2023/2/24

【塾×AI】子どもの“自ら学ぶ力”を育む3つの仕掛け

NewsPicks Brand Design / Senior Editor
文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想をはじめとして、テクノロジーによる教育や学習のアップデート──Edtechに大きな期待が寄せられている。
一方で、学校でのICT活用状況には差があり、新たな教育機会の格差を不安視する声も少なくない。

そんななか、一斉指導塾や個別指導塾に次ぐ、第3の塾業態として全国に広がっているのが「自立学習RED」(以下、RED)だ。

東証プライム上場の総合教育企業スプリックスが手掛けるREDでは「独自開発のAI×正社員講師の指導」による、子どもが“自ら進んで学ぶ力“を育むアプローチにこだわり、95%以上の子どもの成績が向上(スプリックス調べ)。口コミで生徒数を着々と増やしてきたという。
この新たなモデルは、Edtechを活用した学びを実証する、経済産業省「未来の教室」に2年連続で採択。教育格差の解消や生産性向上に寄与するとして、塾業界で初めて「日本サービス大賞」経済産業大臣賞も受賞した。

いったいどのように、子どもたちの“自ら学ぶ力”を育てているのか? 事業責任者の長濱恵理子氏に聞いた。

従来型の塾とは一線を画す「AI×正社員講師」モデル

──今の学びの場には、どんな課題がありますか?
長濱 ここ10年の学習指導要領の改訂で、子どもたちが学校で学ぶ内容は、ゆとり教育と比べて幅が広がり、同時に量も増加していました。
 その影響で授業の進度は速くなり、宿題の量が増えたりテストが難しくなったりと、子どもたちの負担が増しているのを感じます。
 一方で、子どもや保護者の方の主な悩みは、いつの時代も変わらず「学校の授業が難しい」「定期テストの点数が上がらない」ということ。
 今後どれだけ公教育の形が転じても変わらないお悩みかもしれません。
 だからこそ私たちREDは、こうした学校の勉強に悩む子どもたちに、定期テストの点数を上げることを約束している自立学習塾です。
「自立学習」とは、子どもたち自身が自分の頭で考え、問題を解けるようになること
(画像提供:スプリックス)
 一般的な学習塾は、集団授業を行う一斉指導塾や、1~3人の生徒に講師1人を配置する個別指導塾。どちらも教えることがメインで、子どもは受け身になってしまいます。
 一方REDでは、教える行為は最小限に抑え、子どもたちが繰り返し問題を解く演習に重きを置いています。
 REDでは、自立学習塾を一斉指導塾と個別指導塾とは異なる“第3の業態”と定義しています。
──従来の学習塾とは、どのような違いがあるのでしょうか?
 まず、プロの講師が教える一斉指導塾は、指導レベルが高いのが特徴です。反面、授業についていけない子どもをフォローしきれないのが弱点と言えます。
 個別指導塾は、個々の学力や学習状況に合わせた指導を受けられるのがメリットです。ただ、講師の指導レベルにばらつきが出たり、そもそも講師不足で授業を提供できなかったりするケースも。
 そういった従来の塾が抱えていた弱点を補う業態が、自立学習塾です。
 1クラス20人程度の授業でも、集団指導塾のように質の高い指導を、なおかつ個別指導塾のように個々に最適な形で、しかもできるだけリーズナブルに提供することを実現しています。
──従来の学習塾のデメリットを補い、子どもたちが自ら学習できるようになっていく、と。保護者からすれば夢のようです。
 そのためのREDならではの仕組みが、「AIタブレット教材×正社員講師」というパッケージです。
 スプリックスは、1997年の創業以来、全国の定期テストのデータを集め、テスト範囲や出題の傾向を分析するなど、ITを掛け合わせた教育を模索してきました。
 その知見が詰まっているのが、独自教材「フォレスタ」です。
 REDで使う「eフォレスタ」は、そのフォレスタをベースに開発したICT教材。
 生徒一人ひとりの学力や学習状況、正誤の傾向、定期テストの範囲などをAIが分析し、演習問題や宿題の難易度と量を最適化します。
 授業中に、子どもたちは繰り返し問題を解き、間違えれば解説動画を自分で確認し、また自分自身の力で解く。それでもわからない場合は、正社員講師がフォローに入ります。
eフォレスタの画面(画像提供:スプリックス)
──画面はかなりシンプルなんですね。
 実は、あえて文字と音声だけのとても簡素な要素に抑えてあるんです。
 開発段階では、アニメーション機能やキャラクターの導入も検討しましたが、関係のない要素を盛り込むと、子どもは目線がブレて集中できないとわかりました。
 開発検証の結果、パッと見は簡素ですが、80分の授業で無駄なく学べるシステムができあがりました。
 REDに来るのは、定期テストの点数が40〜80点くらいの子どもたちで、平均点前後がボリュームゾーンです。
 直営校での調査では、入塾前後の定期テストを比較して、95%の生徒の点数が上がったという結果が出ました。

子どもが「勉強は嫌いでもREDに行く」理由

──なぜREDでは、子どもが自ら進んで勉強するようになるのでしょうか?
 モチベーションを考える上で、わかりやすい「ダイエット」を例にご説明しましょう。
 ジムに通い続けて成果を出すには、3つの力が重要です。
 以上のような要素の影響によって、モチベーションを維持できる。
 その結果として、筋肉がついたり痩せたりという成功体験を積んでいくことで、雪だるま式にモチベーションが上がっていくのです。
 そこでREDでは、子どもたちが自立的、自発的に取り組めるような3つの工夫をしています。
 1点目は、集中しやすい学習環境を整えること
 REDでは、子どもたちは学校と同様、複数人の全員が同じ方向を向いて学習に取り組みます。
 すると、「隣の子が真剣に勉強しているから自分も頑張ろう」といった集団心理が働き、集中力を維持できるのです。
 ほかにも、授業の受け方、テキストやノートの整理整頓の方法、勉強中の正しい姿勢など、必要に応じて勉強にまつわる指導を行っています。
保護者からは「REDに通い始めてから、ぐちゃぐちゃだった勉強机を整理整頓して、家でも勉強するようになった」との声が多く寄せられるとのこと。
 2点目は、生徒それぞれに専用のコンテンツを提供すること
 全国数万枚のテストを分析し、AIタブレットによって、一人ひとりに合わせた問題を出題するので、「わからない」「解けない」といったつまずきが少なく、集中力が削がれにくくなります。
 また、過去に間違えた問題をAIが選別し、効果的な反復演習によって、苦手の克服とや着実な定着につなげています。
 3点目は、正社員講師の存在です。
 80分にわたる授業を、タブレットだけで黙々と学習するのは、子どもにとってたやすいことではありません。
 REDでは、1回の授業で、声をかけるタイミングや頻度など、子どもたちのモチベーションを維持するための行動が細かく規定されています。
 信頼している先生から「よく頑張っているね」「この調子だよ」といった言葉をかけられることで、下がりかけた子どものモチベーションが持ち直すのです。
──AIタブレットさえあれば、塾に通わずオンラインでも勉強できるのではと考えがちですが、人や場の力も重要なのですね。
 ITツールを使って、たった1人で効率的に勉強できる子どもは一握りだと思いますよ。
 REDの指導システムは、IT×人×場の力をシームレスに融合させて、それぞれの強みが活きるように設計しています。
 実はeフォレスタは、教材でありながら、講師が困っている子どもを見つけられるサポートシステムでもあるんです
 一つ例をお見せしましょう。たとえば、子どもたちが演習で誤答したら、まずは解説動画を確認してもらいます。
 理解できれば次の問題に進みますが、もし解説を見ても理解できなければ「わからない」ボタンを押します。
 すると、タブレットの画面に赤い枠が現れ、これが講師へのサインとなるのです。
画面下の「先生に質問しよう!」と書かれた赤枠が表示された子に、講師が個別にフォローを行う。
──講師も効率的に動けるようにオペレーションが整っているというわけですね。
 集団指導で、講師がそれぞれの子に最適な指示を出すのは、プロでも難しいもの。私も過去にRED浦和校の校長を2年半務めるなかで、最も苦労した部分です。
 それが、eフォレスタに切り替わったとき、ITの力で生徒一人ひとりの困りごとに即座に対応できるようになって「今までの苦労は何だったのだろう」と驚きました。
 現在のREDは、最大60名ぐらいまでの子どもたちを相手に、ワンオペレーションで運営できるモデルです。
 指導の質を担保しつつ、講師の数、ひいては人件費を抑えられるので、リーズナブルな授業料を設定できています。
──AIタブレットによる演習が中心のREDで、正社員講師の方々はどのような役割を担っているのでしょうか?
 子どもたちのモチベーションを高めること。指導力以上に、信頼関係を築く力が求められます。
 今の子どもたちはものすごく忙しい。学校の勉強量が増えただけでなく、習い事に行って、中高生なら部活もやって、ヘトヘトの状態で学習塾にやってきます。
 そんな子どもたちにとって、私たちは学校や家庭とは異なる、心を許せる“第3の居場所”にならなければいけないのです。「勉強は嫌いでも、REDには行きたい」と子どもが思うかどうかは、講師次第なんですよ。
 講師を正社員に限定しているのも、一定期間で辞めてしまうアルバイトでは、生徒や保護者の方に向き合い、徹底的に寄り添うことが難しいためです。
 講師間でコミュニケーションに差が出ないように、基本的なオペレーションはマニュアル化していますが、子どもたちの様子を見ながら、個別面談でのケアも行っています。

子どもたちの人生に貢献する学習塾へ

──現在、自立学習塾REDはフランチャイズ展開し、全国に202教室を開校しています(2023年2月現在)。
 開校ニーズが強いのは、大学のない地域。一般的に、塾講師は学生アルバイトが多く、大学のないエリアは人材不足に陥っているためです。
 均一な教育の質を担保できる学習塾が全国にできれば、地方と都市部の教育格差を埋めることにもつながるでしょう。
 REDは2020年に、教育格差の解消や教育産業の生産性向上につながり得る新しいサービスモデルとの評価を受け、塾業界で初めて「日本サービス大賞」経済産業大臣賞を受賞しました。
 こうした社会課題を解消していくためにも、さらにフランチャイズ展開を推し進めています。
 2019年からは、明光義塾を運営する明光ネットワークジャパンと業務提携も始めました。
 競合する領域があるにもかかわらず、全国にREDを広げるべく協力し合えているのは、「自立学習というモデルで、日本の教育をもっと良くしたい」というビジョンを共有できているからです。
──自立学習で目指すビジョンとは?
 成績を上げることで、子どもたちの人生に貢献する。これがREDの目指す教育です。
 成績や学力の向上によって、子どもの自信を育み、ゆくゆくは将来の夢を叶える手助けができればと思っています。
 以前に私が担当したなかに、中学3年生に上がる直前にREDに入塾した、こんな子がいました。
 通知表の評定が悪く、学校からは行ける高校がないと言われていた子です。この子は、大学に入って実現したい夢を持っていました。
 目標は、入試で内申点となる3年生の2学期の成績を上げること。
 REDでは、授業内容の予習で学校の授業の理解度を上げ、成績アップにつなげます。
 ただ、その子の場合は「授業では先生を見る」「提出物は必ず出す」といった基本中の基本から指導していきました。
生徒と講師でやりとりする「学習管理シート」。授業の中心がAIの演習で構成される分、授業中の個別のフォローや面談など、子どもたちのためのケアを丁寧に行えるという。
 約8カ月後の2学期末。通知表ですべての教科の評定が上がり、無事に高校進学を果たしました。
 3年後に、その子がやってきて「あのときREDに来なかったら、いま自分は大学生になっていません」と大学進学を報告してくれたのは、本当に嬉しかったですね。
──REDに通ったから、夢を諦めずに済んだのですね。
 そう感じてもらえていたらいいですね。
 実際に塾を選ぶ際は、生活圏にあり、子どもが安全に通える場所かが第一でしょう。
 そこにREDがあったとき、「この先生だから、安心して子どもを預けられる」と選んでもらえる。そんな“究極の個人塾”が私の理想像です。
 点数アップだけでなく子どもにとっても保護者にとっても心の置き場となるブランドへと、REDを育てていきたいですね。