2023/3/31
【三位一体】総合コンサルの常識を覆す「SAM」とは何者か
デロイト トーマツ グループ | NewsPicks Brand Design
総合コンサルティングファームには、多種多様な領域のプロフェッショナルが集う。
企業が抱える経営課題に対し、プロジェクト単位で最適なメンバーを編成し、各々が高い専門性を発揮しながら課題解決を導く。そんなコンサルにとって常識とされてきたあり方を打ち破る組織が誕生した。
それがデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下DTC)が立ち上げた新組織「SAM(サム)」だ。
Strategy、AI&Data、M&Aといった3つの領域がワンチームになり、領域横断で課題解決に臨んでいるという。
三位一体のSAMはなぜ生まれたのか。新体制がどのようなシナジーを生み、そしてクライアントに価値をもたらすのか。3つの領域を司るキーパーソンたちの証言をまとめる。
企業が抱える経営課題に対し、プロジェクト単位で最適なメンバーを編成し、各々が高い専門性を発揮しながら課題解決を導く。そんなコンサルにとって常識とされてきたあり方を打ち破る組織が誕生した。
それがデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(以下DTC)が立ち上げた新組織「SAM(サム)」だ。
Strategy、AI&Data、M&Aといった3つの領域がワンチームになり、領域横断で課題解決に臨んでいるという。
三位一体のSAMはなぜ生まれたのか。新体制がどのようなシナジーを生み、そしてクライアントに価値をもたらすのか。3つの領域を司るキーパーソンたちの証言をまとめる。
INDEX
- “Stronger Together”を体現する組織
- 「とうとう、この時が来たか」
- 専門性へのリスペクトに、あえて踏み込む
- 経営トップの圧倒的な信頼を得る言葉
- 確たる専門性が未知なる化学反応を起こす
“Stronger Together”を体現する組織
多種多様な業界の経営戦略を支援する総合コンサルティングファームにおいて、クライアントに提供するサービスや部門をどう切り分けてラインナップするかは、重要なテーマと言える。
喩えるなら、店頭に並べる商品を選定し、店構えを整えるようなものだ。
SAMディビジョン誕生は、デロイト グローバルにおける“店構え”の刷新に端を発する。
さかのぼること2018年。DTCで長らくM&Aを中心に企業改革に携わってきた神山友佑氏は、新たな“店構え”をめぐる議論に日本から加わっていたという。
「実は、サービス分類の見直しは、およそ16年ぶり。グローバルのリーダー陣が2年間議論を重ねてたどり着いたのが、SAMという新組織なのです」(神山氏)
最大の争点は、「戦略」や「テクノロジー」と、部門ごとに分離独立した組織体制だった。
もちろんクライアントの経営課題に対して、各部門のプロフェッショナルたちで連携し、プロジェクト単位の精鋭チームを編成して向き合ってきた。
だが、こうしたDTC内での部門分けは、「お客様目線で見れば、無意味でした」と神山氏は語る。
「お客様が私たちに望むのは、共に変革までの道のりを描き、それを成し遂げる日まで伴走することです。
その過程では、戦略やテクノロジー、アライアンス、M&Aなどが有機的に絡み合っており、専門性で切り分けて進められるものではない。
ビジネス、そして社会の変革に必要な専門性が集まった状態こそが、組織の最小単位だという考えに至りました」(神山氏)
こうして2019年、Strategy、AI&Data、M&Aの3領域を統合した新体制「SAM」がグローバルでスタートした。
しかし、日本でSAMの立ち上げは、さらに3年の月日を要した。その理由を神山氏はこう語る。
「DTCの文化に“Stronger Together”があります。業界トップレベルの力が集まるからこそ、真に強くなれるという考え方です。
当時、日本のAI&Dataは、残念ながらその域に達していませんでした。そこでまず、この領域の社内教育や人材の獲得から体制を作り上げていったのです」(神山氏)
こうして2022年6月、満を持して日本のDTCでは神山氏を責任者として「SAM」がスタートする。
「とうとう、この時が来たか」
Strategyの三室氏は「AI&Dataと組織統合する意義が理解できていなかった」と、立ち上げ期を振り返る。
「M&Aとはよくタッグを組むので、『組織が実態に追いついた』という印象でした。一方で、AI&Dataとは少し距離があったので、正直なところ組織統合には戸惑いましたね。
一口にAIと言っても、従来の業務適応からディープラーニングによる高度なソリューションまで多岐にわたる。その表層だけで理解したつもりになっていたから、三位一体のイメージを持てなかったのだと、今ならわかります。
もしあの頃のまま戦略を担っていたらと思うと、少し怖くなるくらいです。1つの組織になったおかげでAI&Dataに対する解像度は上がりましたね」(三室氏)
そんな三室氏とのディスカッションに、日々多くの気づきを得ているという、AI&Dataの森氏。自らの専門領域がStrategyやM&Aと並んだことで、社会を変えていく予感が芽生えたという。
「DXやデジタル化の波で脚光を浴びたAIやデータ活用は、ツールの導入による生産性向上に主眼が置かれていました。
しかし、それ以上のパワーを持つことに、私たちも世の中も気づき始めたのです。
組織文化や業界構造さえ変えていけるテクノロジーであり、そこに自分たち専門家が挑まなければならない。そんな確信が生まれた頃に、SAM設立の話がおりてきた。
『とうとう、この時が来たか』と感じたことを覚えています」(森氏)
専門性へのリスペクトに、あえて踏み込む
これまでプロジェクト単位で部門連携を幾度となく行ってきたDTCでのワンチーム体制への移行は、かつてない挑戦だ。
神山氏は、その環境変化を「同居人になる」と表現する。
同じDTCの社員でも、他部門には多少なりともよそ行きのコミュニケーションにならざるを得ない。
それが同じチームの人間になると、自分の専門領域について、相手も知っている前提で話すようになる。まるで“同居人”に普段着で接するように。
「今、どんなに忙しくても毎週30分は森さんと定例会をしています。プロジェクト単位での関わりでは、ここまで相手に踏み込み、理解しようとは動けなかったでしょう。
対話を重ねるうちに、お互いまったく違う視点で物事を捉えていることがわかってきました。私は経営者を中心に、森さんは社会や価値観の変化に焦点を当てている。
専門用語が飛び交うAI&Dataの話にも身を乗り出し、その知見をクライアントへの価値提供に活かそうと積極的に動けるのは、私たちが同じ目標を背負う“ファミリー”になったからですね」(神山氏)
だが、ここで1つの疑問が生じる。
従来のコンサルは、プロフェッショナルたちがプロジェクト単位で集い、顧客課題に向き合うのが定石。SAMのワンチーム体制は、その強みと矛盾しないのだろうか?
三室氏は「チームを統合したからといって、私たちがプロフェッショナルでなくなるわけではないのです」と微笑む。
「専門性の掛け算で、失うものはありません。それよりも、どこまで掛け算の結果としての提供価値を大きくできるかが勝負。みんな『自分はこのチームのために何ができるのだろう』と頭を悩ませています」(三室氏)
個々人がプロフェッショナルとしての誇りを持ち、常に相手の専門性に敬意を払う。それがDTCの企業文化だ。SAMは、そこにあえて踏み込む実験的な側面もあるという。
「今までは、礼儀正しく互いに一線を引いていた。だからこそ今度は、同じ組織でかき混ぜ、思わぬ化学反応も期待しています。
実際に、SAM立ち上げ以前には想像もしなかったような世界が見えるようになりました。それは恐らく、自分たちのボーダーラインを壊しているからでしょう」(神山氏)
プロフェッショナルとしての矜持を持ちつつ、他の専門性と融合して、新たな視点を獲得することで、これまで見えていなかった景色が見えてくる。
SAMが誕生して、「顧客や社会のために自分ができることを、より貪欲に追求するようになった」と神山氏は笑う。
そして、やはりそれは専門性をリスペクトし合うDTCの企業文化がベースにあってこそ、実現できるのだ、と。
経営トップの圧倒的な信頼を得る言葉
日本でのSAM立ち上げから1年弱。新体制となってから、顧客にはどのような価値を提供できているのだろうか。
森氏は「Strategyとのコラボレーションによって、顧客のデータドリブン経営に直接携われるようになった」と話す。
StrategyやM&Aからは、経営会議でどんな話がされているか、意志決定にどんな傾向があるかなど、クライアントについてのインプットを得る。
すると、「そのままでは無機質なデータが、生きたインサイトになる。『御社の場合はこうすべきです』と、自信を持って提言できるのです」と森氏は言う。
「SAM体制のインパクトは、クライアントである経営者の反応や我々への評価に、目に見えて表れ始めています」と力強く語るのは神山氏だ。
あるとき、こんな出来事があった。クライアントの経営者との定例ミーティングでAI倫理(※)の重要性を説いたところ、トップ主導で委員会を立ち上げ、神山氏との定例会は1時間から2時間へと拡大した。
※AIが人類に悪影響を与えないようにするための規範。学習データの偏りから不当な差別につながることなどを防ぐ。
「その話は、数日前に森さんとの定例会で偶然教えてもらった内容でした」(神山氏)
森氏の話がAI倫理に及んだとき、神山氏の脳裏には、何人もの経営者たちの顔が浮かんだ。これをあの人たちに今すぐ伝えなければ。それは“シナプスがつながる”感覚だったという。
「SAMはコンサルファームのなかでも、企業のトップエグゼクティブとの対話の相手になる機会が非常に多い部門。この1年で、経営者の方々に向けて自分が語る言葉に、確実に広がりと深みが増しました。
特にテクノロジーやデータの重要性を、各社のコンテクストの中で語れるようになった。それが、経営者に寄り添う伴走者としての信頼を圧倒的に高めている実感があります」(神山氏)
確たる専門性が未知なる化学反応を起こす
SAMの醍醐味は、異能同士の想定外の化学反応が起こること。そのメンバーには優れた専門性が求められる。
3つの専門性が共存するSAMは、まずアナリストとしてさまざまな領域に関われる組織「SAMプール」に所属して基礎からスキルを学ぶ。
そしてコンサルタントに昇格すると、Strategy、AI&Data、M&Aから1つ専攻を選び、専門性の軸にしていくシステムを取っているのだ。
5年先、10年先も、化学反応が起き続ける組織でなければならない。それには、新たな人材の力が不可欠だ。
では、Strategy、AI&Data、M&Aという各領域のリーダーたちが考える「SAMで活躍できる人材」とは、どのような人物像なのだろうか?
「多様性を受け止められる素直さ、謙虚さのある人です。
未知の領域にぶつかったとき、知らないことを謙虚に受け止め、受容できるかを冷静に判断できる。そんな方には、ぜひSAMに飛び込んでみていただきたいですね」(三室氏)
森氏が挙げたのは、ズームイン・ズームアウトだ。
「確固たる専門性を持っていても、必ずしもそこにフィットする課題が来るとは限りません。
分類不能な課題に対し、ズームアウトして広く対象を捉え直し、他の専門家たちと協業できること。そして、やるべきことを見つけたとき、再びズームインして深掘りできること。
この“基本動作”を繰り返し行える方なら、DTCのどんな部門でも活躍していけるのではないでしょうか」(森氏)
こだわりを軸にして、異なる領域へと軽やかに飛び込む。そのマインドを、神山氏は「好奇心」という言葉に込める。
「社会に対しても、クライアントに対しても、そしてチームメンバーに対しても、好奇心の軸をいくつも持てるような方なら、きっとSAMという環境を楽しめるでしょう。
好奇心という原動力を受け止める土壌が、SAMにはあります。『自分はこう思うんです』という発言があれば、『どういうこと?』とみんなが食いつきますから。
自ら扉を叩いてくれる人と、一緒に化学反応を味わいたいですね」(神山氏)
いつの時代も、ブレイクスルーには偶然や予想外の出来事があった。だが、そういった“偶然”や“予想外”を生み出すのは、技術や専門性の積み重ねだ。
Strategy、AI&Data、M&Aという3つの専門性が重なり、三位一体となったSAMは、コンサルティング業界を思いもよらぬ高みへと導くのかもしれない。
執筆:井上マサキ
撮影:小島マサヒロ
デザイン:小谷玖実
取材・編集:中道薫
撮影:小島マサヒロ
デザイン:小谷玖実
取材・編集:中道薫
デロイト トーマツ グループ | NewsPicks Brand Design