醸成することは非常に難しいです。
岡田 僕がよくしているのは、例えば野外体験に連れて行って、キャンプをしたり、バーベキューをしたり。チームメンバーでサッカー以外のことをして、見たことのない側面を見る機会をつくります。
「あいつ、あんなところあるんだ」と、相手をより複雑なものとして多様な見方ができると、認め合えたり、受け入れて一つの方向に向かって一緒に戦えるようになったりするんですよ。
佐瀬 おっしゃる通りですね。クライアントとの距離感が近づく瞬間って、プロジェクトの議論からは少し離れた所になりがちです。
食事の場であったり、ミーティング前後のちょっとした雑談で、一気に心理的な距離が近づくイメージです。
岡田 コロナになってからは、難しくなっていますよね。
佐瀬 まさに、コロナで一つ変わったところです。

変革に欠かせない「第5の経営資源」とは

── 次に、「変革の鍵としてのチームの力」をお伺いできればと思います。岡田さんは、FC今治の経営をはじめ、さまざまな変革を行っています。注力されてきた「今治里山スタジアム」について教えてください。
岡田 今治里山スタジアムは、日本で三つ目の民間だけで建設されたサッカー専用スタジアムです。
スタジアム建設には通常、数百億円単位の費用がかかりますが、それでも民間だけでチャレンジしようと決め、走ってきました。
今治里山スタジアム
土地の無償貸与が決まって、設計図ができて、工事業者が決まって「あとは、岡田さんが40億集めるだけです」って言われたときは、ぶっ倒れそうになりました(笑)。
メンバーが死に物狂いでいろいろな場所へ足を運ぶ中で、我々のやろうとしていることや企業理念に共感してくれた方々が、たくさんのサポートをしてくださり、結果的に資金が集まりました。
そしてスタジアムを建設すると、町が変わり、人が変わっていったんです。
昨年、台風が直撃した試合のとき。本当だったら中止にしてもいいくらいの悪天候で「今日は、お客さんは来ないよな」と思っていましたが、1,500人ものサポーターが観戦に来てくれました。
お年寄りのサポーターも多いので、暴風雨の中、杖つきながら見ていたり。障害者の人が、ずぶ濡れになりながら車椅子で来てくれて。
やっててよかったなって、感動しちゃって。もっと頑張ろうと。
我々チームが働きかけて、サポーターの方々が応援してくださる姿を見て、また我々は変革を進める勇気がもらえる。そんな、パワーの循環を感じる出来事でした。
── 変革を進めるためには、何が必要なのでしょうか。
岡田 今治にきて9年目になりましたが、理念を伝え続けることの重要性を感じています。
2014年に今治へ行ったときは、「今治では無理だ」「あり得ない」と散々言われました。ところがいま、今治が変わるかもしれないと、多くの方々に期待を寄せていただけるようになりました。
それは我々が「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という理念を掲げて、伝え続けてきたからだと思っています。
理念があるから、優秀な人材が集まったり、周りの人がお金を出してくれたり。共感してくださる方も、ほとんどメンバーのようにコミットしていただけたのは、良い意味で驚きでした。
── 昨今のビジネスでも、「理念」の存在感は大きくなっている印象です。そういったトレンドはどのように捉えていますか。
佐瀬 当社は今後、「ヒト、モノ、カネ、情報」に次ぐ第5の経営資源として「コミュニティ」の重要度が増していくと考えています。
ビジネスを取り巻く環境が素早く変化していく現代で、1社単独で業界を変えるようなインパクトを生み出すことは、一部の大手企業を除いて、非常に難しい状況にあります。
従来は、企業と企業が手を組み、コンソーシアムなどを作っていましたが、そういったビジネス上の利害が一致した集まりではなく、社会課題に対して、ビジョンやパーパスの一致によって生まれる集まりを「コミュニティ」と呼んでいます。
コンソーシアムと言っても、企業と企業の折り合いがピッタリと合う事業はなかなかないですし、もう少しアンオフィシャルな、企業とステークホルダーをつなぐ場が生まれていくと予想しています。

パーパスドリブンなコミュニティが変革を生む

岡田 まさに、我々が今治里山スタジアムで実現したいことが「新しいコミュニティづくり」です。
イメージしているのは、住民票を移さなくても誰でも入れる、衣食住を保障し合うコミュニティです。
衣類は、余っているものを融通し合う。食事は、オープンキッチンを作り、月に1回ボランティアで、町のシェフがみんなに振る舞ってくれる。住居は、空いている家がたくさんあるので、それをみんなで修理して使う。
そこに、暗号通貨を導入します。持っている期間に応じて価値が下がる、ありがとうを素早く回す必要がある仕組みを考えました。
まず試験的に行い、次にJリーグとBリーグの計100を超えるチームが中心となって日本中の地域に共助のコミュニティをつくることができたら、この国が変わると思いませんか。
妄言だと言われるんですけど、夢を持って、言い続けます。
FC今治と同じ。僕はやりますよ。
佐瀬 素晴らしい取り組みですよね。
こういった取り組みを広げる上で大切なのが、個人の参画したいという思いを、企業や団体がバックアップする仕組みです。
例えば、企業で働きながら今治コミュニティに参加して、経験したことがキャリアにつながったり、新しい事業につながる。そういった未来もいずれ訪れると思います。
「変革」は、企業がトップダウンで決定するものから、社員一人一人の意志によって起こる波のようなものに変わっていくと考えています。それらの波が、新しい社会課題の解決の仕方や、事業の原動力になる。
そんな未来から逆算して、企業側も個人のパーパスを尊重し、機会を提供する仕組みを導入するべきだと考えています。
佐藤 インディカーレースでもDTCチームにデータ分析などでご協力いただいていますが、彼らからは強い意志を感じています。
というのも、一緒にプロジェクトを進めているDTCチームの中に、熱烈なレースファンがいるんですね。
熱量を持つ方が、ただ単に応援していただくのではなく、優勝するために、どのようにデータ解析を活用するか、デジタルソリューションを活用するかを一緒に考えて進めてくださっているんです。
── 「コミュニティ」や「パーパス」が重要視される中で、DTCではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
佐瀬 今期から「DTCバリュー経営」という、ロングレンジで企業価値を上げていく方針を打ち出しています。
これまで測ることのできていない3つの非財務価値「クライアントバリュー」「ソーシャルバリュー」「ピープルバリュー」の最大化を目指しています。
現在当社に所属するプロフェッショナルの数は5,000人を超えています。一人一人の力を最大化することで、結果としてファームのバリューを大きく伸ばすことができると考えています。
では、どのように社員一人一人の力を最大化できるか。
特に、若手社員に入社理由を聞くと、「社会課題の解決とビジネスを両立したい」と答える方が非常に多い。こういう社会課題を解決したいんだ、という個人としてのパーパスを持つ方が増えていると実感しています。
例えば農業、地方創生、海洋など、さまざまな個人のパーパスに合わせて、それに沿ったプロジェクトに関わる機会を積極的に提供するつもりです。
なので、実は岡田さんや佐藤さんのサポートをしているメンバーは、本当に「やりたくてやっている」という気持ちも強いので、むしろパワーをもらっているんですよ。
佐藤 僕自身が提供できることって、本当に小さいことですが、少しでもポジティブな機会の提供につながっているのであれば、非常にうれしく思います。

リーダーはごまかさず、向き合うべし

── 最後に「チームが力を発揮するために必要なこと」を伺います。岡田さんは、どのようなことを実践されていますか?
岡田 僕は、一人一人と真剣に向き合って、価値を認めることに注力します。
基本的に、シーズンの初めの挨拶で「1年間、1回も試合に出場させられない選手がいるかもしれない。それでも、1年間でサッカーをうまくする自信がある。ただし、ふてくされるやつは、相手にできないから、出て行ってほしい」と言って始めます。
それから、一人一人のノートを作ります。
「誰に、いつ、こういうことを言った」「こうやって、こういう練習をさせた」とかね。
個々のいいところを探して尊重して、どうするのがベストなのか、真剣に考えるんです。
佐瀬 すごく労力をかけていらっしゃいますよね。
岡田 はい。ただ、社員に関しては数が多いこともあって、とてもじゃないけど一人ずつノートを取ることはできません。
それでも、一人一人と、真剣に向き合って、存在価値、必要としていることを伝えることは欠かさず続けています。
選手で言えば、ウォーミングアップで、ストレッチをやっているとき、ぶらぶら散歩しながら「この前の練習で、トラップから右足のシュート、素晴らしかったな」と話しかけるだけで、ぱっと顔が明るくなる。「ありがとうございます」と。
── 佐藤さんはいかがですか。サッカーとはまた違った関係性なのでしょうか。
佐藤 監督とプレーヤーの違いもあると思いますが、僕が大事にしているのは、しっかりと向き合って、衝突するときは衝突することです。
初めにもお話ししましたが、ピット上での給油やタイヤ交換による1秒の遅延でレースの決着がついてしまうこともあります。
世界三大モータースポーツのひとつと言われる「インディ500」であれば、およそ3時間走り続けて、最終結果の1位と2位の差は2秒もないくらい。
3時間集中し続けても、1秒の差で負けるかもしれない。シビアな戦いなんです。
岡田 ミスが起きたとき、頭に来ないんですか?
佐藤 誰にも悪気がないことは分かっていますが、もちろん、感情は揺さぶられます。
ピットのミスで優勝を逃したこともありましたし、自分がレース上で失敗したこともあります。大量の資金が投入された車を壊してしまうこともあります。
それでも、失敗が起きたときに「今回はしょうがなかった」でごまかしていたら、次にはつながらないと思うので、しっかりと自分の考えを主張して、相手の意見も聞くようにしています。
岡田 すごく分かります。リーダーになると、腹をくくっていないと駄目だと思いますね。
問題に向き合わずに、なあなあで終わらせてしまうのは、一番やってはいけない。
相手も嫌がるけど、ちゃんと向き合って、本当に駄目だったら、関係の解消もしなきゃいけないわけ。ここはすごく難しいところだと思いますね。
── DTCではチームが力を発揮するために、どのような取り組みを行っていますか?
佐瀬 当社も、お二人と同じように、ダイレクトなフィードバックを重視しています。
コンサルティングファームは、人を育てることが競争力の全てです。
現在の従業員数は5,000人ですが、これから先も毎年成長していく中で、新しく入社する人にどれだけ早くプロフェッショナルとして成長してもらえるか。これが、事業成長の源泉になります。
当社には、ピットインならぬチェックインという、週に1回必ずメンバーに対してマネジャーがフィードバックを行う制度があります。
「この前のミーティングでの発言、すごく良かったよね」とか。「あのとき、もっとこういう言い方をしたらクライアントに価値提供できたんじゃないか」とか。
悩みがあれば聞いて、コーチングまたはティーチングを行う。まさに、メンバーとしてしっかりと見ているよ、ということを伝えるとともに、その場で、目の前の業務やキャリアの問題解決や提案をしていく。
このチェックイン制度が定着して以降、育成のスピードはものすごく上がりました。
研修やOJTなどいろいろな人材育成の手法がありますけど、やっぱり最後はダイレクトなフィードバックだなと、お二人のお話を伺って改めて痛感しました。
番組では具体的なエピソードを交えて深く議論しています。
デロイト トーマツ コンサルティングでは、日本のスポーツビジネスの発展のためスポーツビジネスコミュニティを始動。
<Deloitteイベント「Lead the Way Forum」を開催>
スポーツをはじめ、働き方の未来やグリーントランスフォーメーションなどをテーマに据え、産官学のさまざまな分野からの有識者をお招きし、DTCの各領域におけるプロフェッショナルたちとともにディスカッションする5日間。(詳細は後日公開)
<書籍「パワー・オブ・チェンジ」を発売>
かつての経営の「定石」が通用しない今、経営変革に求められる「チェンジ」の様相とそれに立ち向かう方法論を紹介。コミュニティキャピタルの重要性についても解説しています。