伊賀大記

[東京 20日 ロイター] - 日銀の政策修正に金融市場も戸惑いをみせている。サプライズというだけでなく、緩和方向と引き締め方向の材料が混在する内容で、消化難だったためだ。不透明感の強まりを嫌気する市場は、金利上昇・円高・株安で反応した。

<「舵を切った」との受け止めも>

日銀の内田真一理事は5月10日の参議院財政金融委員会で、長期金利の許容変動幅の拡大は「事実上、利上げすること」と言明。それ以降、マーケットでも許容幅拡大は「利上げ」に当たるとの認識が広がった。

このため日銀が今回の決定会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の下での10年物国債金利の許容変動幅を従来のプラスマイナス0.25%から0.5%に拡大を決めたことについて、「市場では事実上の利上げ措置と捉えられている」と、みずほ証券チーフ為替ストラテジストの⼭本雅⽂氏と話す。

実際、日銀の決定を受けた20日午後の金融市場では、金融引き締め方向の反応となり、円金利が上昇し、円高・株安が進行。長期金利は一時0.460%と2015年7月以来の水準を付け、ドル/円は132円台に下落し、日経平均は一時800円を超える下げ幅となった。

「長期金利の上昇で政策金利も今後変更される可能性があり、マーケット参加者は日銀が金融政策正常化に舵を切ったと認識したのではないか」と、GCIアセットマネジメントのポートフォリオマネージャー、池田隆政氏は指摘する。

<緩和方向の措置が混在>

しかし、日銀は同時に緩和方向の施策も打ち出した。国債買い入れ額を従来の月間7.3兆円から9兆円程度に増額。20日午後には臨時の国債買い入れオペを中期債から超長期債まで幅広く通告した。

さらに日銀は20日、固定利回りで無制限に購入する指し値オペを中期債と超長期債に通告。10年債だけでなく、2年債、5年債、20年債の金利も対象に追加されたという点からは、YCCは強化されたとみることもできる。

声明文のフォワードガイダンス部分は変わっておらず、今回の措置も声明文では「緩和の持続性を高めることで物価安定目標の実現を目指す」ものとしている。

黒田東彦日銀総裁は20日の会見で、今回の措置は市場機能改善が目的で、YCCを起点とする緩和効果が円滑に発揮するためであり、許容変動幅は利上げではないと明言。YCCの撤廃や出口への一歩では全くないと話した。

野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は「来年には景気情勢が悪化し、円高リスクが高まることから、新体制下でも日銀は正常化策の実施に慎重となるだろう。総括検証を経てマイナス金利解除などの正常化策が実施されるのは、2024年半ば以降」とみる。

<投機筋の「攻撃対象」増えたか>

今回の措置でイールドカーブ(金利曲線)上で10年付近だけが低い歪みは一定程度、解消される見通しだ。ただ、インフレ状況に違いはあるとはいえ、10年債金利の比較では、米国3.6%、英国3.5%、ドイツ2.2%などと比べて、日本の0.5%はまだ低い。

さらに今回、日銀は中期債と超長期債を対象とした指し値オペを実施したことで、2年債の0.020%、5年債の0.170%、20年債の1.245%という新たな「ターゲット」が加わった。

「10年債と同じように、他の年限債にも日銀への売りが増えて、日銀の資産が拡大し、さらなる政策修正が迫られるおそれもある。投機筋にとっては攻撃対象が増えたと言える」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は警戒する。

日銀が午後に通告した固定利回り入札方式による国債買い入れ(指し値オペ)の結果は、2年債、10年債、20年債は、いずれもゼロだったが、5年債(154回債)は1兆0189億円の応札・落札があった。

日銀の9月末の国庫短期証券を除く国債・財投債の保有額は536兆円と、保有比率が初めて50%を超えている。

(伊賀大記 編集:久保信博)