M&Aクラウドの及川です。M&Aをアップデートしていきます。
先日、岸田内閣が「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。その計画の中には、スタートアップの出口戦略としてのM&Aを促進するため、税制の優遇措置を検討する旨が記されています。具体的な内容はまだ明らかになっていませんが、一部の報道を見る限りでは株式取得価額の25%を課税所得から控除する案も出てきているようです。
今回は、大企業がスタートアップを買収する際に生じる税金を減らすといった税制措置はM&Aにどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。
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岸田内閣が“出口戦略”も意識し始めたのはポジティブな出来事

まず大前提として、岸田内閣が目指している方向性には「賛同」しています。スタートアップを支援する施策は資金を提供するなど、基本的に“入り口”にフォーカスしたものが多い中、このタイミングで政府が“出口”にもフォーカスし始めた。日本のスタートアップ・エコシステムを発展させていくためにはM&Aの数をもっと増やしていくべきだと思っているので、政府が“出口”も意識した取り組みを始めたのは非常にポジティブな出来事です。
スタートアップエコシステムの課題:M&Aクラウド作成
まだ株式取得価額の25%を課税所得から控除することが決定したわけではありませんが、仮に25%を控除することになったとしても、それによってM&Aの件数が一気に増えるほどのインパクトはない、と個人的には思っているところです。具体的には25%の控除に30%の法人税率をかけると、実質7.5%のディスカウントにしかならないので、そこまで大企業にとって大きなインセンティブがある取り組みではないのかな、と。
スタートアップM&A減税の想定効果:M&Aクラウド作成
これはポジショントークにもなってしまうのですが、M&Aの仲介事業を手がける側としてはM&Aの促進には税金の控除よりも、のれんの減損発生という課題を解決した方が効果的だと思っています。実際、大企業がスタートアップを買収しようとした際、のれんの減損発生によって自社の営業利益に影響が出てしまうことを懸念し、M&Aに二の足を踏んでしまうという声をよく耳にします。ここは会計基準が異なるため少し難しい部分かと思っていたのですが、「スタートアップ育成5か年計画」には「M&Aを促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大」も盛り込まれているので、改善に期待したいところです。

25%の減税は盛り上げる呼び水としての効果に期待

M&Aを促進していくにあたって、何より大事だと思うのが「空気感の醸成」です。「M&Aをやっていこう」という世の中の空気感が出来上がっていけば、大企業もM&Aを積極的に検討していくようになると思います。そういう意味で、株式取得価額の25%を課税所得から控除はM&A件数の増加に直接的な効果はそこまでないかもしれませんが、「減税されるならM&Aを検討してみてもいいかもしれない」という社内の説得材料として使われるかもしれない。M&Aを盛り上げる呼び水としての効果があるのではないか、と思います。
例えば、2020年に政府は国内の事業会社もしくはCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)がスタートアップの新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される「オープンイノベーション促進税制」をつくりました。
周囲から聞いた話では、このオープンイノベーション促進税制がけっこう使われているそうで、政府としてはここに一定の手応えを感じたので、今回のスタートアップをM&Aする際の株式取得価額の25%を課税所得から控除する案が検討されたのだと思います。
事業会社のCVC設立も、この10年で一気に増えました。その背景にあったのも「空気感の醸成」だったと思います。2010年ごろから、大企業の新規事業担当者などがスタートアップのカンファレンスやピッチイベントに参加し、スタートアップ業界の空気感を理解した後に、独立系ファンドにLP出資をする。
そうした流れのあとにアクセラレータープログラムをやる企業が増え、そこで協業相手を見つけたり、社内のスペースを貸したり、上手くいけば資本業務提携や直接投資をするといったことが生まれてきました。そして、ここ数年でオープンイノベーション促進税制をきっかけにCVCの設立が相次いでいる。その結果、「あそこもCVCを立ち上げているし、うちもやろう」というような雰囲気が生まれていったのも大きかったと思います。
このCVC設立の流れの後に、M&Aが入ってくるはずです。今後、マクロ環境の変化などに伴い、あまりポジティブではないケースのスタートアップのM&Aも増えていくと思います。起業家や投資家としては、なるべくダウンラウンドでの売却は避けたいと考える中、税制措置によって大企業は減税できるため、M&Aをする口実ができる。その結果、フラットラウンドでのM&Aが実現できる。起業家や投資家、大企業にとっても良い話になるという意味では、25%の減税をM&Aする口実にしやすくなると思います。
オープンイノベーションのステップ:M&Aクラウド作成
まだまだ、大企業側はスタートアップをM&Aする必要はないと思っている節があります。そもそもスタートアップを脅威に感じておらず、何なら自分たちで技術を開発できると思っており、業務提携すれば技術が手に入るとも思っている。そういった雰囲気がまだ根強く残っているので、その雰囲気を変えていき、M&Aを積極的に検討していくという空気感を醸成するという意味では、25%の減税には一定の効果を期待したいです。

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