2023/2/15
若者の「挑戦の場」として、福島が選ばれる理由
ふくしま12市町村移住支援センター | NewsPicks Brand Design
ゼロから挑戦できるまち──。
そんなキーワードとともに、福島県が今、若い世代から移住先として注目されている。
東日本大震災から12年が経過し、復興の歩みを進める福島では、もともと住んでいた住民の帰還に加え、他県からの移住者も増加。
背景にあるのは、移住サポートをはじめとした暮らし面に加え、起業や転職などで「他の地域ではできない挑戦ができる」というビジネス面でのメリットだ。
事実、起業意向がある全国の20~30代の男女500名を対象に行った調査では、約半数が福島での起業について「チャレンジできそうだ」と回答したという。
では、具体的に福島ではどんな「挑戦」ができるのか?
ふくしま12市町村移住支援センター長の藤沢烈氏に、福島移住のリアルを聞いた。
INDEX
- 1年で、移住者が「倍」に
- アントレプレナーが「福島」を選ぶ理由
- 「よそもの」でもOK。福島ならではの特徴
- ようこそ、ゼロから挑戦できる街へ
1年で、移住者が「倍」に
──「ふくしま12市町村移住支援センター」の設立から1年半ほどが経ちました。直近の福島の状況はいかがですか。
藤沢烈(以下、藤沢) 最も大きな変化は、去年の8月に双葉町の避難指示が解除されたことです。
緩やかなスピードではあるものの、かつて双葉町に暮らしていた方々が、少しずつ町に戻ってきていて、新たに移住される方もいます。
双葉町の指示解除により、一部エリアを除き、避難指示を受けていた12市町村すべての地域で居住ができるようになりました。
実際、2021年のセンターの立ち上げから、12市町村への移住者も増えています。
2020年度は200人ほどでしたが、2021年度はその倍、400人を超える方々がこの地域に移住してくださいました。
──移住者が倍になった、最も大きな理由は何ですか。
いろいろ理由はありますが、1つ大きいのは「足を運んでいただく」機会を増やしたことです。
「移住」という言葉だけを聞くと、いわゆる“スローライフ”を想像される方が多いと思うのですが、12市町村での暮らしはいい意味で“ベンチャーマインド”が求められる。
どの地域も復興過程にあり、「ゆったり余生を過ごす」という雰囲気とはまた違います。
だから、まずはご自身の目で、地域を見てほしい。地域の魅力だけでなく、課題も知っていただいたうえで、移住を検討していただきたいと思ったのです。
地域事情を詳しく知っていただく取り組みは、結果的にいい方向へと進んでいます。
たとえば、12市町村を巡る1泊2日のツアーを開催しているのですが、今年度の申し込み者は約800人になりました。
他にも、オンラインでの移住イベントなど、主に都市圏の方々に、この地域について知っていただく機会も増やしています。
12市町村すべてで居住ができるようになった今が、本当の意味でのスタートラインだと思っています。
アントレプレナーが「福島」を選ぶ理由
──福島への移住者は、どのような方が多いのでしょうか。
直接的に復興に関わるかどうかに限らず、暮らしを通じて福島を盛り上げたい、という気持ちを持った方々が多くいらっしゃいますね。
それから、自ら事業を起こす、アントレプレナーシップを持った方の移住も増えています。
具体的には、自身で飲食店や小売店を起業されたり、リモートワークの環境を生かしてWebやIT関係の事業を立ち上げられたり、といった具合です。
12市町村としても、こうした方々をサポートしようと起業支援金を最大400万円まで支給したり、市町村ごとに空き店舗の改修に対する補助金を出したりしています。
ちなみに、移住センターでも昨年、起業意向がある全国の20~30代の男女500名を対象に「起業に関する実態調査」を実施しました。
すると、実に半数の方が地方での起業を検討されていたほか、同じく約半数の方が福島での起業について「チャレンジできそうだ」と答えてくださったんです。
中でも、「『復興支援』『地域活性化』に取り組みたい」との回答を多くいただき、とても嬉しかったですね。
──貢献意識と地方での起業という2つのモチベーションを持つ方が多い、と。
そうですね。ただ、先ほどお伝えした通り、12市町村は何もかもがそろっている地域ではありません。
だからこそ、移住者の方を積極的に受け入れ、支援を強化していこうと模索しています。
「何もかもがそろっている地域ではない」と言うと、事業を興す環境として不十分に感じられてしまうかもしれませんが、実はマーケットとしての魅力が多いことは強調したいです。
まず、12市町村は人口が増え続けています。
需要と供給でいえば、需要過多になっていて、特にサービス業に関しては人手が足りていません。お昼時は飲食店がほとんど満席ですし、これから夜間人口が増えることを考慮すれば、居酒屋なども足りない。
ローカルな地域で、こうしたケースは極めて稀です。個人的な見立てですが、10年ほどは需要が供給を上回るのではないかと思っています。ビジネスチャンスの豊富さは言わずもがな、です。
また、福島は先端産業の街としても注目されています。
たとえば、産業基盤や雇用が失われた福島県浜通り地域等を中心に、地域再生を目指す国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」がスタート。
ここでは、ロボットやエネルギー関連産業や、先端技術等を導入した農林水産業など、震災以前の福島を超える盛り上がりを目指した事業も、次々生まれています。
新たなイノベーションを生む地域へと変化していくことを考えれば、挑戦の幅も広く、キャリアアップとしての魅力も大いにあると言えるでしょう。
「よそもの」でもOK。福島ならではの特徴
──多拠点生活を営む人も増えていますが、そうした方たちへの支援もあるのでしょうか。
住民票が東京で、週末だけ12市町村で過ごすという方への支援は難しいのですが、住民票を12市町村で取得し、各地で働くという方は、移住者同様の支援が受けられます。
たとえば、福島12市町村に拠点を置いて週2〜3は東京の会社と仕事をする、といった働き方も十分考えられるでしょう。
その意味では、ITやコンサルなど場所に縛られずに働ける会社員の方、フリーランスの方にとっても生活しやすいと思います。
──暮らしの面ではどんな魅力を感じている方が多いのでしょうか?
まずは、移住サポートの手厚さを挙げる方が多いですね。
全国の方を対象に、移住支援金として1世帯あたり最大200万円、単身の場合は最大120万円を支給するなどの支援をしています。
ほかにも、18歳までの医療費が全額控除など、家庭を持っている世帯へのサポートも用意があり、手前味噌ながら全国でもトップクラスの支援制度だと思います。
それから、アウトドア派の方には、たまらない魅力がある地域です。
海あり、山ありで、週末にはサーフィンやキャンプを楽しんでいらっしゃる方がたくさんいます。
また、実は都市へのアクセスもいいんです。仙台市といわき市の中間に位置しているので、車があれば、買い物やエンターテイメントにも困りません。
一方で、非常に自然が豊かな地域もあります。
私としては、12市町村それぞれの魅力を知っていただき、ご自身のスタイルに沿った地域で暮らしを営んでいただければと思っています。
住む拠点は1カ所ですが、生活する拠点は広範囲だと捉えれば、アウトドアから都市での暮らしまでを満喫できる、魅力たっぷりな地域です。
──移住の魅力は感じる一方で、 「よそもの」として扱われてしまうことへの不安がある方もいそうです。
そこについては、あまりご心配いただかなくて大丈夫かなと思います。
というのも、12市町村で暮らす人の多くは一度、避難等により「他地域での暮らしを経験している」からです。
震災がきっかけで地元を離れなければならず、生まれ育った地域以外で暮らすことの苦労を知っている。これは、他の地域にはない特徴だと思います。
もちろん「私たちの地域について知ってほしい」という気持ちはあるでしょうが、だからといって「これがルールです」というしきたりは少ない。
むしろ移住者は歓迎され、これから新しい福島を一緒につくっていこう、という気持ちで暮らしている方々がほとんどです。
ちなみに、事業を起こす時もご安心ください。
というのも、12市町村で起業をしている人たちの間で、コミュニティができあがっており、そこでは日々情報のやり取りがされていますから、わからないことはいつでも聞ける雰囲気になっています。
「12市町村で暮らす」という共通項でつながったメンバーの結束は強く、この環境も挑戦を後押ししてくれるはずです。
ようこそ、ゼロから挑戦できる街へ
──放射線量など安全状況について気になる方もいると思います。この点についてはいかがでしょうか。
事実ベースでお伝えすると、居住可能地域の空間線量は、東京都とほぼ同じレベルです。
東京の線量が0.04マイクロシーベルトほど、12市町村の1つである南相馬市も、先ほど紹介したいわき市も0.06マイクロシーベルトと、暮らしを営むうえでの危険性はありません。
居住地域ではなく、道路が通っている場所で、空間線量が高いエリアはまだ一部存在します。
そうした点が気になる方も少なからずいるかと思いますが、生活が脅かされることはまずないと言えます。
不安が解消されない場合は、ふくしま12市町村移住支援センターにお問い合わせいただければと思いますし、ツアーに参加して、地元の方や移住者の方にご相談いただくかたちでも大丈夫です。
ここまで福島についてお話ししてきましたが、原発事故からの復興は、簡単なことではありません。
事故から12年が経ち、町の様子は変化してきましたが、「復興した」と言えるまでにはなっていない。もう30年、長ければ50年と、とにかく長い時間がかかると思います。
課題を抱えた町で暮らすことには、それ相応の苦労があるでしょう。でも、そこで暮らすということが、復興の一手であることは間違いありません。
なにも、事業を起こさなくても、直接的に復興に携わらなくてもいいんです。この地域で、自分が望む生活をして、楽しく暮らしていくことそれ自体が、復興につながっていきます。
復興を願う地域の方々と手を取りあって、一日、一日と魅力を取り戻していく町の姿を見ているだけで、毎日に充実感が湧いてくる。私自身も、それを日々感じています。
少し話は逸れますが、私は新卒でコンサルファームのマッキンゼーに入社しました。
同社はグローバルに事業を手がける会社でさまざまな経験ができたのですが、一個人としては、福島県との接点を持ってからの方が、よりスケールの大きい仕事を手がけられている感覚があります。
キャリアを開く場所として大きな可能性があることは、先輩移住者の皆さんが証明してくれているんです。
12市町村は、今後も復興への道のりを歩みながら、新しい町へと変化していきます。
その姿を間近で見たいという方はもちろん、そこに貢献したいという気持ちを持ってくださるのであれば、まずはぜひ、一度福島12市町村に足を運んでいただけると嬉しいですね。
構成:オバラミツフミ
撮影:小池彩子
デザイン:藤田倫央
編集:高橋智香
撮影:小池彩子
デザイン:藤田倫央
編集:高橋智香
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