2022/12/26

なぜ、仕事のゴールセッティングはうまくいかないのか

NewsPicks / Brand Design 編集者
 近年、組織経営やチームビルディングにおいて、パーパスやビジョン、ミッションが重要だと言われる。チームで共通の目標に向かい成果を出し続けるため、四半期ごとの目標設定やOKRなどの仕組みを導入する組織も多い。しかし、それらは本当に機能しているだろうか。
 目標がころころ変わる、評価指標が個人の職能に合っておらず他のメンバーとも連携しない。忙しさにかまけて、期初に設定したゴールを期末には忘れている。いくら優れた仕組みを取り入れても、日々進捗を確認し、変化し続ける環境に合わせて運用できなければ、チームは前に進まない。
 本企画ではチームマネジメント・OKRの有識者であるピョートル・フェリクス・グジバチ氏と、日本マイクロソフトで従業員エクスペリエンスの変革に取り組む加藤 友哉氏との対談で、組織と個人の目標をうまく合致させ、日々の行動やフィードバックを生かしながらダイナミックに動くチームビルディングについて大いに語り合う。

OKRの肝は、会話にあり

──近ごろ、OKRという言葉をよく耳にします。従来の数値目標(KPI)とは異なるのでしょうか。
ピョートル OKRとは、Objective(目標)& Key Results(達成すべき成果)の略称で、目標設定や管理で成果を挙げるための、組織マネジメント手法です。
 トップダウン型のKPI(重要業績評価指標)やMBO(目標管理)とは異なり、フラットなコミュニケーションを取りながら目標の達成を目指すのが特徴です。具体的には、会話を重ねることで価値観や基準、将来への希望をチームですり合わせながら目標に進んでいきます。
加藤 同じ目標管理の手法といいつつ、その目的も運用もトップダウン型とはかなり違う部分がありますよね。
ピョートル そうなんです。よくOKRとKPIは混同されがちですし、OKRは新しくてKPIは古い!といったものでもないんです。目標のために両者が同時並行で使われるケースも多々あるため、すべての指標をOKRにすべき、というのは極端でしょう。
 KPIが適するのは、すでに存在するプロダクトを、とにかく世の中に対して売らなければならないときです。例えば、あなたの今期のゴールはこれを100個売ることです、と明確な成功を示してもいいと思うんですよね。ただ、個人の数値目標にしてしまうと自由が無くなるという大きな課題もあります。
 一方、今世の中にまだ存在していない新しいものを開発する時や、総務部の業務など、成果指標が明確でない場合には、OKRは有効です。つまり、売る数ではなく、自分たちの理想の状態を想像し目標にするわけです。
加藤 その企業の事業フェーズや目的によって、必要なタイミングが変わってきますね。
ピョートル はい。OKRは営業の数字を向上させる魔法のツールではなく、むしろコミュニケーションツールの側面が強いと思います。
「会社のミッションはこうで、部門の役割はこれ。では、あなたはどうしますか?」という会話をチームミーティング、1 on 1、他部門とのすり合わせといった、あらゆる角度で行っていきます。
 自社のミッションやビジョンにどう自分は貢献できるのかを、上司やチームメンバーと会話しながら、あるいは隣の部署と連携しながら、自分たちなりの成果成功指標を立ててやっていく。仮説を立てて検証していく行動なら、それはOKRであるべきですね。

ムーンショットを評価対象にしない

──明確な数字で目標を設定しづらい仕事をしていると、「何を目的にし、何を成果とするか」を考えるときに、KPIと混同してしまうこともあると思いますが。
ピョートル プロダクトを100個売るというのはKPI。OKRでは、100個売るときに「あなたは、そもそもこのプロダクトを誰に何のために届けたいのか?」を考えます。
 よりわかりやすく言うと、「冷蔵庫を100台売る」のがKPIで、OKRでは「地域の飲食店を支えるインフラをつくる」ことが目標となります。
加藤 ある種マーケティング的な思考ですね。Howの部分をどうやったら達成できるのかを考える。
ピョートル 目標設定のレベル感もKPIとは大きく違います。KPIは現実的な目標を設定。場合によっては、確実に達成できるよう目標自体を低めに設定することもあったりしますよね(笑)。
 OKRはその逆で、ムーンショットとも呼ばれる達成が困難な目標、ストレッチゴールを目指します。達成するには相当の努力が必要かもしれないけれど、もし実現できたときは経営的に大きなインパクトがある目標です。楽に目標達成できるとしたら、それはもはやOKRではありません。
 ここで重要なのは、ムーンショットの達成可否を絶対の評価対象にしないこと。それによって、評価を気にすることなく目標を掲げられる点も気をつけるべきポイントです。

なぜ、この会社で働くのかを問い続ける

加藤 とは言え、すでに成熟したビジネス領域であれば、KPIの数字を追いかけるだけで十分では?と考える人もいると思いますが。
ピョートル KPIの課題は、個人の目標設定能力を高めることができない点にあります。コミュニケーションも重要視されないので、上から下への命令となりやすい。結果的に、社員が自分で目標を考えることをしなくなる。それは、ものすごいリスクですよね。
加藤 たしかに。核心となるお話だと思います。目標を自ら立てることで、組織内に双方向のコミュニケーションが生まれ、結果的に社員の自主性や組織へのエンゲージメントが高くなる効果がある。
 近年では、この領域は「従業員エクスペリエンス(EX)」と呼んだりしますが、私たちも非常に注目しています。
 マイクロソフトでは、2021年に「Microsoft Viva(マイクロソフト ビバ)」という新しいプロダクトを発表しました。我々はVivaを「従業員エクスペリエンス(EX) プラットフォーム」と位置づけ、現在、9つのモジュール(プロダクト)を展開しています。その中にもOKRの「Viva Goals」というモジュールがありEX向上に寄与しています。
Microsoft Vivaのラインナップ
 具体的な手順としては、企業の目標に対して、チームや個人が達成すべき成果(Key Results)を設定。Teams画面上に、達成期限や得られる効果、進捗状況が表示されます。日常業務の中に、OKRによる目的が組み込まれ、個人はもちろん社内全体で進捗を追いかけることが簡単にできるようになるんです。
 多くのエンタープライズ企業様にTeamsを採用いただいていますが、VivaはTeamsと連動できるのが大きな特徴です。一方でOKRやEXを高める必要性・価値についてはまだコンセプトも浸透しきっておらず伸びしろがあると感じています。
ピョートル EXを創り出す9つのモジュールに、OKRの考え方が組み込まれているんですね。
加藤 はい。私たちはViva Goalsを単なるOKRの目的管理ツールとは捉えておらず、「人ありき」でEXジャーニーを回す核だと考えているからです。
 ハイブリッドワークが主流になり、価値観が大きく変化している今の時代、従業員は「なぜこの会社で働くのか」「この会社で何を達成できるのか」を考えるようになりました。
 経営層はパーパス経営で組織の結びつきを高めようとしています。しかし、実際にそれが従業員に届いていなかったりして、そのギャップが課題を生んでいます。トップダウンでは企業の目指すところを伝え切れないからこそ、双方向のコミュニケーションが求められます。
 OKRのViva Goalsなら、企業、チーム、個人が足並みを揃えて、目標に向かう世界をつくれる。そんなきっかけになればいいなと思います。
ピョートル 加藤さんの言うように、キーワードは「双方向性」です。KPIは会話がなくても、目標を次のレイヤーへと次々と渡していけばいい。
 それに対して、OKRでは会話や対話を重視するので、そこでさまざまな付加価値を生み出します。個人のキャリアプランのゴールも考えるし、個人の理想を実現するために会社から求められていることを理解することも必要です。
 もちろん、会社のパフォーマンスを測る指標は多いほうがいい。だから、KPIとOKRを並行して使うこともありでしょう。ただ、KPIは個人のゴールというよりは、会社の目標なのだと思います。

成果を生み出すチームは社会起点で考える

──OKRは会社の成長がそのまま個人の成長にもリンクするから、EXの向上にも役立つということでしょうか。
加藤 今従業員が求めているのは、組織のクラリティ(明快さ)です。「組織が何をやりたいのか」「マネジメントは何をしようとしているのか」。そこを理解した上で、自分たちがどう動くかを考えたいと思っています。特にZ世代、私もそのひとりですが、その傾向がとても強いと感じますね。
 複雑なビジネス環境は、自分たちの行動と結果の紐付きを見えづらくしています。OKRでそこをクリアにし、ストレッチゴールを達成する。それもエンゲージメントを高める要素になっています。
ピョートル OKRのプライオリティは、まさに従業員のエンゲージメントを創り、育成することです。さらにビジョンへのコミュニケーションを深めて、チームや周囲との関係も構築できます。総合的に考えて、OKRのメリットは非常に多くあります。
 成果を生み出す強いチームは、社会起点で考えるチームです。会社の中で自分はどうしたいのか、この仕事を通じて社会にどんなインパクトを与えたいのか──。
 加藤さんもおっしゃるように、社会の動きや誰がどんな影響を与えるかに敏感な世代が、そういう強いチーム創りに果たす役割は大きいのだと思いますね。

毎日使うから、気付く、話せる

──OKRは毎週、状況を確認してフィードバックするとしていますが、それをTeamsに組み込むことで、具体的にどのような効果があるのでしょう。
加藤 みなさん、普段から多くのツールを業務で使いこなしていますよね。個別最適化しているつもりでも、別々のアプリケーションを使うことで、トータルでは言語もロジックもデータポイントもバラバラになってしまいます。
 便利なソリューションを使っているはずなのに、かえって効率が落ちたり、管理が大変になってしまう。そういうさまざまな課題を「Teamsですべて完結させる」世界観を私たちは目指しています。
Teams上でOKRを設定(画像:マイクロソフト提供)
 日々の業務で使うTeams上にOKRを設定することで、自動的に進捗を確認し、スピーディに方針を立てられる。Microsoft365 ユーザーは、Excelから数値を自動インプットしてプロジェクトやタスクの管理をするなど、工数を圧倒的に減らせます。
 Vivaは単体のマネジメントツールではなく、従業員のエンパワーメントを軸に展開していますが、複数のモジュールがそれぞれ連携することで価値を最大化していきます。例えば、今後、実装されるPeople in Vivaでは、Viva GoalsのOKRのデータを活用し、組織における人の情報をプロファイル、可視化していきます。
ピョートル 毎日使うTeamsにしっかり組み込まれているのは、非常に便利ですね。KPIやMBOは四半期、半年、1年ベースで進捗を確認しますが、OKRは毎週細かく状況を確認して、日常業務と目標を常に連動していきます。それがTeamsにあることでチームでの会話も増え、日々の業務でOKRが意識できますし、目標達成への意欲の刺激にもなりそうです。
加藤 そうなんです。小さいことですが、アプリケーションを切り替えるのは、手間がかかるもの。ひとつのツールの中で、チャットもできるし、OKRも測定するので、そういった不要なストレスを解消することができます。

OKRをどう組み立てるか

──会社によっては、OKRが評価に結びつくケースもあると思います。120%のムーンショットに対しては50%の達成でも、それを100%の目標値に置き換えると70%、80%達成できていたりする。そういう数字の捉え方に違和感を覚えたりしないのでしょうか。
ピョートル それを解決するひとつの答えは、プロセスをどのように見ていくか、にあります。OKRはプロセスをかなり細かく管理するツールです。
 OKRを決めたら、それに沿って「先週はどうだったのか?」「今日は何をして、今週は何をするのか?」「課題があったときはそれをどうするか? OKRを修正する必要があるのか?」……そういう会話がOKRをベースにずっと続いていきます。
 このようにすべてのプロセスでOKRにもとづいて細かな会話を繰り返すことで、目標への達成率をどう捉えるかという問題は解決できると思います。
加藤 ピョートルさんが言うように、最初からすべてをOKRにする必要はありませんが、ビジネスの根幹となるプロセスをOKRで会話しながら進行することは、すごく大事なポイントになってきますね。
「OKRをどう組み立てていくべきか」についてのピョートルさんのご意見もぜひうかがっておきたいです。
ピョートル 場合にもよりますが、今、会社が改革を目指しているのであれば、会社の方向性のOKRをつくってから、組織、個人のOKRを立てるほうがいいでしょう。そのほうが、「何を目指しているのか」「大切なのは何か」「自分のOKRは何に紐付いていくのか」がわかりやすくなります。
 もちろん、個人のすべてのOKRが会社のOKRに紐付かないこともあります。ただ、会社のビジョン、ミッション、パーパス、OKRに紐付いた仕事をしていなければ、この会社で自分が社会貢献できていると実感することは難しいでしょうね。
 ここで言う社会貢献とは「会社の存在意義」のこと。社会にインフラを提供する、雇用を生み出す、人々を楽しませる。そういうことを通して、会社、そして社員が誰かを幸せにしている、誰かの安全を守っているという感覚を持てることが重要です。
加藤 個人的な話ですが、私がMicrosoftで働いているのも、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」という企業ミッションへの共感にあります。
 私は自己実現と社会貢献という2軸を大切にしていて、そのふたつが会社のミッションに紐付いている。だから、今の仕事にやりがいも楽しさも感じることができています。そういう紐付けができるかどうかで、働き方がかなり変わってくるでしょうね。
ピョートル OKRは会社のパーパスやミッション、戦略と、個人のキャリアや自己実現、社会貢献を結びつける役割を果たします。特に社会貢献という観点では、OKRを土台にしてすべてのステークホルダーをつないでいきます。

個人が働く意義「自分らしさ」を追求できる組織へ

ピョートル OKRは、人が望むもの、つまり自分らしさを追求することにフォーカスする仕組みです。本当に自分が望む働き方や社会的承認、楽しさを実現し、働く時間を自分にとって意義のある時間にしていくものなのです。
加藤 マズローの5段階欲求を従業員ニーズの充足項目にアレンジすると、下から給与、福利厚生、一緒に働く人々、働くことへのプライド、そして働くパーパスになります。
従業員ニーズの充足階層(画像:マイクロソフト提供)
 特に上位の部分については、組織と従業員がどこまで一緒に取り組めるかがポイントになります。そのためにVisaが提供する9つのモジュールを介することで、会社とのつながりを感じて、個人のモチベーションを上げてもらいたいですね。
ピョートル 日本では、働くことに犠牲者精神を持つ人も多いですが、働く意味を見出せるかどうかは考え方次第。楽しく仕事をするんだという自分の「決め」の問題だし、そう切り替えられるのが成長志向ということだと思います。
加藤 本人が働くプライドを持てるよう、組織がどう支援していくかということも求められていると思います。コミュニケーションやコネクション、コラボレーション……。
 そういった多角的な視点から、さまざまなツールを活用することで、それらを実現していく。そのひとつの選択肢がVivaであり、OKRのViva Goalsであればこれ以上嬉しいことはありません。