[イスラマバード 13日 トムソン・ロイター財団] - パキスタンの金融中心地カラチで働くラジャ・カムランさん(50)はオートバイで通勤していたが、電動バスが導入されたのに伴い、そちらに切り替えた。出費を削減できる上、この街の汚染された空気を吸い込むのを多少なりとも避けられるようになった。

カラチでは1月、小規模ではあるが、完全電動バスの運行が始まった。自動車や工場、発電所やれんがの焼き窯、ごみ焼却によって発生する大気汚染の悪化を削減する政府の対策の一環だ。

ジャーナリストのカムランさんは電話での取材に対し「電動バスのおかげで毎週の交通費が削減できただけでなく、健康面でもプラスになっている」と語った。オートバイで通勤している間は腰痛に悩まされていたという。

とはいえ、電動バスの台数が十分ではないとカムランさんは言う。初回導入予定の50台のうち、現在走っているのは10台だけだ。乗るには45分も待たされることがあるという。

汚染防止技術を専門とするスイス企業IQAirによれば、都市部の大気汚染はパキスタン全土における長年の大問題だ。大気の質に関する2021年の世界ランキングでは、パキスタンは全118カ国・地域中で下から3番目だった。

約2億2400万人の人口を抱えるパキスタンでは、大気汚染が死因のトップになっており、「世界疾病負担(GBD)」による最新の調査では、2019年には大気汚染が原因で推定23万6000人が平均寿命以前に死亡することになったとされている。

道路を走る自動車数の増加に対する懸念も高まっている。パキスタン国内の自動車登録台数は2011年には960万台だったが、2020年には3070万台へと増加。ペシャワールやカラチといった都市は、より環境負荷の低い輸送手段を推進する計画を発表している。

カラチで50台導入される予定の電動バスは定員が少なくとも70人、1回の充電での走行可能距離は240キロメートルだ。

1500万ドル(約20億2000万円)の導入コストは官民パートナーシップ(PPP)により調達した。交通事業者がバスを購入して8年間運行し、その後、カラチが属するシンド州の州政府が所有権を引き継ぐ。

シンド州政府のアブドゥル・ハリーム・シャイフ運輸・公共交通長官によれば、州政府は現在バスを100台追加するため、購入費用約3000万ドルの融資を求めてアジア開発銀行(ADB)と交渉中だという。

「住民のため、排ガスを出さない、快適で高級なバスを、訓練を受けた職員により運行したい。そうすれば、人々は排ガスをまき散らす車やオートバイの使用を控える気になるだろう」と同長官は言う。

だが環境問題や都市問題の専門家は、少数の電動バスでは大きな効果は出ないのではないかと考えており、もっと範囲が広く有意義な交通改革を求めている。

<必要なのはシステム改革か>

ここ数年、パキスタンは猛暑から山火事まで立て続けに気象災害に襲われている。2022年の未曾有の洪水からの復興もまだ途中だ。

同国の気候変動対策省はそれでも、大気汚染は引き続き国の主要な環境問題の1つだと述べている。大気汚染物質の少なくとも40%を排出するのが自動車だという。

政府は2019年11月、電動オートバイと電動人力車(リキシャ)計50万台のほか、電気自動車、電動バス、電動トラック10万台以上を5年以内に交通システムに投入するという目標を掲げた。現時点で実際に走行している台数は分かっていない。

パキスタンは2030年までに、販売される全ての自動車とトラックの3分の1、オートバイとバスの半数を電動にするという長期目標を掲げている。総合的には、2030年までの期間に温室効果ガス削減の取り組みを強化することを公約している。

北西部の都市ペシャワールでは、州政府が新たな公共交通システムの一環として、旧式のバスを引退させ、ディーゼル・電動のハイブリッドモデルで置き換えつつある。

カラチでは電動バス50台導入とは別に、州政府が水牛のふんから生成されるバイオメタノールを燃料とする車両250台による交通網を展開中だ。

とはいえ、一部のアナリストは、カラチにおける新旧のバス改革は、汚染抑制のために十分ではないと批判している。

カラチ経営研究大学都市研究所のムハンマド・トヒード副所長は、走行する自動車やオートバイの総数を削減し、大気汚染の影響に関し市民を啓発することにもっと注力すべきだと主張する。

「職場に通うために排ガスをまき散らす車やオートバイを使っている通勤者は、自分がどれほど環境を痛めつけているか理解していない」とトヒード副所長は語る。

環境問題を専門とするコンサルタント会社ダリヤ・ラボのヤシール・フサイン氏は、カラチにおける排ガス問題の解消に向けて効果を上げるには150台どころか、少なくとも1500台の電動バスが必要だろうと語る。

啓発団体「グリーンパキスタン連盟」の創設者でもあるフサイン氏は「政府は電動オートバイと電動リキシャの利用促進に向けて、長期低金利ローンも提供すべきだ」と語る。

シンド州のシャイフ運輸・公共交通長官は、電動バス150台の新規導入だけでは大気汚染の抑制に大きな効果はないだろうと認めつつ、バイオメタノール車の導入も指摘。市内では従来のバス路線が29系統も運行されていると強調した。

シャイフ長官は、パキスタンが現在直面している経済危機や2022年の洪水による財政負担はあるものの、資金については国際的な金融機関から提供されるとして、電動バスの導入を拡大する妨げにはならないとの見通しを示した。

起業家のブヘビッシュ・クマールさん(24)は、仕事で人に会うために新しい電動バスに乗っているが、息が詰まりそうなカラチの空気を浄化する上で、いまの限られた台数で効果があるかどうかは疑問だという。

「皆がそれぞれの車で燃料を燃やさないようにするには、市の交通システムで電動バスを増やし、普及させていく必要がある」とクマールさんは話した。

(Imran Mukhtar記者 翻訳:エァクレーレン)