[東京 23日 ロイター] - 日銀が10月27―28日に開いた金融政策決定会合では、債券市場について「安定性確保は重要であり、モニタリング等を通じて市場の状況をきめ細かく把握する必要がある」との見解がある委員から示された。一方、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の下での長期金利の上昇抑制がもたらす効果を指摘する声が複数出ていた。

日銀が23日、同会合の議事要旨を公表した。10月会合に続く12月19―20日の決定会合で、日銀は10年金利の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%からプラスマイナス0.5%に拡大することを決めたが、10月会合の議事要旨ではYCCの運用見直しに向けた政策委員の問題意識の深まりは示唆されていない。

10月会合では、1人の委員が長期金利がレンジの上限に張り付いていることは「市場機能にマイナスの影響を与える面もある」とする一方、長期金利が低位で推移していることのマクロ経済に及ぼす便益が大きいとの見方を示した。別の1人の委員は、イールドカーブの上昇を抑制するために国債買い入れを増額していることは「流動性の供給という量の面からも緩和効果を高めている」と述べた。

<中途半端な政策変更、賃金・物価の好循環に水差す>

10月会合で取りまとめた「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)では、2022年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の政策委員見通しの中央値が前年度比プラス2.9%に引き上げられた。23年度も上方修正されたが、プラス1.6%で目標の2%には達しなかった。

複数の委員が、来年度以降、輸入物価の影響剥落に加え海外経済の減速や経済・物価を取り巻く外部環境の不確実性の高まりを踏まえると「基調として物価が安定して2%程 度上昇する状況になったとみるのは時期尚早ではないか」との見方を示した。一方、ある委員は、日本経済が基調として底上げされる中で「物価上昇率が来年度以降2%を下回ってもデフレに戻るわけではなく、物価上昇率は着実に底上げされていく」と述べた。

日銀は10月会合で金融政策の現状維持を全員一致で決めた。複数の委員が「中途半端に政策を変更すると物価と賃金の好循環を妨げるリスクがあるため、時間をかけて粘り強く金融緩和を行う必要がある」と指摘した。

ある委員は、物価目標を安定的に達成するためには名目賃金の上昇が必要不可欠だとした上で「金融緩和は労働需給の引き締まりのほか、物価上昇によるインフレ予想の高まりという経路を通じて名目賃金の上昇に作用する」と話した。

賃金について、ある委員は「高水準の企業収益や物価上昇に加え、対面型サービス業を中心とした人手不足も加わって、高水準の賃上げが実現される可能性が高まっている」と指摘した。現在の企業の値上げや賃上げの動きが定着し、物価と賃金の好循環が起きれば、2%目標の持続的・安定的な達成が「視野に入ってくる」(ある委員)との声もあった。

何人かの委員は、若年層を中心に住宅ローン借り入れが増加しており「将来金利が上昇する局面でどのような影響が生じるか、注意する必要がある」と述べた。

経済のリスク要因としては、複数の委員が米国経済に懸念を示した。米国の労働市場が依然タイトなほか、消費者物価のコア指数は上昇しているとして「高インフレが予想以上に長引くリスクや、その後の経済が想定以上に減速するリスクがある」と述べた。

(和田崇彦 編集:青山敦子)