[ロンドン 18日 トムソン・ロイター財団] - 子どものアダルトサイト閲覧を制限するため、年齢認証を義務付ける新法が米国や欧州大陸、英国で次々と施行されている。ただ、抜け穴の存在や個人情報保護上のリスクなど、さまざまな問題点も浮上してきた。

米ルイジアナ州では年明けからアダルトサイトにアクセスする際、年齢認証を行う第三者機関にデジタル運転免許証を提出するよう義務付ける法律が施行された。

欧州連合(EU)では「デジタル・サービス法」、英国では「オンライン・セーフティー法」で、子どもを狙った広告の表示やアダルトサイトへのアクセスを阻止するための年齢認証が義務付けられた。

子どもの安全なインターネットアクセスを求める英国の活動団体、ブルック・ヘルス・センターの幹部、リサ・ホールガーテン氏は「青少年はオンラインで極めて危険な状態にある。プラットフォームが十分な対策を採っているとは思えない」と語る。

活動家らは、年齢認証を義務付ける法律の導入がこうした問題の転機になると期待している。

時を同じくして、一部のIT大手も年齢認証を導入し始めた。

しかし、データ専門家からは、年齢認証その他の身分証明は、情報の収集、蓄積、漏えいの恐れを通じて、全年齢のネットユーザーの個人情報保護を脅かすとの指摘が出ている。

<相互確認、顔認証、フィッシング>

年齢認証は今に始まった話ではない。米国では1990年代、利用者にクレジットカード情報を提出させることで、18歳未満の子どもによるアダルトサイトやギャンブルサイトの閲覧を制限する法律が施行された。

その後、ネット利用が増えてクレジットカード所有者のフィッシング被害に懸念が高まるにつれ、企業はもっとリスクの低い年齢認証方法を探るようになった。

アダルトサイトでは、ユーザー自身がボタンを押して18歳以上であると申告する方式が主流だが、あまりに簡単に虚偽申告が可能だと批判されている。

メタ傘下のインスタグラムは昨年、相互フォロワー3人が互いの年齢を確認する「ソーシャルバウチング」を開始した。

メタはユーザーの投稿内容や他アカウントとのやり取り、特定のコンテンツを元に人工知能(AI)が年齢を推測する方法も取り入れている。

だが、デジタル上の権利の専門家は、この方法こそIT企業がいかに大量のデータを収集しているかを示す証左だと指摘する。

権利活動団体ビッグ・ブラザー・ウォッチの幹部、マーク・ジョンソン氏は「ソーシャルメディアのサイトは、既に極めて個人的なデータを膨大に収集している。デジタル身分証明を通じて、これ以上の収集を奨励、あるいは強制されるべきではない」と語った。

メタはまた、自撮り動画をスキャンして顔認証を行い、ユーザーの年齢を分析するYotiという技術も採用。認証が済み次第、データは消去すると説明している。

しかし、フランス国立情報・自由委員会(CNIL)は昨年、顔写真等のスキャンは、特にアダルトサイトに要求された場合には脅迫に利用される恐れがあるとし、現在使用されている全ての年齢認証方式に欠陥があるとの考えを示した。

<情報漏えい>

既に子どものデータが年齢認証を通じて、不適切な場所に漏えいしてしまった事例も発生している。

英国では昨年11月、子ども2800万人の学習歴が、年齢認証方式の開発のためにギャンブルサイトに利用され、英政府が当該データの取り扱いを巡って批判された。

このデータベースには、子どものフルネームから誕生日、性別、電子メールアドレスや国籍が含まれていた。

米ルイジアナ州では、新法によって子どものアダルトサイト閲覧阻止という目的は達成できないとの批判が出ている。モバイルデータや仮想プライベートネットワーク(VPN)を使えば、年齢認証を容易にすり抜けられるからだ。

ルイジアナ州立大学の法学教授、ケン・レビー氏は「他にも(ルイジアナ州の法律について)悪くないアイデアだと考える州が出てくるかもしれない。だが、私はさほど有効だとは思わない」と語る。

ネットの安全性を守るためには国際的な協調体制が必要で、地方や国レベルの政治家にできることは限られると、専門家は指摘している。

(Adam Smith記者)