2023/3/11
レジ袋、食器…あらゆるところで活用、子どもが誇れる製品に
東日本大震災と福島第一原発事故による避難指示が続く福島県浪江町で、地域のなりわい再生と温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」に取り組もうとする企業が2年前に立ち上がりました。二つの課題を解決するために、この会社が製造するのが、コメとプラスチックを混ぜた素材「ライスレジン」です。
ライスレジンが浪江町でどのようにつくられるのか、そして地域とグローバルに関わる大きな課題の解決につなげるため、この企業がどのような成長戦略を描いているのか――。工場を訪ね、取材しました。(全3回の最終話)
ライスレジンが浪江町でどのようにつくられるのか、そして地域とグローバルに関わる大きな課題の解決につなげるため、この企業がどのような成長戦略を描いているのか――。工場を訪ね、取材しました。(全3回の最終話)
INDEX
- 1日1500トン。ライスレジンができるまで
- 事業拡大の鍵は“使いやすさ”の向上
- 生活に溶け込む製品をめざして
1日1500トン。ライスレジンができるまで
真新しい工場に足を踏み入れると、その場に立ち込めるこうばしい香りがマスク越しでも伝わってきました。おせんべいのような、ふっくらとした白米が炊き上がったかのような、なんとも安心するにおいです。
太平洋に面した浪江町にある「バイオマスレジン福島」の工場を2月下旬に取材しました。ここでは2022年11月からライスレジンを製造しています。その製造工程でコメを瞬間的に加熱してプラスチックと混ぜるため、こうばしいコメの香りがしていたのです。
ライスレジンはどのようにして製造されるのでしょうか。同社社長の今津健充さんに案内してもらいました。
工場でつくられたライスレジンは、最終的にごみ袋や食器、子ども用のおもちゃなどに加工され、消費者のもとへ届けられます。
事業拡大の鍵は“使いやすさ”の向上
ライスレジン福島は1日1500トンのライスレジンを生産しています。今津さんは、働く人を増やし工場を増設することで、数年後には1日2万トンにまで生産量を増やす計画です。
今津 「ライスレジンの需要は、大きく2つに分けられます。1つ目はスプーンやフォークといったカトラリーやごみ袋など、使い捨て商品です。そして2つ目は家電など、カーボンニュートラル素材を使うことで付加価値を高める商品です。これらのメーカーと連携を強めることで、需要を拡大していきたいと考えています」
生産量を増やすために欠かせないのが、商品のバリエーションを増やすことだといいます。同社の工場で今つくられているライスレジンは、コメの配合割合が50%と70%の2種類だけです。
しかし、2種類だけではさまざまなプラスチック製品の代わりの素材としては需要が少なく、今は製品ごとに最適な配合割合を研究し、その上で再度コメの割合を変える加工を施しています。より多くのライスレジン製品をつくるためには、2種類だけではなく配合割合が多種多様なライスレジンが必要です。
今津 「ごみ袋やおもちゃなど、商品によって最適なコメの配合割合が変わります。そのため10%、20%など、さまざまな配合割合のライスレジンをつくり分けることができなければ、商品をつくるメーカーにとって使いやすい素材だとはいえないのです」
どのようにすれば配合割合の異なるライスレジンをつくることができるのか、研究を進めているといいます。
生活に溶け込む製品をめざして
環境問題や地域課題の解決をめざすバイオマスレジン福島。今津さんは、事業を拡大して課題解決につなげるだけでなく、同社の取り組みをきっかけに、浪江町で育った子どもたちが地域に誇りを持つことができるよう願っています。
今津 「誰もが当たり前にライスレジンを使う世界を実現したい。ごみ袋やカトラリー、歯ブラシ、食器など、日常のあらゆるところでライスレジンが無意識に活用され、その製造地として子どもたちが誇りを持てる地域になるのが理想です。バイオマスレジン福島の事業は、事業拡大が課題解決に直結するビジネスモデルだと確信しています。理想を実現するため、今は一歩ずつ製造や研究、販路拡大に取り組んでいくことが重要だと考えています」
ライスレジンは、自治体の指定ごみ袋やファストフードチェーンのカトラリーなど、少しずつ活用の輪が広がっています。
震災と原発事故の発生から12年。社会課題の解決をめざす新しいビジネスが、福島県浪江町で少しずつ歩みを進めています。
文:高村真央
撮影:冨樫敏広
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:中村信義
タイトルバナー:AFLO(福島県相双地区で撮影)
撮影:冨樫敏広
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
編集:中村信義
タイトルバナー:AFLO(福島県相双地区で撮影)
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