「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションを掲げ、さまざまな取り組みを行っている、青山商事と「NewsPicks Creations」の共創コミュニティ「シン・シゴト服ラボ」。1月13日には「シゴラボ企画会議スペシャル Vol.1」と題してスマイルズ取締役社長 兼 CCO・野崎亙氏と「働くときの服とは? 服装の在り方は?」といったテーマについてディスカッションを行いました。

かつてビジネスウェアに強い抵抗があったという野崎氏。コミュニティメンバーたちとのディスカッションで、これからのビジネスウェアに求められるものをどのように捉え、新たなアイデアの創造へと結びつけたのでしょうか。
この記事は青山商事のメンバーを中心とした「シン・シゴト服ラボ」編集部が制作しています。「シン・シゴト服ラボ」は、洋服の青山と、法人向けマーケティング支援事業 NewsPicks Creations が運営し、『ビジネスウェア 3.0 を定義する』をミッションに掲げる共創コミュニティです。新しい商品やサービスの開発など、ビジネスパーソンと共に新しい価値を創造することを目的としています。
【登場人物紹介】
●青山商事メンバー
平松葉月:執行役員 リブランディング推進室長
岡本政和:リブランディング推進室 室長補佐
宇塚雄祐:リブランディング推進室 室長補佐

シン・シゴト服ラボについて

シン・シゴト服ラボのミッション
「シン・シゴト服ラボ」とは、洋服の青山などビジネスウェア専門店を運営する青山商事と「NewsPicks Creations」の共創コミュニティです。「ビジネスウェア3.0を定義する」というミッションを掲げ、NewsPicksユーザーの中から活動内容への関心が高いメンバーが集まって誕生しました。
コミュニティメンバーは働き方が激変する時代の中での新しいビジネスウェアのあり方について議論を交わし、商品やサービスを一緒に開発(共創)することを目指しています。
誰もがスーツを着るような画一性が求められる時代=ビジネスウェア1.0。ビジネスカジュアルが一般化してきて個性が求められる時代=ビジネスウェア2.0。そしてその次の世の中に今求められているもの=ビジネスウェア3.0と定義して議論を重ねてきました。

ユニフォームから個性を強調する「ユニークフォーム」へ

ディスカッションの告知(肩書きは当時のものです)
1月13日のディスカッションのテーマは「ちょっと先の未来のビジネスウェアのあり方。」スマイルズ取締役社長兼CCOの野崎亙氏を迎え、オープンな雰囲気の中で議論が行われました。
宇塚:今回は「ちょっと先の未来のビジネスウェアって?」というテーマで、スマイルズの野崎さんにお話を伺いたいと思います。そもそもビジネスウェアの役割って何なのかというところですが……。
野崎:僕自身、ビジネスウェアという概念を少し違った形で捉えていたんです。コンサルティングの仕事でも、堅いプレゼンテーションをする場にジャージで行くようなことをしてアイデンティティを表現していました。それは僕の中ではビジネスウェアでありある種の戦闘服で、何かを表現する意図的なビジュアルプレゼンテーションでした。
平松:一般的な周囲に合わせるようなビジネスウェアの概念とは違って、むしろ個を表現するためのツールという捉え方ですね。
野崎:そうですね。今、リモートワークへの切り替えなど働き方が変わってきていて、仕事の仕方がプロジェクト型になってきています。プロジェクトって何人かのチームで動くことが多いと思いますが、その時に僕たちはユニフォームを作るんです。社内だろうが社外だろうが関係なく、例えばお揃いのキャップを作るといったことを意図的にやっています。一つの意思の塊みたいなことを表現することでテンションを上げていくんです。
平松:スタートアップなどでも、自分たちの会社名をプリントしたTシャツを着ていることがありますよね。同じ意思の塊として彼らはそれを着ている。制服として着ているというよりは、自分がここの会社のプロジェクトをやっているという意思表示ですね。
野崎:「ユニフォーム」というよりはより個性を強調するような「ユニークフォーム」というような立ち位置です。プロジェクトにとっての、意思としてのウェアという概念もあると最近は感じています。プロジェクトメンバーの横の繋がり、結束力をより強くするみたいな側面もあるから、狙って意味を持たせるようなことはあると思います。
ディスカッションの様子(zoom)スマイルズ取締役社長兼CCO・野崎亙氏(上段中央)、青山商事執行役員 リブランディング推進室長・平松葉月(下段左)、青山商事リブランディング推進室 室長補佐 岡本政和(下段右)、青山商事リブランディング推進室 室長補佐 宇塚雄祐(上段一番右)、NewsPicks Creations 中山健志(上段一番左)
平松:zoomの壁紙の役割にも似ていますよね。今、私たちはシン・シゴト服ラボの壁紙にしているけど、別のプロジェクトの時は違います。プロジェクト毎に壁紙を着替えているんです。
野崎:5人組で全員同じ白を使っているけど、それぞれデザインが違ったりする。極論ロゴさえつけてしまえば同じ団体だとわかるけど、一人ひとり違うみたいな感じです。今までのユニフォームって基本的に揃っていることが前提でしたが、そこにそれぞれの個性を足していったり、選び方によって全く違う見え方にしたりといったことが最近増えてきた気がします。良い意味で意思表示がしやすくなってきた
平松:イベントなどで何でもいいから赤いものを身に着けてみんなの意思を統一するという感じですね。
野崎:一見バラバラだけど実は共通のサインを身に纏っている。自由だけど繋がっている部分もあるという表現。昔は会社、仕事、個人の人生ってすごく近い距離にありました。でも今、リモートなどで仕事をする場所も時間も自由で、副業もOKとなり、帰属意識が希薄になってきています。そこでもう一度、何か一点物理的ないしはデジタルでも「繋がるもの」と考えたときに、企業側としてこのビジネスウェアって重要な手段になってくると感じます
平松:今までのシン・シゴト服ラボではスーツやユニフォームって周りに合わせなければならないものというイメージがあって、そこから自由化していくことで個性を発揮しましょうという議論をしていました。だけど野崎さんの視点を受けて「自由になってきたからこそビジネスウェアの役割が出てきた」というところに繋がりますね。
ディスカッションのテーマ
宇塚:お店で接客しているとスーツの需要はもちろんありますが、ビジネスウェアを探しに来ているという前提がありつつも「スーツほど固くなくていいんだよね」という声がすごく増えてきたと感じています。スーツほど固くなくていいけど私服ではいけないという、その境界線が難しくて皆さん迷っているという印象があります。
岡本迷いがある方が増えていますね。「ネクタイをしなくていい」と言われたけれど、じゃあ何を着たらいいのかと。そういう相談を受けたときに、ご案内する選択肢が以前は少なかったですが最近増えてきました。
野崎:僕は年に何度かの勝負だっていう日にしかネクタイを締めません。ネクタイってビジネスウェアの中でも一番不要なものですよね。だからこそ逆につけることに意味を与えられると思っています。つけなくていいってことは、つけたくなるものを作ろうよと。「何着たらいいんだろう?」という消極的な選択もあるけれど、むしろ「これを着て俺は丸の内に行きたいんだ」といったもう一歩踏み込んだものが出てくるといいなと思います。
宇塚不要だからこそ意味を与えられるというのが響きますね。意味を与えて商品を作ることで求められるものになっていくんですね。
野崎:ジャケットを着るという行為だけでもスイッチというか気合いが入ります。それも含めて身につけるものってモチベーションをコントロールする役割があるんですよね。好きでやっている仕事ですけど、やらないといけないからやっているという部分もやっぱりあって、その背中を押してくれている存在としてビジネスウェアが見直されてきている。自由度が上がった今だからこそ価値が出てくるような気がしています。
平松:シン・シゴト服ラボの議論の中でもスイッチという話は度々出てきています。

ビジネスウェアの役割としての「アイコン化」

ディスカッションのテーマ
宇塚:スーツやビジネスウェアの役割について色々な意見が出てきましたが「これからの時代において働く人のための服に求められること」についてはどう思われますか?
野崎:人それぞれあると思います。僕はビジュアルプレゼンテーションとしての役割を重視していますが、スイッチングハブとして捉えている方もいらっしゃるだろうし、ケースバイケースですよね。一意的ではなくてその人それぞれのモチベーションに合わせていかないといけないから、「これ着といたらいいですよ」というものがもはやなくなるのではないかと思います。
宇塚:これまでスーツを着ておけばOKだった人たちにとっては難しい問題ですよね。
野崎:例えばネクタイの結び方によって見せ方が変わるとか、一つの服だけどカッチリもいけるし緩くもいけるとか。どうしていいかわからない人には選択できる状況を服自体が実装しているという風になるのもアリですよね。答えを見つけていくためのサポートを服側がしてあげるような。服に求める定義が変わってくるから、それを意図したサジェストができてくると良いなと思います
平松:出で立ちは個人情報のすごい部分を占めていますよね。自分がどういう人かを表現するということが、これからのビジネスウェアに課せられる役目なのかなと感じました。
野崎:リモートで仕事をすることが当たり前になってきている中で、たまにリアルで会ったときに服装の重要度に気が付きます。情報量っていう意味だと今までの次元じゃないくらい重要になってきていることにみんな少しずつ気づき始めているんじゃないかと思います。
岡本:確かにそれまでリモートでやり取りしていて初めてリアルで会います、となった時に服装を今まで以上に考えるようになりました。その人の第一印象によってその後の会話にも影響がありますし、以前の考え方と大きく変わってきたなという実感があります。
野崎:僕たちもこれからは社会の中にいながら一人ひとりがある種のパフォーマーになっていくと考えると、服の存在がとても重要になっていくということですよね。
平松アイコン化するっていうのがビジネスウェアの役割なのかもしれないです。
野崎:先程お話したユニフォームもそうですが個が結合しながらも、個の意思が、そしてチームの意思が見える形。その掛け算みたいなことが起きてくると思います。

「自己表現ツール」としてのビジネスウェア

ディスカッションの内容まとめ
宇塚:ビジネスウェアのそもそもの役割もそうですが、表現できるものをアイコン化することが求められている。必要なくなった今だからこそあえて求められているということですね。それを踏まえた上で「どんな装いがあると良いのか」というところをより具体的にしていきたいですね。
野崎:アイコン化するためには何であっても毎日身に着けないといけないですよね。だから全身である必要性はないと思っています。それがジャケットでもネクタイでも、キャップとかメガネでも、その部分が象徴的であればいいと思うんです。
宇塚:毎日同じ服を着るというのもなかなか難しいですよね。
野崎:ビジネスウェアって基本的にジャケット上下というのがベースにありますが、より象徴的なモノの部分が大切になってきたりする。例えば、僕が実際に持っているジャケットで、表は黒い生地だけど裏は派手な黄色というものがあります。普段は全く見えないけど、ふとした瞬間にチラリと見えてそこからコミュニケーションが広がっていく。そういう細かいところに個性を宿らせる、見えないところにこだわって自分の意思を内包させるんです。
平松:なるほど。服ってノンバーバルコミュニケーションの一種かなと思うんですけど、そこからバーバルコミュニケーションに繋げるツールなんですね
野崎:今ってかつてに比べると肩書ってあまり意味をなしていない気がしていて、だからこそある種の自己表現が重要になってきています。その一つがビジネスウェアなのではないでしょうか。
平松個の表現という、積極的選択としてのビジネスウェアのあり方っていうのをもう一度定義していきたいです。
岡本選択したい人、したくない人が存在していて、その中で私たちが何を提案できるのかという部分でたくさんヒントを頂きました。
宇塚:例えばユニフォームとしてベースがあって、その会社の中で着る人がそれぞれオリジナルのカスタマイズをして自己表現できるような商品も面白いかなと思いました。
野崎:これまでビジネスウェアにとことんこだわってきた青山商事さんですから、あえてさらにビジネスウェアというところに徹底的にこだわってみて、これまでにないウェアの概念を作っていただけるといいなと思いました。
宇塚:新しい世の中に本当に合ったビジネスウェアを提案できるようこれからも考えていけたらと思います。本日はありがとうございました。
編集:山尾 真実子(シン・シゴト服ラボ編集長・青山商事)
共同編集:西村昌樹(NewsPicks Creations)
執筆:齋藤倫子
デザイン:椵山大樹