(ブルームバーグ): 岸田文雄首相は日本銀行の黒田東彦総裁の後任に、元審議委員で経済学者の植田和男氏を指名した。副総裁には内田真一理事と氷見野良三前金融庁長官(ニッセイ基礎研究所エグゼクティブ・フェロー)を起用する。比較的慎重に正常化を進めるとの安心感が出ている。13日の日本株と債券相場は下落して取引を開始した。為替市場においても日銀人事に絡んだ円買いは出づらく、円は対ドルでやや弱含んでいる。

チーム植田はバランス重視の手堅い布陣、日銀緩和修正は漸進的か

株式

東海東京調査センターの平川昇二チーフグローバルストラテジスト

  • 日銀総裁として植田和男元審議委員の名前が報道されたサプライズから為替相場は一時円高に振れたが、基本的にはハト派
  • すぐに金融緩和の修正はないとの安心感もあり、株を大きく売り込む材料にはならないだろう。14日の国会提示後の発言に注目だ

JPモルガン証券の西原里江チーフ株式ストラテジスト(10日付のリポート)

  • 植田氏はハト派・タカ派のいずれかに寄っているということはなく、ニュートラルな立場から、米連邦準備制度理事会(FRB)のようにデータ・ディペンデントで、強固な経済理論に基づき政策運営をしていくと考えられる
  • 植田氏の直近(2022年7月6日)の日本経済新聞への寄稿文における考え方はハト派的、雨宮氏のスタンスと大きな違いはないとみられる可能性
  • 植田氏、内田氏、氷見野氏の正副総裁就任報道に、市場は安心感を持つとみられる

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘チーフ投資ストラテジスト

  • 植田氏の政策運営に対する先行きに極めて不透明感がある。投資家は時間をかけて政策スタンスを見極めていくため、様子見姿勢が広がりやすく株式市場にはややネガティブとなるだろう
  • 過去の言動などからハト派だとの観測が浮上しているが時期尚早だろう。黒田総裁体制の総括や検証を行った上でどうするのかがこれから分かる。緩慢な改革しかしないというのは先走りすぎだ
  • 雨宮氏が次期総裁と織り込んでいた反動が出るだろう。雨宮氏が次期総裁に起用されれば1番緩慢で時間軸の長い改革がされるとみて市場は株高・円安で反応していた

日本株は反落へ、日銀新体制を警戒-金利上昇し電機など成長銘柄売り

債券

野村証券の中島武信チーフ金利ストラテジスト(13日付のリポート)

  • タカ派でないことはアベノミクス継続を望む自民党安倍派にとり受け入れやすい一方、リフレ派とは異なりハト派一辺倒でもない-植田氏について
  • ラガルドECB総裁は就任後初の会見で「私はハトでもタカでもない。私の夢は知恵の象徴であるフクロウになることだ」と述べたが、植田氏もフクロウ派と言えよう
  • 緩和政策を変更したほうが得策と判断すれば政策修正を検討しようが、経済、金融への悪影響も吟味し慎重に事を進めよう
  • サプライズ的な政策修正は想定しにくく、政策変更する際は事前に市場とのコミュニケーションを行う可能性が高い

大和証券の谷栄一郎チーフストラテジスト(13日付のリポート)

  • 新体制の下での緩和撤収は必ずしも性急ではなく、副作用がより限定的なゼロ金利解除には相当高いハードルを設定する可能性がありそうだ
  • 植田氏は2000年8月にゼロ金利解除へ反対票を投じたことで有名。少なくとも需給ギャップが浅いプラスになった程度ですぐに利上げするイメージではなさそう
  • デフレ状態を前提に採用された、比較的副作用の大きいYCCとマイナス金利などが慎重な検証の後に撤廃される可能性は高いが、それもコストと便益を比較した冷静な分析から導かれる決定に

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介債券ストラテジスト

  • 日本銀行の正副総裁人事の報道後も、政策修正観測はくすぶり続け、相場のトレンドが大きく変わることはない
  • 各報道では新体制がその通りに決まれば、金融緩和を継続しつつ経済情勢をにらみながら正常化の道を探るとの論調が多く、市場でもこうした見方が多いのだろう
  • 24日に予定される国会での所信聴取で各候補者のスタンスを見極めることになりそうだ

長期金利は上限0.5%付近か、日銀総裁人事や米金利上昇が重し

為替

りそなホールディングス市場企画部の梶田伸介チーフストラテジスト

  • 過度にタカ派な次期日銀総裁にはならなさそうということや米消費者物価指数(CPI)の上振れ警戒で、きょうは131円台で値固めの展開になりそう
  • 植田氏の過去の言動は割とハト派的。国会での発言などを踏まえてまた反応していくことになるが、今週は日銀に絡んだ思惑や円買いはなかなか出にくい
  • むしろ雨宮氏ではないということで先週末に一時円買いが進んだ反動や、どちらかというと発言がハト派的というところでドル・円は底堅さが出てくるのではないか

みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト

  • 植田新日銀総裁の下での金融政策は未知数だが、「拙速な引き締め避けよ」との過去の発言は割り引いて考えるべきだ
  • 2022年7月の日経新聞経済教室への寄稿時より足元のコアCPIはほぼ倍の伸び。日銀の予測もインフレ目標にかなり近くなっており、植田氏の認識も変化した可能性は十分ある
  • 今後もインフレ見通しの上方修正の可能性が高いこと、昨年12月以降の債券市場のさらなる機能悪化など踏まえれば、市場でYCC政策撤廃期待はくすぶり続け、円高圧力となろう

円は131円前半、日銀総裁人事受けた円高一服-米インフレ動向に注目

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--取材協力:小宮弘子、日高正裕、延広絵美、船曳三郎、田村康剛.

(株式などに市場参加者の見方を追加して更新します)

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