(ブルームバーグ): 三井住友信託銀行は、企業の脱炭素に向けた取り組みなどを支援する「理系バンカー部隊」を増員する方針だ。脱炭素を実践する現場では、技術にまつわる専門的な知見が必要とされることが少なくない。金融のノウハウに加え、技術にも詳しい人材を活用することで、新たな収益機会の掘り起こしを狙う。

「いろいろと突っ込みどころがある経歴なんですが、直近は沖縄と石川で農家をやっていました」。同行が2021年4月に発足させた「テクノロジー・ベースド・ファイナンス(TBF)」チームに所属する後藤明生氏(42)は、自身のこれまでの歩みを振り返った。

TBFには、エネルギー会社で水素を扱ってきた人材や、自動車部品メーカーで電池の研究開発に携わってきた専門家など11人が所属する。このうち、後藤氏を含めて5人が博士号の保有者だ。

通常、銀行の営業担当者は取引先の財務部門と接点を持つことが多いが、TBFは研究開発などの事業部と対話を重ねる。技術者目線での提案を交え、取引先のプロジェクトの上流から関与しつつ、埋もれている有望な技術をビジネスにつなげる役割を果たす。

「技術を起点に産業を変えるというコンセプトや脱炭素というキーワードに共感して入社を決めた」と、後藤氏は語る。

TBF発足の背景には、気候変動対応など世界的なESG(環境・社会・企業統治)機運の高まりがある。金融機関にとって専門人材の確保は喫緊の課題で、他の大手行でも外部人材を中途採用する例が見られるが、TBFは技術者と金融の世界を結び付けるという意味で珍しい取り組みと言える。

田嶋裕一郎・TBFチーム長は「技術が分からないまま取引先と話していても、本当の意味で彼らのためにはなっていないのではないかという問題意識があった。技術的な会話ができてこそ、脱炭素へのトランジションが可能になる」と話す。今後も採用を続け、約15人の布陣を目指すという。

アフリカ赴任中に博士号

博士号まで取得した技術者がなぜ銀行員なのか。冒頭の後藤氏は一見、銀行には結び付きそうにない経歴を持つ。

佐賀大学農学部を卒業した後藤氏は、国際協力機構(JICA)の専門職としてアフリカ諸国で12年にわたって農業支援に携わった。その後は民間企業の研究職を経て、4年前に農家として独立。アフリカ赴任中に稲作の技術開発に関する論文を執筆して東京農業大学の博士号を取得した。

これまでに得た自身の多様な経験を最大限に活用できる方法は何か。「金融は物事を横串に刺せるもので、かつ俯瞰(ふかん)的な視点で取り組める」と考えたという。22年4月に入社して以降、化学メーカーへの助言を行ったり、自治体が脱炭素戦略を策定する際に農業の観点から情報提供したりする仕事をこなしてきた。

「工業分野と比べると、農業は自然を相手にしている分、良い技術があっても結果が出るまで時間がかかりやすい。リスクが取りづらくお金も付きにくいため、技術が埋もれてしまっているところがある」と話す。自身の知見を武器に、埋もれた技術を掘り起こし、脱炭素や循環型社会の実現に貢献する考えだ。

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