2023/2/13

なぜ今「声」なのか、ボイスポコチャが拓く新たな平等な世界

NewsPicks / Brand Design 編集者
 ライブ配信アプリ戦国時代──。
 近年、アプリ上での生放送を通じて人気を競い、自己表現の場としてだけでなく、大金を掴むチャンスも生まれてきているライブ配信は、現在多くのサービスが乱立しており、まさに群雄割拠の様相だ。
 その中で国内トップを走るライブ配信アプリ「Pococha(ポコチャ)」の姉妹アプリとして、昨年リリースされたのが、「Voice Pococha(ボイスポコチャ)」だ。
 なぜ、あえて今音声特化なのか。差別化は。戦略は。その魅力とライブ配信戦争を勝ち抜く勝算を、株式会社ディー・エヌ・エー「Voice Pococha」プロダクトオーナーの野口拓人氏に聞く。

ライブ配信は細分化ジャンルへ

──ライブ配信市場は、現在どのような状況なのでしょうか。
野口 デジタルコンテンツ協会によるデータでは、2016年時点でのライブ配信の国内市場規模は1600億円程度だったのが、2022年時点では4500億円程度と、継続的に成長しています。
出典:一般財団法人デジタルコンテンツ協会『動画配信市場調査レポート2022』
 またアンケートを取ったうちの約7割の方が、「ライブ配信」という言葉を認知している状態でした。
 一方で、ライブ配信の種類の違いなどはあまり知られていないので、私たちDeNAグループとしても認知を拡大、深めていくフェーズにあります。
──ライブ配信の分野は、中国が先行しているイメージです。
 はい。確かに、もともとは中国が先陣を切って流行が始まりました。最近では、ライブ配信アプリという一つのくくりの中から、サービスが細分化する傾向にあります。
 例えば、王道の顔出し系もあれば、配信者とゲーム実況やイス取りゲームのようなゲーミフィケーションを活用したもの、eコマース、カラオケ、音声特化など多様です。
 細分化される理由としては、ユーザーの消費行動やニーズが多様化しており、自分の趣味に合う、深く話ができる人を求めている、といった欲求が増えてきている傾向にあると思います。
──なるほど。ライブ配信の種類にはどのようなものがありますか。
 大きく分けて「メディア型」と「ソーシャルライブ型」の2つに分かれます。
 メディア型ライブ配信は、1人の演者に対して多数の視聴者(リスナー)がおり、1対1での密なコミュニケーションはありません。芸能人のインスタライブや、YouTubeライブなどが代表的なイメージですね。
 他方、ソーシャルライブ型は、1人の配信者に対して少数の視聴者(リスナー)が近い距離感でコミュニケーションを行えるものをいいます。配信者がリスナーの名前を認知していたり、熱狂的なファンが付いていることも多く、弊社のサービスは後者に属します。
 ソーシャルライブのコアなUX(体験)は何かと言えば、自分自身をちゃんと認めてくれたり、承認してくれる、という部分が大きいと考えています。自分が好きなことに対して共感してもらえる、というのは、配信者としてもリスナーとしてもサービス利用の大きな理由の一つになっていますね。

なぜ今、音声特化なのか

──DeNAが展開する国内最大手ライブ配信アプリ『Pococha(ポコチャ)』が順調な中、なぜ今、音声に特化したライブ配信サービスを作ったのでしょうか。
 元々、ポコチャの中にも顔を出さなくても配信ができる、ラジオ機能のようなものは実装されていました。
 ただ、ライブ配信の性質上、人気になるのはどうしても「顔出し」されている方が多いんですね。配信をしたいけど顔を出したくない人にとってみれば、少々居心地が良くない空間も生まれてしまっていたんです。
 だったら、顔出しの人と競争関係にならなくて済む、声だけで自分のコミュニティを形成できる『Voice Pococha(ボイスポコチャ)』という全く新しい世界を作ってしまおう、というところからスタートしました。
 実はこの流れは世界的に起きていて、すでに中国はもちろん韓国でも音声配信の潮流は起きているんですよ。
──改めて、『Voice Pococha(ボイスポコチャ)』について教えてください。
 ボイスポコチャは、顔を一切出さず声だけで配信を行い、リスナーとアイテムを使いながら交流できる、ソーシャルライブ型コミュニケーションアプリです。
Voice Pococha(ボイスポコチャ)のキービジュアル
──比較的、視聴者の年齢層が高めですね。
 実は、ポコチャのユーザーが、ボイスポコチャとの間を移動する現象が起きていて。前者ではいちリスナーだけど、後者では顔出ししなくていいから配信をやってみる、といった方も多いんです。
 ボイスポコチャで獲得したダイヤを現金化して、ポコチャで使うことも可能なので、自分でオリジナルのエコシステムを設計できる点もユニークですね。
──音声だけの魅力とは、何でしょうか。
 受け取る情報が「声」のみなので、想像する余白が生まれることですね。あと、ライブ配信の要素が加わり、誰かに推される体験、が味わえる点にあると思います。
 例えば、有名な声優さんやタレントさんが、お年を召されていても声質が変わらず数十年ファンを魅了する、といったことがありますよね。声にファンが付くと、外見的な要因による好き嫌いの要素が省かれて、聞いてる側にとってある意味都合の良い解釈ができる余地が残る点が魅力ではないでしょうか。
ボイスポコチャのイメージキャラクター、ロバート(左)とリズ(右)
 Twitterやインスタ、TikTokでプロ級のビジュアルや人気を持つインフルエンサーが全盛期の今だからこそ、音声独特の面白さがあると思いますね。

素の自分を認めてほしい、が根源

──なるほど。DeNAは子会社でIRIAM (イリアム)というバーチャルなキャラで話せるライブ配信アプリも展開しています。こちらも声だけですが、どのような棲み分けなのでしょうか。
 同じ音声配信でも、根本的にユーザーの欲求が異なると考えています。
 バーチャル配信における最大の魅力は、なりたい別の自分になれる、という点です。例えば、理想の見た目で作った人気のキャラクターだけでなく、小動物や架空のモンスターにもなれるわけです。素を晒して配信を行う人もいますが、キャラに付いた設定を演じてる、という方も多くいらっしゃいます。
キャラクターになりきって配信できるアプリ「IRIAM (イリアム)」
 聞いている側も、例えばバーチャルな姿の配信者に対して、「でも本当は1人暮らしでアパートに住んでいるんだろう」なんて野暮なことは言いません。「月から来たんだね」といった感じで一緒に「ノリ」を楽しむわけです。
 一方で、音声特化の配信サービスの魅力は、配信者の素が出せるところです。顔は出さないけど、普通の生活空間の中でリスナーと自然に交流を楽しめる点が大きな違いですね。
顔出しをせず、気軽にライブ配信でリスナーと交流が楽しめる
 またバーチャルで配信活動を行うための設定やキャラの作り込みが必要ないので、パッと思いついたら今日配信できる、といった点も棲み分けができているポイントです。
──変身願望がある人もいれば、自分をそのまま受け入れてほしい人もいるということでしょうか。
 そうですね。人間の根源的な欲求として、自分の存在を認めてほしい、という思いは誰にでもあると思います。その手段が、完全に別の存在に変身することなのか、本当の自分を知ってほしい、ということなのかは人それぞれです。
 バーチャルを選択する人の中には、キャラを使いつつ手の一部の自撮りを上げてみる、といった行動をするユーザーもいて、ここにライブ配信の本質があるなとサービスを1年間運営する中で学びました。

大手配信者が取れないリスクを取れ

──ライブ配信は稼げる、というイメージがあります。その点、あえて新しいプラットフォームに今参入するユーザー側のメリットはあるのでしょうか。
 確かに、主要ライブ配信プラットフォームと比較すると、ボイスポコチャのユーザー数はまだ伸び代がある段階です。一方で、成長曲線を描いていく中で、未だボイスポコチャ内で大手配信者が存在しない点は注目すべき点です。
 すでに大きな場所で一定の地位を確立している配信者にとって、プラットフォームをあえて変えてリソースやファンを分散させるリスクを取れる人は少数派です。分散すればするほど、そこに掛かる熱量や求心力は下がっていくので。
 現在進行形で伸びている場所に今からコミットすることで、何者でもなかった人が何者かになったり、チャンスを掴みやすくなっているタイミングだと言えます。
──実際のところ、ライブ配信での収入はどれくらいを見込めるものなのでしょうか。
 配信だけで月に150万円以上稼ぐ方もいますが、全体から見れば少数派です。
 ただ、トップラインが跳ねているだけでなく、例えば月に2、3万とか5万円程度のレンジの方なら数百人、数千人単位でいます。自分が心から話したい話をして、コミュニティの中で目標を達成するなど、ちょっとした副業的な感じで、おこづかいが月に数万円増えたら嬉しいですよね。しかも顔出しをしなくて良い、という点も今後大きな魅力になってくるのかなと思います。
 配信のコツさえ掴めれば、2ヶ月も継続すると特定のファンが付いて収益化も期待できるでしょう。

ライブ配信で稼ぐコツは、会話

──配信のコツを教えてください。
 配信者が持つ個性にもよりますが、基本的には視聴者(リスナー)側も、承認されたかったり自分自身を認めてもらいたいという部分があります。なので、一人一人のリスナーさんへの対応が重要です。
 例えば、配信者に話しかけて返事が数十秒遅れたり、反応が無かったりするとリスナーは、「全然自分のことを見てくれてないや」とストレスを感じます。ですが、パッとその場ですぐにコメントに応えると、それだけで嬉しい気持ちになるんですね。基本的にはその体験の繰り返しです。だから、リスナーからのコメントに反応するだけでいいんです。
 あとは、目標を口にすることも大事ですね。YouTubeでもチャンネル登録よろしくお願いします、ってよく言いますよね。あれはCall to Actionと呼ばれるものですが、言うのとそうでないのとでは、登録率が大きく変わります。「このイベントに勝ちたい!」とか「こういう目標を達成したい!」といったことをしっかり伝えることも重要なんです。
 上記の2つをバランスよく実践できる人が、上手い配信者で、伸びているし、継続するという感じですね。
──でも、素人は何を話せばいいんでしょうか……?
 話のネタは何でも良いんです。一番初めに始めるなら、コメントのオウム返しでも十分です。「今日ラーメン屋に行ったんだよね」→「え、ラーメン屋に行ったんだ」と応えれば、いろいろな疑問が湧いてくるはずです。どこの店に行ったのか、あっさりなのか豚骨なのか、それを繋いでいけば良い。
 配信と言うと、こっちが全部台本を用意しなきゃと考えがちですが、ソーシャルライブ配信型では単なる会話が繰り広げられるだけです。友達との会話に事前準備は必要ないですよね。それと同じです。
 リスナーは面白い話をしてほしいわけではありません。それを求めるならYouTubeを観てもいいわけです。そうではなくて、彼らは自分の個を認識してほしい、会話がしたいんですよね。だから、気軽な気持ちでぜひやってみてほしいです。

10年後も無くならない

──ボイスポコチャを今後、どうしていきたいですか。
 まずは知って、使っていただける方を増やしていきたいですね。恐らく、ライブ配信を実際にやった経験を持つ人はまだまだ少数派だと思います。でもそれは、多くの人がその魅力に気付いていないのではないか、とも考えています。
 既存のソーシャルメディアでも自分を中心としたコミュニティや気の合う人を見つけることはできるでしょう。しかし、ここまで密にオンラインでコミュニケーションを取れるプラットフォームは、ライブ配信以外ないと確信していて、それが10年後に無くなるとはとても思えないんですよね。
 恋人や家族にも話せないことでも、ライブ配信なら話せるということもありますし、すでに生活の基盤として稼いでいる人も多くいます。
 そうしたコミュニティが拡大していく中で、顔出しのリスクを排除した手軽な音声配信は、ポコチャ以上に潜在的なニーズがあるはずなので、ビジネスとしてきっちりブレークスルーをやっていくつもりです。
──サードプレイスのような役割も果たしそうですね。
 まさに。例えば、会社も一つのコミュニティですよね。その中で「今日はできなかったな」とネガティブな感情を持っている時でも、配信で別の居場所があればそこで消化されたり、救われたりする部分も当然あって。
 なので私個人としても、自分を中心としたコミュニティづくりの面白さだったり、ライブ配信の魅力を今後も日本中に届けたいです。それがプロダクトオーナーの使命であり、自分の使命でもあると思っていますね。