2023/1/24

【急務】行政も本気。日本の「結婚前」の課題を解決せよ

NewsPicks Brand Design Editor
 日本の少子化・未婚化が止まらない。新生児出生数は過去最低を更新し続けており、婚姻数も減少傾向。このビッグイシューに、社会はどうアプローチしていくべきか。
 これまでの少子化対策は、子育て支援など主に「結婚後」の支援に注力されてきた。
 だが、昨今は内閣や地方自治体など行政府も、特に「出会いの創出」に注力すると発表。
 マッチングアプリをはじめとしたAIテクノロジーの活用や結婚コンシェルジュ事業への補助金投入など、「結婚前」のアプローチにも力を入れる方針を示したのだ。
 こうした状況を踏まえ、2022年12月に毎日新聞が運営する毎日メディアカフェは、セミナー「未婚化と少子高齢化、そしてこれからの日本」を開催。
コンテンツは、
・少子化対策の内閣府特命担当大臣である小倉將信氏による来賓挨拶
・ニッセイ基礎研究所で人口動態のリサーチを行う天野馨南子氏の基調講演
・国内大手マッチングアプリ「Pairs」を運営するエウレカCEOの石橋準也氏による講演
・ほか有識者によるパネルディスカッション
 など多岐にわたり、少子・未婚化の現状や出会いを創出するための具体策等について、さまざまな意見が交わされた。
 本記事では、ビッグデータを活用した愛媛県の委託事業の施策や、三重県桑名市と「Pairs」の提携などの事例を交えて、セミナーの要点をダイジェストでお届けする。
INDEX
  • 半期の出生数が40万人を切った
  • 少子化対策は「子育て支援」だけではない
  • 行政も「結婚前」のアプローチに本腰
  • 「アンコンシャス・バイアス」が結婚を阻む
  • ビッグデータを活用した最先端のマッチング
  • 自治体とマッチングアプリが協業
  • 行政と連携し、バイアスを取り払う

半期の出生数が40万人を切った

 セミナーは、内閣府特命担当大臣(少子化対策)である小倉將信氏のビデオメッセージで幕を開けた。
 冒頭、小倉氏は「少子化の進行、人口減少は、我が国の有事とも言うべき大きな課題」と、その危機感を露わにした。
 2022年8月の厚生労働省の発表によると同年度上期(1〜6月)の出生数は、38万4,942人と初めて40万人を下回った。少子化問題は次第にその深刻さを増しているのだ。
 なぜ、少子化に歯止めがかからないのか。原因の1つとして、「未婚化の進行が、特に大きいと言われています」と小倉氏は話す。
小倉將信氏・内閣府特命担当大臣(少子化対策)
「2022年9月発表の第16回出生動向基本調査によれば、未婚者の結婚の意思や希望こども数は、過去に比べて低下幅が大きくなりました。
 もちろん、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた可能性も推測されることから、結果は幅を持って解釈する必要があります。
 ですが、すべての結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境を整えることが喫緊の課題だと思っています」(小倉氏)

少子化対策は「子育て支援」だけではない

 これまで、少子化対策にあたっては、「結婚後」のフェーズである出産・育児に対するサポートを手厚くしなければならないと考える向きが強かった。
 実際、国や行政が打ち出している施策も、出産・育児を支援するものが多い。
 そんななか「そもそも初婚同士の結婚数が増えないと、出生数は増えない」と指摘するのが、ニッセイ基礎研究所シニアリサーチャーを務める天野馨南子氏だ。
天野馨南子氏・ニッセイ基礎研究所 シニアリサーチャー
「1970年から2021年までの「人口動態統計」を時系列で分析すると、『出生数』と『初婚同士のカップル数』には係数0.9を超える『強い正の相関関係』があるとわかります。
 さらに、1970年から2021年までの両数値は40%水準にまで減少し、ほぼ同じ。つまり、初婚同士夫婦あたりの子供数はほぼ変わっていないのです。
 再婚同士や夫・妻のみ再婚カップルの数は増えていますが、出生数とはいずれも負の相関。再婚者を含むカップルが増えれば出生数は減るという明確な関係があります。
 つまり、出生数を上げるなら、初婚同士のカップル数を増やす必要があると言えます」(天野氏)
 セミナーでは、他にも興味深いデータが次々と参照された。
 たとえば、「初婚同士のカップルが結婚後15〜19年の間に授かっている子どもの数」は、1970年代から2010年代まで2人前後でその数値に大きな変化がない、というもの。
 これも、既婚カップルに対するサポート、つまりは「子育て支援」が少子化問題を解決に導く最も重要な対策と考える意見に対する反証の1つと言える。
「もちろん、結婚後の出産・育児のサポートも重要な施策です。
 ですが、『夫婦が子供を持たなくなった、だから子育て≒既婚者支援が必要だ』とそこだけ強調するのは、『結婚(カップル)はできて当たり前。できない人は個人の問題』という視点にあった、古い世代の価値観に基づいた典型的なアンコンシャス・バイアスと言えるでしょう」(天野氏)

行政も「結婚前」のアプローチに本腰

 では、どうやって社会は結婚、特に初婚のサポートをしていくべきか。
 前提として、日本において「結婚」が望まれなくなったわけではない。
 やや低下傾向にあるとはいえ、第16回出生動向基本調査では、18~34歳の未婚男性の81.4%、未婚女性の84.3%、つまり全体の約8割の男女が「いずれは結婚するつもり」と回答。
 他方、上記の未婚男女による結婚をしない理由の第1位は、毎回「適当な相手にめぐり会わないから」だった。
 こうしたデータを引き合いに、「出会いの機会や場の提供、より細やかな出会いサポートの必要性が高まっている」と小倉氏。国としてもその支援に全力をあげる方針を示した。
 2022年度の補正予算案では、地域少子化対策重点推進交付金を、2021年度の30億円から大幅に増額し、90億円を計上。
 AIなど活用した出会いを創出するための施策に対する補助率を引き上げるほか、新規事業として「結婚コンシェルジュ事」の予算を盛り込む。
「各都道府県に専門的な知見を持つコンシェルジュを配置し、各市区町村の結婚支援を技術面・情報面から支援していきます」(小倉氏)
iSrock:west

「アンコンシャス・バイアス」が結婚を阻む

 先出の天野氏も、「結婚したい」と考える人が結婚できる環境をつくるためには「官民問わず、さまざまなプレイヤーが策を打っていかなければならない」と念押しする。
 これまでの日本社会は、いわゆる“世話焼き”の存在によって自然と出会いが生まれていた。
 今の60代以上の多くが「お見合い」結婚であり、恋愛結婚がお見合い結婚を上回るのは1965年頃、主に今の50代以上は、「職場」がその役割を果たした。
「統計上、職場結婚は恋愛結婚に含まれますが、かつての職場結婚は自由恋愛の結果というよりは、上司や先輩の“世話焼き”、つまりは紹介がマッチングシステムとして機能した結果だとも言えます」(天野氏)
 しかし、時代は変わった。少子高齢化で若年層の絶対数が減ったのみならず、「ハラスメント」に対する意識の高まりとともに、恋愛や結婚に対する会話すらしにくい環境になっている。
 また、埼玉県と天野氏による20代、30代の未婚男女を対象とした「少子化対策深掘り調査」では、「結婚を希望する人を応援する社会的気運の醸成」を求める男女が過半数に達したという。
 良心からとはいえ、“おせっかい”の名の下に他者のプライバシーを侵害する行為は容認されるべきではないが、それらの消滅が「マッチングの減少」の一因になっているのも事実だ。
 加えて、「社会全体がアンコンシャス・バイアスにとらわれていること」も原因だと天野氏。
 その一例が、「結婚と年収」に関するアンコンシャス・バイアスだ。
 天野氏によれば、「『年収が平均値に届いていないから、結婚できない』と思い込んでいる男性も、『平均年収に届いていない男性はちょっと……』と考えている女性も少なくない」。
 国税庁が公表、多くのメディアが参照している「平均年収」は、2021年時点で443万円だ。(男性:545万円、女性302万円)。
 しかし、この「結婚と年収」をめぐる言説には、「年齢」という盲点があると天野氏。
 国税庁が公表しているのはあくまでも納税者の「平均給与」であり、この納税者の平均年齢は高齢化の影響でおよそ47歳に達しているという現状がある。
 実際、厚生労働省が発表している賃金構造基本調査では、年齢別の平均給与額が示されており、それによると20代男性の平均は200万円台。
 つまり、20代においては多くの人が年収443万円に届いていないにもかかわらず、それを理由に「自分は『普通』に届いていないから結婚できない」もしくは「普通の年収以下の人と結婚したくない」と考えている人が少なくないのだ。
「他にも、多くの女性が『結婚するためには家事ができなければならない』と考えていますが、実際には男性が結婚相手に求める条件のトップ5にすら入りません。
 親世代が持っている古い価値観に影響され、自ら『ガラスの天井』をつくってしまっている人はたくさんいる。
 繰り返しになりますが、まずはこうした社会全体が持つ古い時代の『普通』に基づくバイアスを認識し、解いていくことが第一歩だと思います」(天野氏)

ビッグデータを活用した最先端のマッチング

 こうしたバイアスを乗り越えた上で、どう社会は「出会い」をサポートしていくべきか。
 セミナーでは、さまざまなプレイヤーの施策が紹介された。その1つが、愛媛県法人会連合会が愛媛県から委託を受け開設した「えひめ結婚支援センター」の取り組みだ。
 設立当初から組織運営に尽力してきた愛媛県法人会連合会事務局長である岩丸裕建氏によれば、「かつて地方では、『おせっかい焼きのおじさんとおばさん』が、若い男女をくっつける風習があった」。
 時代と共に減っていた「おせっかいおじさん、おばさん」の役目を担うのが、えひめ結婚支援センターの役割だと話す。
岩丸裕建氏・愛媛県法人会連合会事務局長
 同センターの特徴は、ビッグデータを活用したマッチングを実現している点だ。
 通常、いわゆる結婚相談所では、結婚を望む人が結婚相手に望む条件を伝え、提示された条件に合う相手をデータベースからピックアップし、紹介していく。
 しかし、えひめ結婚支援センターのマッチング方法はひと味違う。
「蓄積しているビッグデータの分析結果をもとに、依頼者にマッチすると考えられるお相手を提案します。その際、学歴や身長、年収といった依頼者が希望する条件はあえて“無視”するんです。
 では、どうするのか。
 やや複雑な仕組みになりますが、まずは過去のマッチングなどのデータをもとに『同じような好みを持つ男性のグループ』と『同じような好みを持つ女性のグループ』をつくります。
 その上で、さまざまな男女間の『マッチ度』を予測した上で、相手をレコメンドするのです」(岩丸氏)
 ビッグデータを活用したこの方法によって、平成20年11月の取り組み開始以来、えひめ結婚支援センターから17,496組のカップルが誕生しているそうだ。
 その実績が評価され、同センターが生み出したシステムは、現在24の地方自治体で導入されている。
パネルディスカッションでは、少子・未婚化対策に関するさまざまな事例が紹介された。

自治体とマッチングアプリが協業

 民間企業としていち早く少子化問題にアプローチしてきたのが、国内最大級のマッチングアプリ「Pairs(ペアーズ)」などを運営するエウレカだ。
 これまでも、有識者による「少子化・未婚化の改善について考えるアドバイザリーボード」の主催や、「Pairs少子化・未婚化白書」の発表、有志国会議員を対象にしたマッチングアプリを活用した出会いの創出に関する勉強会における説明などを実施。
 今回のセミナーでも、CEOを務める石橋準也氏が「若者の恋愛離れ」の原因などを解説した上で、行政との協業を含めたエウレカの少子未婚化課題に向けてのアプローチを示した。
石橋準也氏・エウレカCEO
 2022年11月には、三重県桑名市と「独身男女の出会いの機会創出等に向けた連携協定」の締結を発表。
 エウレカと行政が婚活イベントなどを開催し、そのイベントに参加した市民に対して「Pairs」で利用できるデジタルギフトカードをプレゼント。
 他にも、恋活・婚活に関するノウハウと共に、「Pairs」を通じた出会いの機会を提供していく方針だ。
 提携の背景にあったのは、桑名市が抱える「人口減少」問題。同市の人口は2015年をピークに減少に転じ、2022年2月には14万人を下回った。
 この状況を打破すべく、「若者の考えや気持ちに寄り添った施策」を展開するためのパートナーを探していた桑名市。
 一方、外部有識者等との共同調査等で少子化、未婚化問題の解決に取り組んできたエウレカも、調査研究の実践の機会として、恋人探しの活動人口を増やす施策を共に推進する自治体パートナーを模索していた。
 こうした両者の課題と目的が一致し、連携協定が結ばれることになったのだ。
桑名市とエウレカの連携協定の締結式(写真提供:エウレカ)
 イベントの開催など、本格的な活動の開始は2023年5月頃を予定している。
 石橋氏は桑名市との取り組みを通じて、「マッチングアプリに対するバイアスを取っ払っていきたい」と意気込みを語る。
「『結婚式では、出会いのきっかけはマッチングアプリだと言いにくい』という声も聞こえるように、親世代のマッチングアプリに対するイメージは、まだまだ良いものだとは言えません。
 『Pairs』を通じた出会いと結婚を増やしていくためにも、まずはマッチングアプリに対する認識を変えていきたい。『行政とも連携しているサービス』という事実を、より多くの親世代の方に知ってもらうことがその第一歩になると考えています」(石橋氏)

行政と連携し、バイアスを取り払う

 桑名市との取り組みのなかでも、利用者の大きな助けになることを期待されているのが、2022年10月に提供が開始された「Pairsコンシェルジュ」
 コンシェルジュに安心・安全かつより効果的にPairsを利用するためのノウハウを聞いたり、恋愛に関する相談ができたりするようになるサービスだ。
 マッチング率を上げるプロフィールの作り方や相性の良い人の見つけ方、あるいはデートの際の服装に関するものなど、相談できる内容は多岐にわたる。
 この機能によって、「Pairs」は「出会い」のみならず、「出会う前」から「出会った後」までもサポートできるサービスとなった。
 機能のローンチから約2ヶ月が経ち、「順調に拡大している」と石橋氏はその手応えを語る。
 特に、Pairsコンシェルジュは結婚相談所を利用していたユーザーからの評判が良いという。
 結婚相談所と同じく人から直接アドバイスをもらえるだけでなく、月額料金が結婚相談所に比べると安価なため、多くのユーザーが利用しているそうだ。
 他方、「今後の課題は、結婚相談所の利用を考えていないユーザーにコンシェルジュの価値を感じてもらうこと」。多くのユーザーに価値を届けるための施策を検討中だと石橋氏。
「まずは、桑名市との取り組みで良い事例を創出できればと思っています。少子化問題に取り組む上で、地方から目を背けることはできません。
 人口流出や男女バランスなど、地方自治体はさまざまな問題を抱えており、実際に私たちに男女のマッチングについてご相談いただく機会もあります。
 地方に大きなインパクトを与えることができれば、少子化問題の解決に一歩近づくことができると考えています」(石橋氏)
 まさに、「待ったなし」の少子化問題の解決。
 政府主導で「異次元の少子化対策」が本格化しようとするなか、社会全体が結婚にまつわるアンコンシャス・バイアスを乗り越え、出会いの創出をサポートするなど、「結婚前」の課題にアプローチできるかも重要なテーマの1つと言えるだろう。
 行政、自治体、民間企業などさまざまなアクターによる取り組みが活発化しているが、果たして少子化の課題を解決していけるのか。各所の手腕に期待がかかる。